マガジンのカバー画像

コンテクストデザイン

18
コンテクストとデザインについて考えています。まだ途中ですが、これはその断片です。
運営しているクリエイター

#デザイン

「つくる」はどこからはじまるか──足かせ、模倣、つくらないこと

「つくる」はどこからはじまるか──足かせ、模倣、つくらないこと

誰に乞われずともものをつくる人もいれば、表現に憧れや苦手意識を持ってその一歩を踏み出せない人もいる。この違いは、どこからくるのでしょうか。

自らを「表現者からは遠い」とみなしている人とともに、表現について考えて、手を動かす。 2023年3月、「つくるとつくらないのあわい──非表現者のための表現ガイド」と銘打った社会人向けの連続講義・ワークショップの最初のシーズンを終えました。

「非表現者のため

もっとみる
数字と物語②──群と個、あるいは操縦士の眼差し

数字と物語②──群と個、あるいは操縦士の眼差し

「数字と物語」を色々のレンズ越しに眺めてみたい。もとは芸術と技術、自然科学と人文科学、論理と直観、有用性の問題の切り口を思い浮かべていたが、今日は少し迂回して、サン=テグジュペリの『人間の土地』で描かれている言葉をたよりに、これを考えてみたい。

『人間の土地』の冒頭に、「地理学者」と「操縦士」の眼差しの対比、とでもいえるモチーフを覗き見ることができる。一般的な知と個別の感覚、または「群」と「個」

もっとみる
数字と物語①──再現性と一回性の波打ち際

数字と物語①──再現性と一回性の波打ち際

「はかどる」と「はかない」「はかどる」と「はかない」──それぞれ「仕事の効率」と「無常の美意識」に紐づくふたつの言葉は、実は「はか」というおなじ概念でつながっている。

はか、という言葉を辞書で調べてみると、「時間に応じた、仕事の進みぐあい」とある。もとは稲を植えたり刈ったりするときの田んぼの一区画のことをいったそうだ。どれだけの米がとれるのか、どれだけ能率的か。「はか」は、なにかを「量る」ことを

もっとみる
なぜ時間を測ることのできない砂時計をつくるのか

なぜ時間を測ることのできない砂時計をつくるのか

私は砂時計を扱う展示会を開きたいと、かねてから考えていた。

時間を測ることのできない、いわば「用のない」砂時計──。一見無用の、不要のものに思えるだろう。でもあらかじめきまった用途がないからこそ、使い手ごとに豊かなコンテクストが生じることを期待したい。

数人にこの砂時計を渡す。時計には決まった使い方は定められていない。Inscriptus はラテン語で「書かれていない」を意味する。この時計を思

もっとみる
露出過多と「意味のイノベーション」

露出過多と「意味のイノベーション」

イノベーションに求められることは、人が見いだす価値の「意味」を変革することだ。いま、ろうそくは光源ではなくむしろ「暗源」となり、電球よりも暗闇のある時間をつくっているように──。ロベルト・ヴェルガンティ教授の「意味のイノベーション」はTakramでのものづくりと共鳴する部分がある。特に一冊だけの本屋「森岡書店」や花と手紙のギフト「FLORIOGRAPHY」など。

2018年前半は、TakramC

もっとみる
「意味のイノベーション」 TEDxプレゼンの日本語訳

「意味のイノベーション」 TEDxプレゼンの日本語訳

デザインとその周辺を扱うポッドキャストTakramCastでロベルト・ベルガンティ教授の「意味のイノベーション」をテーマに収録をしたところ、Twitter上でちょっとした反響がありました。

イノベーションプロジェクトではよく「デザイン思考」が用いられますが、それだけでは片手落ちです。ときによって「意味のイノベーション」を使ったり、両者の要素を組み合わせたりしていきたい。実際、欧州委員会ではこの二

もっとみる
Message Soap, in timeの強い文脈、弱い文脈

Message Soap, in timeの強い文脈、弱い文脈

「強い文脈、弱い文脈」の枠組みを通して、前回は一冊だけの本屋、森岡書店のことを考えた。

文脈の強弱はあくまで相対的なものだ。次の例として、向田麻衣さんという人物の活動を取り上げ、その文脈の強弱を(私の解釈や想像も少し交えて)考える。なお別項にあるように、Takramは向田麻衣さん率いるLalitpurとともに「Message Soap, in time」というプロダクトを手がけている。石けんのな

もっとみる
森岡書店の「強い文脈」、「弱い文脈」

森岡書店の「強い文脈」、「弱い文脈」

■森岡書店のこと

森岡書店 銀座店は、一冊だけの本を扱う、一室だけの小さな書店だ。店主は森岡督行さん。Takramもいろいろな形で関わっているが、お店のオープンにあたり、まずロゴデザインとブランドスローガンを制作した。

森岡書店は、一冊だけの書店です。
一冊だからこそ、解釈はより深く。
森岡書店は、一室の小さな書店です。
一室だからこそ、対話はより密に。
一冊、一室。
森岡書店。

森岡書店に

もっとみる
Message Soap, in time ― いつ届くかわからない手紙

Message Soap, in time ― いつ届くかわからない手紙

これはいつ届くか、ほんとうに届くかも分からない手紙だ。いたずらや賭けにも近い。曖昧で、投瓶通信のように頼りないメッセージだからこそ、ちょっと思い切った気持ちで本音を伝えられるのかもしれない。

蝋で閉じられた封筒型の箱を差し出す。開くと、一見普通のフェイス&ボディソープが入っている。泡立ちがいいから毎日使ってと手渡す。

受け手はひと月ほど経ったある夜、角が丸く溶けた石けんのなかから、うっすら

もっとみる
コンテクストデザインとは

コンテクストデザインとは

コンテクストデザインとは、それに触れた一人ひとりからそれぞれの「ものがたり」が生まれるような「ものづくり」の取り組みや現象を指す。換言するならば、読み手の主体的な関わりと多義的な解釈が表出することを、書き手が意図した創作活動だ。

もともと現代的なデザインは産業革命以降の大量生産・大量消費を背景に成長してきた。それは、特定の使い手を一意に想定し、特定の問題を解決するためのものだ。

デザインはふつ

もっとみる
語ること、語り直すこと

語ること、語り直すこと

うわさアメリカのイラストレーター、ノーマン・ロックウェルの絵に「うわさ」というものがある。

絵はマンガのように左上から始まり右下へ。黒革の手袋の女性が、どこかで聞いた話を別の女性に伝えている。するとその女性もまた次の人へうわさをリレーする。途中で電話を介している(実際に対面していないのに目線があっているようで愉快)。途中で会話を盗み聞きしている人。そこからどうやら非常に声の大きい人の耳に入ると、

もっとみる