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さざなみダイアリー③

子供の頃、春になると生活のいたるところで発見される真っ黒でチクチクした毛虫が嫌いだった。アザミを摘もうとしたら茎の部分にヨチヨチ登っているし、物干し竿や玄関なんかにも気づけばくっついていた。げんなりするほど大発生して道路の上をたくさんの毛虫が横断するようになる。足元で見かけたと思ったら、目線を30センチそらした先でもヨチヨチやっているほどなので、車にぺちゃんこにされるかわいそうなヤツも少なくない。夏には毛虫に負けないくらいのカエルが道路にあふれ出す。これまたぺちゃんこになって夏の日差しで干からびて道路に散りばめられているのを見ると、目も当てられない気持ちになる。

毛虫もカエルも好きではないけど哀れには思っていたので、車で轢いていく無情な大人たちをじとーっとした目で見ていたけれど、大人になって車に乗るようになって、避けようと思う気持ちを上回る数が道路を横断していると判明し、これはもう仕方ないなと思うようになった。ひとつを避けた先に次のがヨチヨチしているのだから。カエルなんて飛び込んでくるのでジャンプの間隔と速度まで先読みしないといけない。マリオになってクッパ城へ向かうような緊張感、油断してるとこちらが大事故だ。今では「すまん!」と祈りながら、路上の彼らには成仏してもらっている。

春から通ってる長島のクネクネな山道には小さなカニたちが現れる。海沿いの生態系にときめき、新鮮な気持ちになりつつも、殺生しない心意気だけ持って、えい!と車を走らせるけど、時々助手席にいる森山さんが、口うるさく私の無情さを訴えてくるのはわずらわしい。森山さんだって、彼の車の小さなクモたちを「守り神」と呼んでおきながら、私の膝を歩くクモをピンッとデコピンして吹っ飛ばしていたので、どの口が…と思ったのはここだけの話。

長島は森林に覆われていて緑が深いので、そんな道に現れるのはカニだけではない。子連れのイノシシと大きな角を持ったシカが出るのだ。あまりに頻度が高く、まるでモニュメントのように道路脇にいる。そしてもちろん彼らは大きな身体で道路を横切るので、私は毛虫やカエルになった気分で毎日せっせと道路を移動している。

「サウダーヂな夜」という変わったカフェバーで創刊された「週刊私自身」がいつの間にか私の代名詞。岡山でひっそりといつも自分のことばかり書いてます。