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【連作短歌】ありふれた夜のために

 *「生まれてこなければよかった」と叫ぶすべての魂に、この連作を捧げます。

新月の闇から闇へ谺(こだま)する無邪気な夢魔の宣戦布告

まなうらの水晶宮の奥深く誰もが孤独な王となる夜

眠ってる星の記憶を辿りつつわたしを使役する電子音

星と星ゆき逢う宙(そら)をつきぬけて無数のノイズ君のシグナル

彗星とすれ違うとき完璧な夜をまっぷたつに裂くベルが

世界征服と世界平和の微差を問う声ひそやかに睡蓮の朝

地下鉄が唸る誰もがざらついた憂鬱を飼い馴らす火曜の

いつか来るその日を医師は真っ直ぐに指さずくるくる遠回りして

横なぐりの突風そらも壁面も床も雪崩れてキュビズムの午後

指先の皹(ひび)からにじむ血の真紅(あか)をわたしの遺伝子が叫んでる

虚空へと蹄の音は消えてゆく雷雲そして驟雨の使者よ

狂詩曲(ラプソディ)はしゃぎつかれて眠る雨、それから虹を奏でるひかり

空腹を電子レンジであたためて仄かな湯気がみちる暗室

痛覚が散らばる部屋に閉ざされて見えない鎖、溶けゆく薬

自爆テロ/萌え絵/飯テロ/液晶の同じ窓から飛び込んでくる

病む人に病む人々に病む世界誰のレンズも薄く歪んで

忘れられた歌の欠片を流してる棄てられてゆく世界の岸へ

狂いだせ薔薇、雪、ピエロ、わたしたち諦めることに慣れてしまった

積み上げた煉瓦を崩しまた積んで それぞれの島 それぞれの宇宙

あるときはあなたも迫害する側にいて取り分けるずたずたの肉片

わたしたちが命をやり取りした海にパフェの写真が浮かんで消える

叫ぶように、ささやくように、海の底いくつものSOSながれ

(あなたのようなひとが生まれてこなければよかったなんてそんなはずないのに)

こんなにも遥かな場所で泣き叫ぶあなたのために世界は産まれた

神の名を呼べないままの黄昏を蹴飛ばしてゆけ蒲公英(たんぽぽ)の道

一粒の麦に誰かが選ばれて その死の果ての黄金(きん)いろの初夏

国境のアイスブルーの海をゆく少年人魚の鱗が揺れる

遠いほど祈りは届く(届かない詩は吹き消して)ありふれた夜(よる)に

文字になる前に薄れた感情のひとつひとつに風の墓碑銘(エピタフ)

交信はすべてがゼロになる日まで続くわたしたちの闇夜から


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