覚悟が問われる東京武蔵野ユナイテッド。武蔵野が提携したメリットの推測と池上監督体制へのエール

東京武蔵野シティと東京ユナイテッドの衝撃の提携発表からどこか気持ちの整理がつかないまま、それでも東京武蔵野ユナイテッドとなったクラブの行く末を見届けようと結局見続けて半年が経とうとしています。
現在武蔵野は14試合を終えて0勝9敗5分の勝ち点5、残念ながら最下位です。

■成績低迷について
成績だけ見ると提携は失敗だったと思われるかもしれません。
ただ、苦境の原因は提携よりもコロナ対策がうまくいっていないほうが問題だと個人的には見ています。

もちろん、東京Uから移籍の選手が増えた分連携が深められないのではということもあるでしょう。でも、実際問題今年も主力がクラブを去っているので東京Uと関係なく連携を組みなおす必要があったはずです。それ以上にケガ人が多いことや、コンディション不良で後半足が止まる影響のほうが大きいのではないでしょうか。

コロナ禍でやれることが限られているのは想像に難くありません。
たとえば、トレーニングマッチすらやれていないのか2020年2月23日の東京23FC戦を最後に練習試合結果のお知らせはありません。試しながら連携を深める機会や大量加入でふるいにかけられている選手へのチャンスはどれだけあったのでしょうか。
つまり、チームとしての完成度も、個人としてのコンディションも、上げづらいし上げられていない状況が続いているように見えるのです。

その影響は戦術面でも大きく現れていると思います。
去年から武蔵野は極端にガチガチに守ってカウンター狙いする時間がとても長くなったんです。特に前半はガチガチに守って前線の選手は守備に奔走し、後半に間延びしてきたら前線の選手を入れ替えて勝負に出る、というパターンですね。

……いや、もともと堅守速攻型のチームではあるんです。天皇杯FC東京戦のときのイメージが強い人も多いと思いますし。
でも、攻撃を捨てるくらい極端な守備的布陣を敷く、なんてことはFC東京のように明らかな実力差があったからこそです。だからHondaFCはともかくJFLで順位に差のないクラブ相手にもガッチガチに引いて守ることはあまりなかったのですが、去年からは頻繁にやっています。

転機はやっぱりコロナです。
去年武蔵野はチーム活動中止期間がダントツで長く、2/28~6/9と100日程度チーム活動ができませんでした。JFLで次に長いのがMIOの4/5~6/1、鈴鹿の4/1~5/25あたりでしょうか。60日程度ですから武蔵野は少なくとも他のクラブと比べて1ヶ月以上何もできなかったことになります。高知は4/10~5/11と1ヶ月程度、いわきにいたっては活動休止のお知らせが見つかりませんでした。
正直、チームとしての完成度に差があって当然の状況だと言えるでしょう。だからこそ、できることの少なさを割り切って考えてガッチガチのカウンターサッカーに踏み切ったんだと思います。

結果として去年は11位でしたが、4位との勝ち点差はたったの3と悪くない成績を残したと言えるでしょう。ただ、善戦したとはいえ一昨年の4位から去年11位と順位を落とし、最下位とも勝ち点差がたったの4だったこともまた事実です。
去年からチームとしての完成度が上がらないまま対策がとられて……となると、今年差をつけられてしまうのは必然とも言えます。

そもそもコロナ以前にフルタイム働いた後の夜練習っていうJFLクラブ自体が減ってるというのもあります。
でも、選手たちがコロナや練習環境を言い訳にすることはないんですよね。こんな状況でもサッカーをやらせてもらっているっていう感謝のセリフを聞いたことは何度もあります。それ自体は美徳だと思うしそんな選手達だから応援しがいがあるのですが、練習環境をもっと良くしなくてはいけないというクラブとしての課題は別の問題としてあるはずです。
声が挙がらないから改善もされない、このあたりは提携前から武蔵野にあった課題だったと思います。これはフロント側が動かなくては変えられない問題ですからね。

■提携の影響と、武蔵野側が提携で得た「見えにくい」メリット
提携によってクラブには大きな変化がありました。

最も痛いのは観客数の減少でしょう。
去年Jリーグ加盟を断念してかなりの数が減ってはいたのですが、今年は去年コロナ禍でも残っていた人たちも減ってしまっている感じです。
FC大阪戦がムサリクで186人だけというのはさすがに愕然としました。コロナ禍だし雨もすごかったけど、かつての富士北麓開催より少ないとは。
サポーターから見えないところでクラブが変わってしまったわけですから、残念ながらそりゃそうでしょと言わざるを得ない所はありますが……。
まあ、そもそもJ加入の参入条件も満たせない数のサポーターにステークホルダーとしての価値はあったのかと問われてしまうと立つ瀬がないんですよね。とてもつらい。

スポンサーは増えたようで減ってもいます。文京側からのスポンサーが増えたけど、武蔵野側からスポンサーが減った印象です。
長年武蔵野のユニフォームスポンサーをやっていただいていたナカノフドー建設さんや武蔵境自動車教習所さんはユニフォームスポンサーを外れただけでなく、スポンサー一覧からも消えています。アトレヴィ三鷹さんがスポンサーから外れたことでJR三鷹駅からは青と黄色のチームカラーの広告がなくなりました。
個人的にはブラジル料理のアウボラーダさんが抜けているのが痛いですね。
ムサリクのスタジアムグルメをずっと支えてくれていたわけですから。でも、飲食ブースの出店状況や、コロナ禍での飲食業の大変さを考えると致し方ないと言わざるを得ないと言いますか……三鷹キッチン男の晩ごはんさんは一時閉店されているようですし……
観客数減、出店ブース減でムサリクのコンコースがガラガラなのは本当に悲しいです。

一方、組織として劇的に良くなったことがありました。
それは「責任と権限を持った動けるフロント」を得たことです。

もちろん、武蔵野の運営は法人化していましたから当然代表者がいました。
現在FC東京強化部にいる古矢さんをはじめ、横河の社員が兼任でやっていた形ですね。古矢さんがS級取得後に大宮に引き抜かれて以降に歴代担当されていた塩野さんも井草さんもお名前を検索すると横河の関連会社の役員としての肩書きが出てきます。メインスポンサーである横河電機に話が通せる立場の人を代表者に置くのは自然なことだと思います。

ただ、会社の重役ってクソ忙しいわけで、どれだけクラブ経営に時間が割けるのかっていうのがあるんですよね。
フットボリスタの記事より引用しますが、
「会社から離れて地域のサッカークラブを経営していく人的なリソースがありませんでした。」
これこそ、クラブチーム化以降の武蔵野がずっと抱えてきたジレンマであり、Jリーグを目指したことで浮き彫りとなった課題で、ここ最近のクラブが迷走した根本的原因ともなっている要素で、武蔵野が本当に必要だったのにずっと手に入れられなかったものじゃないかなと思います。

思い返せば木村和司さんをスーパーバイザーに迎えたときに古矢さんが「共にクラブとしてのビジョンを築いていければ」なんてコメントを残していましたし、
百年構想クラブに方針転換したのも「J3ができたことで序列が下がって有望選手が獲得できなくなった」とボトムアップで物事を決めていましたし、
こはなちゃんの3D化クラウドファンディング失敗も税金投入して改修したムサリクがスタジアム審査NGとなったのもクラブとしてのビジョンが見えませんでしたし、
J3参入断念をフロントが決断するタイミングが遅くなったことがムサリクの収容人数超過に繋がったわけです。

東京Uとの提携はチーム名もエンブレムもチームカラーもマスコットも失うことになりました。そうまでして武蔵野が得たかったものがずっと理解できなかったんですが、ちょっと分かってきた気がします。
J3参入断念した時に記事を書きましたが、この時はより地域密着を深めることがしたかったのだと思っていました。今思えば「現状の経営体制を一新し」という部分、フロント体制の改善が最も武蔵野がやりたかったことなのかなと思います。
そこへ福田さんが提携話を持ってきたのは武蔵野的にも渡りに船だったのかもしれません。ノドから手が出るほどほしかった「責任持って決断できるクラブ経営者」がネギしょってやってきたとも受け取れるわけですから。

なので、提携は武蔵野が東京ユナイテッドに乗っ取られたような意見がありますがちょっと違うのかなと思います。
提携前の東京ユナイテッドについて色々と思うところがないわけではないです。ですけど、東京武蔵野シティが東京ユナイテッドに乗っ取られたとされるのは心外でもあるんです。
それって過剰に武蔵野のことを下に見た意見ですからね。Jリーグ参入できなかったからといって武蔵野の価値がなくなったわけではありませんから。
というか、東京ユナイテッドに乗っ取られたなら「折半出資した新会社で共同運営する」という形はありえないのではないでしょうか。

ただ、「経営を任せるのが福田さんでよかったのか」という部分は別軸で評価する必要があります。

フットボリスタのインタビューの後編に記載がありましたが(有料でしたので引用は避けておきます)、福田さんが横河サイドに提携話を持ち込んだときに評価の仕組みも含めて提案したようですので気になる人はそちらを読めばいいと思います。
結論として、横河サイドがその提案を呑んだことで福田さんがCEOとなったわけですから頑張ってやってもらうしかないわけです。

今のところ、試合後に結果が負けでもそれに向き合って動画のインタビューに答えるだけでもフロントが現場を見た上で評価する姿勢を見せているわけですから、これまでの武蔵野とは違いを感じています。
それがどうなるかはこれから次第ですが、クラブがいい形で成長していってほしいですね。

■後がない池上体制へのエール
今日は前節順位を追い越されたFC刈谷戦です。

現在最下位の武蔵野から見てひとつ上の順位の刈谷との勝ち点差は3で、もうひとつ上のホンダロックとの勝ち点差は9あります。刈谷戦で負けたら勝ち点差が更に広がり降格圏からの脱出が難しくなります。
まさにがけっぷちと言っていい、逆天王山です。

去年と違って今年は降格がありえる以上、クラブは監督交代という苦渋の決断に迫られるかもしれません。
ぶっちゃけ監督交代ブーストなんてないと思いますし、トレーニング環境をもっとキッチリしないと根本は変わらないと思うんですが、こういった状況で責任を負うのはどうしたって監督になってしまいます。
武蔵野はこれまでシーズン途中で監督が変わったことはありません。成績の悪かった年もありましたが、なかなかフロントが現場を見て評価を下せず決断できなかった部分もあったのでしょう。ですが、皮肉なことに今年は例年とは違い責任を持って決断ができるフロントがいるのです。

池上監督が選手として横河FCに加入したのは2000年、大学生として在学中のまま途中加入しています。年間たったの2勝で最下位、4月の開幕戦から11月まで未勝利という歴代最悪の成績だった年です。
翌年からは主力として貢献し、加入時最下位だったチームは彼が引退した2009年には歴代最高の2位となっています。間違いなくクラブを引き上げた原動力となった1人と言っていいでしょう。個人的には天皇杯大分トリニータ戦で大分市陸まで観にいったときのゴールが印象深いです。
引退後もコーチ、監督を歴任。2019年は監督として4位という2009年に次ぐ好成績を収めました。まさにクラブの功労者といっていい存在です。
その池上監督がクラブ体制が変わったことで監督として解任される危機にある、本当に皮肉な話です。

今日が池上監督体制のラストチャンスになるかもしれない。
ここ最近は毎週それが頭によぎる状況でした。よくなってきている印象があっても結果が出せない状態が続いているので、いつ決断されてもおかしくはないのです。事実、武蔵野よりも上位のクラブが成績不振を理由に監督交代がなされています。
相手もあることなので、結果はどうなるかは分かりません。大事なのはその結果を受け止める覚悟ですね。クラブも、サポーターも覚悟が問われている状況なんだと思います。

そして、そんな状態なのに応援に行ける状況にないのです。オリンピックがあるので変則日程でアウェーがしばらく続きますし、緊急事態宣言の東京からわざわざ出て行ってアウェーに迷惑をかけるわけにもいきません。
これが最後の池上監督体制に対するエールとなるかもしれませんが、まだ解任という決断は下されているわけではありません。どうにかあがいて這い上がってほしい。とても歯がゆいのですが家でただただ良い結果を持ち帰ってほしいと願うばかりです。