水鉄砲

僕が幼少の頃、一緒にお風呂に入った父親はきまって浴槽で水鉄砲をやってくれた。
「水鉄砲」とは、両方の手のひらに少しくぼみを作って水を含ませ、それを一気に押し込んで水を発射する、なんというかよく小学生がプールでよくやる遊びだ。

幼心にも父親が発射する鉄砲の勢いは凄まじく、感嘆としたものだ。
勢いよく撃ちだして向かい側の壁に当ててはすごい音を立てていた。
僕は浴槽で何度も父親の真似をしてはどこにも飛ばない鉄砲を撃った。
父親はそれを見て「まだまだ駄目だな~」とよく笑っていた。
そのあとによく父の背中を洗った。
大きい背中は僕が洗うには広すぎて洗い終える頃にはすっかり疲れ果てた記憶がある。

最近疲れが溜まっているせいか、一人暮らしの備え付けの浴槽によく湯を溜める。湯船に浸かるとふと父親の水鉄砲を思い出す。
昔を思い出して鉄砲を撃ってみるが、まるであの時見た勢いはない。
僕の水鉄砲が下手なままなのか。それとも僕が大人になってしまってあの時の感覚を忘れてしまったのか。
どちらにせよ幼少時のように僕が水鉄砲に感動することはもうないのだろう。同時にいろいろなことを考えてしまう。

父の背中はまだあの時のように大きいままだろうか。
僕は確かめたくない。あの時の水鉄砲のように曖昧でいてほしい。

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わたなべ

取り留めもない
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