君は僕の最後の女の子23

青年の皮膚にも体にもまるで死の気配などなかった。でも一点だけ致命傷があった。それは肩に眠るトカゲ。それが彼の行く末の担い手で、抗えない運命へと押しやっているようだった。彼はそれを引っ掻いてかき消そうとしてるかのようだった。

よく見ると、腕にも暗い兆候があった。

その事についてはここでは語らない。


彼はニコニコしていた。初夏の風と草いきれがムッと立ち込める中で私は何か変だとしか言いようのない気分になり彼から目を逸らした。暗い茂みの中で彼はそれを感じ取ったのだろうか?でも私は今だった。彼は眩しく、笑顔と共に私は彼の肩や腕が急に気になったのだった。血管が浮き出ていて、でも笑顔とはうってかわって暗かった。そして目線は徐々に首元や胸、口元へと勝手に移動する。
「気持ち悪い」
そう言われる、
そうでなければ、
彼はじっとこっちを見ていた。
「おいで。」
と彼は言った。こんなに近くにいるのにもっと近寄るなんてできない。私はでも一歩だけ前に出た。
「ねえ。」
私は聞いた。初めて聞いた。
「これってなに?」
私は肩にいるトカゲについて聞いた。
彼は何も答えず、変わらず笑顔のまま黙っていた。
もう一度聞こうと思ってやめた。口は動こうとして、彼の肩を少しだけ強張らせる仕草が私を制した。多分これは一生聞けない。
そのかわり彼は答えた。
「君は虐待を受けているんじゃないの?」
と。まるでそれは彼の肩を聞かれたお返しのようだった。でもそれが本当は答えだったと思う。
私は首を振った。
「じゃあ言い方を変えようか。君は、躾だと言って、どこか見えない場所をたたかれている。」
私は観念して答えた。
「蹴られてる」
「すれ違い様に、気を抜いた隙にだろ。」
彼を見ると、彼はじっと私を見返した。目を逸らしたら、彼もまるで、目を合わせるのが辛いから目線を外すように、目を逸らした。
「そういう人って、人に体を触れられるのを怖がるんだって。」
そういえば何度かそんなことを聞いて、泣きそうになって事がある。でも今はそれよりももっと怖い事がある。肩に手を伸ばしてきた彼から私は素早く離れた。
「ごめん」
彼は言った。
「僕がそうだったから、こうすると落ち着いたからやってあげたかった。」
私は泣いたからもう涙は出なかった。でも喉がなんだか詰まったような感じで、足元がぐらぐらして、自分が溶けてしまいそうな気がした。心臓がいつの間にか高鳴っていた。

私はそんな自分が愛おしと思った。

ふと彼が歌を歌っているのに気がついた。
それは多分特別な歌で、何かの記憶と結びついていたのだろう。

彼の暗い腕には血管が浮き出ていた。それはどこか暴力的で怖かった。そして計り知れない力でバットを振った時、その怖さが美しさに見えた。以前こんな腕の人をじっと見た時に異常に警戒され、嫌な事を言われた。そういうものだと思っていた。私はそれを物欲しげに見ていたのだと思う。