カズオイシグロをめぐる、しむちょんとの対話

前のノート、(初めはFacebookに投稿しているのだが)、ジョン・バンヴィルについて書く中で、カズオイシグロについて言及したところ、読書人生師匠のしむちょんこと志村浩二君が反応してくれて、面白いやりとりになったので、記録のためにアップしておこう。今、きちんと書こうとしているカズオイシグロ論の要旨、のような形になっています。


私の投稿の一部抜粋

「人生の後半、終わりちょっと手前に来た時に、若い時の恋愛を思い出し、それをもう一度考えることと、自分の現在の境遇を考えることが交錯する中で、何かが起きる。だったり、何かを知る。

 ジュリアン・バーンズの『終わりの感覚』も、カズオイシグロ、イアン・マキューアンの多くの重要作品にもこうした構造のものがたくさんある。そういう文学が評価されて、ブッカー賞を受賞するわけです。この点、日本の「本屋大賞」を支える読者層というのは、もっと若い世代なかんじがしますよね。

 こうした小説家の、作品群がそうした構造を取る以上、「記憶」というものが大変重要になってくるので、カズオイシグロも「記憶をテーマにした作家である」みたいな言われ方をするわけです。また、より大きな言い方として「記憶の問題は現代文学主要テーマである」みたいな言われ方もするわけです。これについては、僕はちょっと不満というか反論があるのですが。それはいつかどこかで書きます。(カズオイシグロの特異性というのは、ものすごく若いときから、「人生の終わり近くの後悔」を、ものすごく先回りして心配する小説ばかり書いてきた、ということなのです。「記憶」はそのための通過せざるを得ない要素であって、中心テーマではない、と思うわけです。)」

これに対して

志村浩二

あーっ、なるほど、カズオイシグロの特異性。「人生の終わり近くの後悔」を、先回りして心配する、、、その言葉で心臓がドッキュンドッキュンと、今なってます。記憶が現代文学の主要テーマである、ってことについての原くんの考察、読みたいです。いつかよろしくお願いします。

原 正樹
うん、今思いついたので、忘れないうちに書いておこう。しむちょん、ありがとう。「記憶が主要テーマ」というのは間違っていて、「記憶があいまいであることに正直である、という態度が、現代の世界文学において前面に出てきた」そして「記憶があいまいである、自己正当化のために記憶は無意識に改竄される」ということをひとつの「文学的装置」としておくと、物語の構造がダイナミックになって面白くなりやすい。ということを、このイギリス・アイルランドのほぼ同世代の小説家たちは、さかんに活用している。ということだと思うわけです。それは「テーマ」ではなくて、「装置」だと思うわけ。そこを通じて浮かび上がるのは、それは、作家によってそれぞれ異なるテーマなわけで。

だから、カズオイシグロについて、「彼は記憶について書いている小説家である」って言って、カズオイシグロをわかったことにするっていうのは、大間違いだと思うのだよね。

 「人生の失敗をあらかじめ心配する作家」というほうが、はるかに正確だと思うわけ。
「何に失敗すること」を恐れているのか、がテーマなわけです。つまり。

志村 浩二
ははー、記憶が「テーマ」ではなく「装置」
なるほど、すごーくよくわかりました。そう考えると作家によってテーマはいろいろな訳で、、、う〜ん、なるほど、整理つけやすいです。ありがとうございます!
「何に失敗すること」を恐れているのか、がテーマ。
ははー! ズバーッとよくわかります!

原 正樹
でしょ。そう考えると、『私を離さないで』と『忘れられた巨人』が、ひとつの、同じテーマで書かれた小説なのかっていうのが、すごくよくわかるわけ。
 ふたつの小説の最終盤は、ほとんど同じことを言っているんだよね。
何を望み、何をおそれているか、同じことを望み、同じことをおそれているの。ふたつの小説の主人公は。

志村 浩二
 あーー、そうか、その通りですね!わかったふうでモヤモヤしてたものが、整理つきました。何だかすごく頭よくなった気分。ありがとうございます!

原 正樹
 このことを話して、「ああーっ」てわかってくれる友人を持つことの、なんと幸せなことか。読書も、文学について考えることも、基本的に、非常に、孤独な営みなわけですが、話し合える友がいるという、人生の幸運を神様に感謝。

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原 正樹

引退間近のマーケティング屋。読書と思索とギター弾きと世界のスポーツ観戦だけのリタイア生活に移行計画中。 2019年は、ちゃんとものを書いていきます。の、つもり。

読書家ノート

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