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ハナバチの飛行

どうやってそこに行こうか考えていると
ちょうど
ハナバチが寝ているのに気がついた

暖かい陽の光のなか
彼女はぐっすり寝ているようで
しばらく見ていても
柔らかいベッドからは動きそうではなかった

僕はそっと近づいて
花びらの一つに腰かけた

彼女はもぞもぞと身を動かして
そのたくさんの眼で僕を見つめた
蜂の巣の形をしたセルの一つ一つには
明るい花びらを背景に影のような僕が映っている

ごめん
小川の向こうに連れて行ってくれないかな?

どう見ても眠そうで申し訳なかったが
彼女に頼むこと以外には何も思いつかなかった

前から順に3つの脚を交代で伸ばしたあと
彼女は軽く身体を傾けた

ありがとう

僕は
羽ばたきの邪魔にならないように彼女の背に乗り
彼女は
わずかなホバリングの後
西に向かった

小川をまたぎ
花畑が見えてきた

花畑の中には青い屋根の家がある
その玄関に降ろしてもらい
お礼を言うと
彼女は花を選んで再び眠りについた

*****

玄関から入って一番奥の部屋にベッドが置いてある

そこには僕を失った彼女がいて
うつ伏せで横たわっている

花畑を揺らす風の音が聞こえる

僕は
静かに近づいて

ハナバチの花粉を
そっと彼女の髪につけた