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詩片【罪びと】

罪びとが図々しくも人の素振りをしているよ
お前は美しい銀食器で飾られた静寂の朝を汚し
良識ある人びとの鼻をしかめさせて
マダムポワソンのサロンに集まる
絢爛豪華なる面々のゴシップスープ
骨の髄までしゃぶられ尽くした
恰好のスープ・ド・ポワソン
噂好きの羽鳥たちには格好の笑い種
新種発見の様に抉り取られたスクープ
お前は自分一個の魂を守る為だとか平気で嘘をつき
お前の産湯を用意した父母を酷く落胆させ
お前を最後まで気に留めた友の釦を無造作に弾け飛ばした

額縁に収められたような小さな幸福の家を
土足で踏み滲り
既にモンスーンの暑熱は床上を侵し
もはや牡牛と牝牛は溶け合い
水と共に流れ出た

自由が欲しいなら出て行くがいい
二度とは戻ってこれぬように

丹念に鞣された牛皮の袋ひとつ
柔らかい光沢が新しい朝の光に溶ける
新しい革袋に
新しい葡萄の酒
誰もいない明け方の街に
抜け出していく光の幻
幾重もの尖り屋根を追い越し
羽だけは風を孕んでいるものと信じて
けれど蠟蜜の羽はいずれ燃え尽きて
黄銅色に輝いた幸福は真鍮だった

赤く錆びついてる今は

自由が欲しいなら出て行くがいい
二度とは戻ってこれぬように
しっかりと鍵をかけおく

罪びとが図々しくも人並みの夢をみるものよ
嘲りの声波がひろがる
麦穂の群れのうえに秋風が波打つ
怒りや罵声のそれに聴こえるとき
麦穂は涙の粒を溜めて居るかのようだ
豊穣の象徴は太陽の涙
悲しみの栄養分を咀嚼させ生きる糧を施せよ

ディアスポラの悲しみを道連れに
天を戴き乾いた砂地を行進する
涙を空に還そうと試みるも
飢えた砂地はいつまでもいつもまでも
赦しを与えない
汝のその水滴を要求する
永遠に償え
永遠に償え

髪を梳くような風が吹けば
草原つづきの丘陵は分け目を創り
細々とした道を現す
道を追い越し坂を下れば
美しい清流に樹々は沈下し
膨張し切った風船が
引っ掛かりユラユラ揺れている
よく眺めれば水死体
此処いらではよく或る眺めなんだ

膨らみ切った皮が破れ開かれれば
腐臭が充満し、辺り一帯を死に染める
在り来たりの、月並の、陳腐さの、その極致で
胡乱なる者どもの腐乱の臭み
鼻腔に執拗く粘り着き
何れ脳天まで侵す
そこ此処に存在する生の成り果て
胡乱なる者どもの腐乱の極み

高地の王と低地の伯とに
いつもの利権争い
塩樽だ酒樽だ魚樽だ それに上等の毛織
傭兵共は飲みシロに困る事は無い
安い命と引換えだ
黒い鴉だカラス麦
アブラクサス アブラクサス
護り給えよ 粗末な麦と天秤だ
戦場は稼ぎ場で
命を剥いで糊口を凌ぐ

雨風を凌ぐ筈の
粗末な山間の苫屋にも闇が降る
牡牛も既に小屋から逃げ去った
何とか及第点の夜に小さな灯りが点る

牝牛は谷筋のその西向こうに
蛇の様に続くその道先に
想いを馳せる もう戻れない其の道
お前が捨て去った楽園
後足で砂引っ掻けた道
もう蔓さえ切って落した筈だろう

渡り鳥がまるで赦免されたかの様に飛び帰る
今、沈黙のカセドラル 
膝をつき頭を垂れて祈る
赦され帰る その時を想ひて

想ひは膨張する膨張する
何れにか破裂し
腐臭を放ちて
何処かの脳髄を辿り
脳天を溶かし去り
何れの秋か
水底消え落ちる

あの草臥れ切った枯れ木の浸かる水辺
私の骨も肉も魂の瓦斯も
胡乱なる想ひ 饐えた匂い
亡国の彼方
オストラコンの破片
川岸に沈下す
ゆっくりゆっくりと
山間にまた性懲りもない陽が沈む

罪びとが罪びとが
図々しくも涙など流すものよ
悔悟の涙壺を満たしたとしても

お前の楽園は既に亡い



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これも何かの縁です(^_^)
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West side Nod

読書やコラム、記事、見聞したものに対して徒然に書いてきたいです🙂。omnivore(雑食動物、乱読、広く興味を持つ)なるままに。現代詩好き。茨木のり子、吉野弘、石垣りん、高橋順子、馬場あき子、河野裕子等。歌は洋楽AOR系が好き、青春はMTV、渡辺美里、大江千里。

吐き散らした詩もどきなものたち

タイトルどおりです。他のマガジンと被りもあり、エッセイにことよせて吐き散らしているものがおおいです。
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