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偽者現る!

本作はFF14の二次創作です。

 有名人を騙る偽者が現れるのはよくあることだ。それは光の戦士とて例外ではない。

「わたくしの偽者、ですか?」

 オールドシャーレアンに立ち寄った時、光の戦士はタタルからそれを知らされた。

「ウェーべライトさんだけではありません。アルフィノさんとアリゼーさんの偽者も一緒なのでっす」
「被害はいかほどに?」
「偽者達は詐欺師としては三流だったらしく、すぐに正体がバレてまだ、被害は出ていませんでっす」
「とは言え、放置はできませんね」
「偽者達の動向はわかっているでっす」

 タタルは極めて多才だ。タタルの情報収集能力は高く、光の戦士はイシュガルドで竜詩戦争の解決に動いていた時に何度も助けられた。

「偽者達は今はこの地域にいます」
「ここはアイレスバロウ家が所有する建物の近くですね」
「そうなのでっすか?」
「ええ。家事訓練用の屋敷です。懐かしいですね、わたくしもここでメイドとしての技術を身に着けました」

 アイレスバロウ家は孤児を保護し、独り立ちできるように使用人や冒険者としての訓練を施している。光の戦士もそんな孤児達の一人だった。

「ふむ、偽者達と捕まえる作戦を思いつきました。タタル様、あとはわたくしにお任せください」
「わかりまっした」
「ええ、今回はアイレスバロウ家の力を借ります」

 作戦自体はシンプルだだ。
 偽者達に依頼があると言って彼らをアイレスバロウ家の訓練用屋敷に誘導し、そこで捕縛する。
 作戦決行の日、光の戦士はいつものメイド服を着ていなかった。爽やかな色合いのワンピースを身にまとい、一見すると良家の令嬢のように見える。偽者達に自分が本物の光の戦士だと悟られないためだ。


「すごく綺麗だよ姉さん」
「うん。いつもと違う服装が見れてラッキーだね」

 そんなふうに褒めちぎるのは光の戦士の弟分であるウィリアムと妹分のウェンディーだ。
 ウィリアムはミコッテの男で、ウェンディーはアウラの女だ。二人とも光の戦士と血の繋がりはないが、年長として面倒を見ていたらとても懐かれた。今では半ば押しかけるような形で光の戦士のリテイナーをしている。
 今回は光の戦士が良家の令嬢に扮装するということで、その使用人役として二人に協力を求めた。

「それでは二人とも、よろしくお願いいたします」
「もちろん!」
「ええ、絶対に偽者をとっちめてやりましょ!」

 3人はチョコボキャリッジに乗って偽物がいる町へと向かった。
 偽者達はすぐに見つかる。

「もし、そこのお方。もしかしてあなた様は噂に名高い光の戦士様では?」

 光の戦士はメイド服を着たミコッテに話しかける。

「ああそうさ! アタイこそ、この星を救った英雄、光の戦士ことウェーべライト・アイレスバロウさ!」

 偽者は自信満々に名乗った。

「ふざけやがって。姉さんはあんなガサツな人じゃない」
「捕まえたら生まれたことを後悔させてあげるわ」

 ウィリアムとウェンディが物騒な事をこっそりと呟くが光の戦士は聞かなかったことにした。

「そちらのお二人は、もしかしてアルフィノ様とアリゼー様ですか?」
「おう、そうとも!」
「よく知ってるな!」

 が言う。

「俺様こそ! 暁の血盟のリーダー、アルフィノ・ルヴェユールだぜ!」

 偽アルフィノは光の戦士に肉体美を誇ってみせた。

「そしてこの俺が! アルフィノの、アリゼーだ!」

 偽アリゼーは光の戦士に肉体美を誇ってみせた。
 光の戦士は真顔になった。
 偽光の戦士はともかく、アルフィノとアリゼーの偽者は名を騙るにしてはあまりに理解度が粗末だった。アルフィノとアリゼーが愛用していた服のレプリカを手に入れているようだが、大柄なルガディンのサイズに合っていないせいでピッチピチのパッツパツだった。

 特にアリゼーに至っては本当は女性なのに男だと勘違いしている有様だ。  
 こういうわけで、偽者達が詐欺行為を働こうとしても即座に看破されて失敗していたのだ。
 タタルからの情報によれば、偽光の戦士の本名はニセ・モンノー、アルフィノとアリゼーの偽者は、ミギー・バッタモンとヒダリー・バッタモンという。

「わたくしは町から少し離れたところにある屋敷の娘です。お三方にどうしても受けていただきたい依頼があります。もし受けていただけるのなら、報酬は全額前払いをお約束します」
「ふむ、言ってみな」

 ニセの目が鋭く光る。食いついた。

「詳しくは屋敷でお話します。どうかご同行願います」
「良いとも! お前たちもいいよな?」
「ああ!」
「もちろんだぜ! 姉御!」

 ひとまず作戦の第1段階は成功した。
 偽者達をチョコボキャリッジにのせ、訓練用屋敷へと向かう。
 すると道中でクァールと出くわした。光の戦士はもちろんのこと、冒険者として訓練を受けているウィリアムとウェンディにとってさほど強敵ではない。
 だが今はあくまで良家のご令嬢とその使用人を装っているのだ。迂闊に戦えば偽者たちが不審に思う。

「安心しな! あんなヤツ、アタイらがけちょんけちょんにのしてやんよ」

 偽者達は意気揚々ととびだしてクァールに戦いを挑んだ。
 が、しかし。

「つ、強ぇ……」
「こんなやつがこの世にいるなんて……」
「アルフィノ! アリゼー! 歯ぁくいしばれ! アタイ達は光の戦士と暁なんだよ!」

 そんな偽者達の死闘を見守っていると、ウィリアムとウェンディが静かに呟く。

「詐欺師にしては随分根性があるな」
「よっぽど報酬が欲しいんじゃないの? 全額前払いって言ったから」

 光の戦士はウィリアムとウェンディの会話を黙って聞きながら偽者達を見る。

「……」
 
 程なくして偽者達はどうにかクァールを倒した。

「いやぁ、なかなかの強敵だったね。あのゼノスに匹敵するほどだったよ」
「素晴らしい戦いぶりでした。守っていただき、ありがとうございます」
 
 光の戦士が社交辞令的に礼を言うと、ニセは微かに恥じ入るように目をそらした。
 それから小一時間ほど経った後、チョコボキャリッジは目的地にたどり着く。

「はぇー、立派な屋敷だねえ……こりゃ報酬も期待が……」

 ニセが屋敷を見上げていると、玄関扉が開け放たれて中から何人もの武装した執事とメイド達が現れる。

「え? 何? 何なの?」
「あああ、姉御! これ、やばい奴じゃ」
「に、逃げよう!」

 逃げようとする偽者達の前に、光の戦士が立ちはだかる。

「騙してしまって申し訳ありません。わたくしはあなた達を捕まえるために近づきました」

 使用人達が偽者達を取り囲む。

「やつらがウェーべライトさんの名前を騙る偽者だ!」
「良くもウェーべライトさんの名誉を穢したわね!」
「生まれてきたことを後悔させてやれ!」

 皆、殺気だっていた。

「ひ、ひええええ!!」
 
 偽者達はすぐさま捕縛された。

「こいつらは我らアイレスバロウ家の英雄の名前を騙った! どうすべきか!?」
「両手両足の爪を剥げ!」
「足りないわ! 石抱き刑も追加よ!」
「〆は火炙りだ! グリダニア式とイシュガルド式、どっちにする?」

 読者諸兄には断っておくが、アイレスバロウ家の出身者は常に冷静で上品な振る舞いをするよう教育されており、本来ならばこのような終末的治安最悪思考にはならない。
 しかし光の戦士はアイレスバロウ家で絶大な人望を得ているがゆえに、彼女の名誉を損なう者が現れた時に、彼らは感情的になってしまうのだ。
 怒りに燃える使用人達に偽者達はすっかり怯えていた。特にミギーとヒダリーに至っては恐怖のあまり泡を吹いて失神してしまう。

「皆さん、おまちください」

 光の戦士が言うと、皆が一斉に静まる。

「あ、アンタは一体何者なんだ?」
「わたくしはウェーべライト・アイレスバロウと申します」
「ほ、本物!」

 ニセが息を呑み、顔が青ざめる。

「さきほどクァールに襲われた時、あなた達は本気でわたくし達を守ろうとして戦っているように見受けられました。そのような心を持つ方が、なぜわたくしの名を騙ったのですか?」
「言うわけ無いだろう」

 ニセはぶすっとした顔で目をそらす。
 その時、光の戦士はめまいを感じた。光の戦士に宿る過去視の能力が発動したのだ。
 

「ごほっ、ごほっ、ごめんねお姉ちゃん、病気になって」
「謝ること無いよ! アンタはなんも悪くないんだ。大丈夫、姉ちゃんにまかせな。冒険者になってバリバリ稼いで、薬を買ってやるからな」

「……なるほど、病気になってしまった妹様のためでしたか」
「ど、どうしてそれを!?」
「わたくしは時々、過去の出来事が見えてしまうのです」

 ニセは観念したかのように口を開く。

「しかた無いだろう。幼い頃、ガレマールのクソどもに親を殺されたアタイは学がないから、まともな職にはつけない。大金を稼ぐには冒険者になるしかなかった。でも、アタイは冒険者としても三流だったから、あんたの名前を利用して割の良い仕事を手に入れるしかなかったんだ」
「仲間の二人はその事をご存知で?」
「ああ、そうだ。アタイの妹のために詐欺の片棒を担いでくれた。アタイと同じ学のない三流の冒険者なのに、人情だけは人一倍あってね」
「ふむ」
「な、なあ、報いは全部アタシが受けるからミギーとヒダリーは勘弁してやってくれよ。二人は人の良さをアタイに利用されただけなんだ」
「わかりました」

 光の戦士は周囲の者たちを見渡しながら言う。

「わたくしはこの方達にアイレスバロウ家で職業訓練して頂こうと思います。職につながる教養と技術があれば、犯罪に手を染める必要はないでしょう。それとニセの妹様が適切な治療を受けられるように手配を」

 光の戦士の言葉に異論なかった。アイレスバロウ家の使用人たちから殺気が消える。

「そんな、どうして……」
「まだ実害はありませんから。その代わり、二度と道を外すようなことはしないと誓ってもらいます」
「……ありがとう」

 ニセの瞳から一滴の涙がこぼれ落ちた。
 それからアイレスバロウ家の手配により、ニセの妹は無事に快癒した。
 そしてニセ、ミギー、ヒダリーは使用人としての技術を学ぶべく、徹底的にしごかれることになるのだが、真っ当な人生を歩き始めた3人は生き生きとしていた。

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