067本当に望む生活✳インナーバルコニーの黄昏時
「海がみえるーーーー」
開放的な大きな窓の向こうには、果てしない地平線へと続くオーシャンビューがキラキラと輝いている。
「エメラルドグリーンきれいーー」
流石の仮想世界。理想的。
《クランのプライベートビーチもありますよ》
頭の中でガイダンスの声がこだました。
「ぷぷぷぷらいべぇとびぃち?」
「プライベートなビッ……」
《チじゃございません》
《クラン専用の白浜ですね。赤くはないです》
「は、謀ったな!シャ……」
《謀っていません》
一悶着終えた後に、海をしばらく眺めて、バルコニーとベランダがないことに気づく。
「外観上の問題かしら。球体ビルだものね」
でも球体の上部だからか高層でも窓は開く。あ、海風か。落下物対策もしてあるのでしょ。
「外観上がクリアできればバルコニーOKよね。渚のバルコニーね。待っ……」
《待ちますね》
「うむ。しからば……あ、東西南北……方位できたのね。太陽もあるわね。シェアルゴリズムが設定したのね」
(ところで天文台ができたものの、仮想世界の天球……星の運行はどうなるの?ここの位置、経緯とかの関係とか……もし地球じゃないなら星の配置も変わるよね)
(……ガイダンスも答えるつもりないようだし、謎のままにしておこう)
『最適化シェアルゴリズム』により、ギルドネットワークスのサーバーにある私たちの仮想世界は、ギルドネットワークスのオープンワールドにリンクされたようだ。
その為、ギルドネットワークスの基本ルールが適用されるが、リンクされてるものの同じ空間世界では無い。つまり陸海空続きではない。多くはこれまでの通り、私たちクランとシェアルゴリズムに管理者権限はある。
しかし、時間の流れは既に現実世界と同じ速度に保たれているようだ。ただ、精神と時の部屋に似た、時間が遅く進む特定空間をつくることはできるみたい。
ところで、私の部屋なのだけれど、私は広い場所が好きなので高さも四メートルだし結構ひろい。
部屋には何が置いてあるかって?
――実は何もないんだ。
物は『収納』スキルでしまえるから必要な時に取り出せばいい。
伽藍堂に広いから踊りたい時に踊り放題なのです。
本も映像もネットも音楽も『球体ホログラム』があれば視聴可能。
防音――吸音、遮音、反射音/反響、残響も調整もできるから、歌も楽器も弾き放題。
『シェアルゴリズム』が見繕ってくれて置いてくれた家具は、すっかりお気に入り。
収納してあるターコイズグリーンのソファと大きくてまぁるいベッド。色も素材も変えられるソファとベッドもあのギルドメーカー。みんなにはヒミツだよっ。
部屋内、場所によって重力調整もできるから、すっごいリラックスしたい時は無重力でも眠れるよ。
……というわけで、ゾロリと他の子たちの部屋も観る内覧ツアー必要なかったりもする。
とはいえこだわりたい子もいるでしょうから、お招きしたい人、行きたい人は行きたい部屋に行きましょうになりました。
――快適な生活をおくれる部屋って何でしょうね。
そもそも部屋とは何でしょうね。
時には貝とか穴、巣、洞窟、そして藁や土で造ったり。始めのうちは、家=部屋。
さておき、私にとっては服装も建築も、衣服も部屋も同じようなものだと想うのです。
建築物を着る感覚(クオリア)
エアコン冷暖房付衣服。いいですねぇ。
あ、実際ありましたよ。それは宇宙服。
生命維持装置と合わせると一千万ドルらしいので、豪邸が車付き犬付きメイド付きで手に入ります。
宇宙服は船であり、家部屋でもあるんでしょうかね。
そんなことを今、部屋で無重力状態でぷかぷかしながら想いをめぐらせてました。
建築物より大きな服は、地球だったり宇宙だったりするのでしょうか。なるべくきもちよく快適にこころよく着られる服がいいな。
――さあお次は何でしたっけ…。
あ、ソファが来たみたい。
「部屋どう?」
ソファにきいてみた。
「ええ、快適よ」
「バルコニーないわね」
「したらフロアにシェアバルコニーつくろっか」
「いいわね」
シェリーもやってきて賛同してくれた。
早速、球体ホログラムで提案したところ、バルコニーがないことを気にしてた子たちが多いらしく、すんなり賛同を得られた。
「屋外に出っ張らない構造ならいいのよね」
「うん、引っ込む形なら大丈夫かしら。屋内にいながら屋外にいるみたい感じよね」
「それならインナーバルコニーになるわね」
「一応外側にも窓つけて開閉できるようにする?」
「それならもう部屋になるんじゃないかしら。それでもいいわ」
「オッケー」
九階の各部屋の間にスペースが空いてる為、それぞれサンルームのようなインナーバルコニーを創造した。
私たちは海を眺めながらすぐにくつろぎはじめた。
そして私はふいに――
「私たちの本当に望む生活、日常ってどんなのかしら?」
基本的には、ここちよさ、あんしん、よろこびを始めとするクオリアな『ライフバリュ』を日々感じながら満足して生きること。
これらは『ポテンシャル』な生き方同様、抽象的であり、具体的には?その為には何が必要?となっていく。
「気の合う好きな人たちと楽しく暮らせるといいわ」
「私たちにとって最適で、ここちよい素敵な場所、美味しいもの、好きな、愛するもの、ことに囲まれるのも大切なのかしらね」
「ここちよいセッションも素敵だし、すごごいセッションもしたいわ」
「そうね。あと健康も大事ね」
「「だいじーー」」
「やっぱり世界に、絶対的な答えや正解はないだろうから、自分たちなりの答えのような何かを叶えたいわ」
「そうよね」
「そうね」
――空はすっかりと橙色に染まり、昼でも夜でもない黄昏時。
有名な漫画映画……アニメ映画で靴職人と想いがすれ違ってしまった先生。
誰そ彼と
われをな問ひそ
九月の 露に濡れつつ
君待つわれそ
『万葉集』 巻10-2240 作者未詳
誰だあれはと
私のことを聞かないでください
九月の露に濡れながら
愛しい人を待っている私を。
ぼんやりと――。
たそかれ。
Quotia 配分 割当 遵守