森の民「ピグミー」その3


はじめに

みなさんは「森林保護」や「森林保全」と聞いてどのようなイメージをお持ちでしょうか?多くの方が「貴重な生物多様性を守るため」「その住処である熱帯雨林を失わないため」など良いイメージを持ってる方がほとんどでしょう。それらは間違いでは無いと思います。そして、保護区設立は森林や生物多様性を守るための最善の手段の一つでもあります。

しかし、「保護」や「保全」の考えの中にそこに棲まう人たちが含まれてい無いことも少なくありません。中部アフリカ熱帯雨林に棲まうピグミー達もその一つです。
今日は、森に棲まうピグミーと外部の森林保全を後押しする政府や旧入植国について取り上げていきたいと思います。

狩猟圧の高まり

バカ・ピグミーの住むカメルーン東南部では 1990 年代から輸出向けの木材生産の需要が拡大しました。それまでは徒歩でしか移動手段がなかった環境から、その過程で整備された道路網を利用することで車での移動が可能になり、外来のハンター(主に西欧諸国からの)や商人のアクセスが容易になりました。

それまでそこでブッシュミート(野生動物によるタンパク源)からのタンパク源を頼りに生きてきたバカに加えて、野生動物の狩猟を目的としたハンターの往来によってブッシュミートの需要が急速に拡大していきました。この需要の拡大は、バカのタンパク源の喪失だけでなく、熱地雨林における野生動物などの生物多様性の喪失や、生態系サービスの毀損という点からも懸念されるようになってきました。

「生業のための狩猟」と「密猟」

これらのことは、森林保全を進めたいカメルーン政府やそこに棲まうバカにとっても重大な問題です。よって狩猟が法律で厳しく取り締まられるようになりました。しかし、カメルーンにおける法律制度上、自給目的の狩猟は厳しい条件を満たせば合法になるものの、多くの場合、象牙目的の狩猟と同様に「密猟」扱いされてしまうのが現状です。

バカは、これまで通りの生活をしているつもりでも、エコガードによる取り締まりの対象となってしまう。それは、住民にとって暴力的に映ることも少なくはなく、一部の住民たちは反発したり、象牙目的の密猟者たちと手引したりすることもあります。一方、エコガードたちは少ない人数で外来の密猟者と地域住民との両者に対応しなければならないのも事実です。

地域住民と保護

本来、バカや近隣の村内での小規模な売買を含む自給目的の狩猟は、人々の生活と文化を形作ってきた生業であり、外来者による密猟とは性質の異なるものです。さらに、地域住民たちは長年持続可能な資源利用を心得て、実践してきました。しかし残念なことに、バカのように地域住民の声が政府や環境保全当局のような外部者に届かず、トップダウン的な自然保全になってしまっている事例は多くの旧植民地国で見られます。

より健全な保護や保全の体制を構築するためには、地域住民やそのコミュニティを真剣に受け取り、理解し、それらを国や政府の意向に反映されることが重要です。

次回は、バカを取り巻く森の保護・保全の事例について取り上げていきたいと思います。

最後までご愛読ありがとうございました!次回もお楽しみに!

戸田 温


参考文献

松浦直毅.「住民参加」によるアフリカ熱帯雨林の保全と開発に向けて. アフリカレポート (Africa Report) 2014,  No.52 pp.88-97


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