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イギリス留学手記~山あり谷あり、波乱万丈のロンドンライフ~

 飛行機の機内、思いがけない素敵なサプライズがあった。ヒースロー空港に到着し、座席を立とうとした直前、機内で少し雑談をしたANAのキャビンアテンダントの方が席まで来てくれた。「半年間、留学頑張ってくださいね!この袋に日本のお菓子詰めておいたので、日本の食べ物が寂しくなったら食べてください」と、わざわざプレゼントしてくれたのだ。「ありがとうございます!頑張ります!」そう伝えて飛行機を降りた。空港のエスカレーターに乗りながら袋の中を確認すると、なんとお菓子と一緒にキャビンアテンダントの方からの直筆の手紙も同封されており、そこには励ましのメッセージが添えられていた。手紙を読んだ瞬間、感動で涙が溢れ出した。「本当に半年間頑張ろう。何も成長できずに日本に帰るのだけは絶対ダメだ」、と覚悟が決まった。

ロンドンへの飛行機内で受けとったキャビンアテンダントの方からの手紙

 私は今、イギリス・ロンドンにいる。2022年9月から2023年3月までの半年間、ロンドン大学バークベック校にて交換派遣留学生としてジャーナリズムやメディアなどの勉強に取り組んでいる。これまで刺激的で楽しい経験も多くあったが、挫折で心が折れて気が重い日々もあった。文化や国民性の違いに驚かされる場面も多くあり、日本の良さに改めて気付かされた一方で、逆に日本もこうあればもっと良くなると感じる部分もあり、さまざまな面で勉強になっている。はじめて日本から飛びだし、右も左も分からないまま過ごした2か月。出口の見えないトンネルに迷い込んでしまった時期もあったが、しかし、その中で得たかけがえのない学びと出会いがある。


長年の夢だった留学が実現するまで

 いつか留学に行きたいとはじめて思ったのは中学生のときだった。勉強が苦手で、ほとんど友だちと遊んでばかりの不真面目な生徒だったが、地理だけは得意で、特に地図帳を読むのがマイブームだった。他の科目の授業中でも、こっそり地図帳を机の下に隠して読んでいたのが懐かしい。変わった国、都市、山の名前を見つけると、すぐ仲のいい友だちに見せて、「しょーもないわ」と言われながら、彼らを笑わせていた。地図帳を通じていろいろな国を知るにつれ、徐々に海外での生活に心が惹かれた。そして、「海外に行きたいなら留学を目指そう!!」と決意が固まった。ただ、通っていた中学校・高校は留学に行くためのハードルが高く、ましてや英語は大の苦手だった。そのため、大学生になってから実現しようと決め、そっと胸の奥にこの目標はしまい込んだ。
 2020年4月。大学に入学したとほぼ同時に、世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた。この出来事は、本格的に留学を考え始めた自分にとって絶望的なものだった。受験勉強を通じて英語は得意になり、さらに語学力を向上させるためにも、留学に行くことは不可欠な選択肢だと感じるようになっていたからだ。海外の入国制限が緩和し、ようやく留学が現実的になったのは大学2回生の夏だった。この頃、私はもっと深くメディアやジャーナリズムについて勉強したいと考えるようになり、新たな目標となったのが「交換派遣留学」だった。海外で長期間生活しながら、現地の学生と同じ授業を受け、専門分野の学びを深められる千載一遇のチャンスを逃すわけにはいけないと思い、すぐに出願に向けて準備を始めた。2022年の春に、選考を経て、3回生秋学期の1学期間、交換派遣留学生として留学できることが決まった。留学先となるロンドン大学バークベック校は夜間の大学であり、ほぼすべての授業が18時以降に始まる特殊な一面を持つ。しかし、自分の専門分野が学べる上に、世界有数の大都市であるロンドンで生活できることに魅力を感じ、この大学を第一志望に選び、無事希望が通ったのだった。人生で初めて海外に渡航するという事情もあり、留学の準備は手探りの部分も多く大変だったが、あっという間に秋になり、出発の日が来た。ロシア・ウクライナ情勢の影響で従来とは異なるアラスカ上空を経由するルートだったが、16時間のフライトを経て予定どおりイギリスに到着することができた。

ついにロンドンに到着。しかし……

 入国審査を終え、スーツケースを回収するため手荷物受取のレーンに並んでいると、いくら待っても自分の荷物が流れて来なかった。近くにいた空港スタッフに尋ねても、「たぶん奥のカウンターにおいてあるんじゃない?」とあいまいな答えしか返って来ず、荷物を探すために空港内を1時間以上さまようことになった。ようやく空港の外に出ると、9月というのにもの凄い寒さで、冷たい風が全身に吹きつけた。周りから聞こえてくる会話もすべて英語だ。「ついに来た」と強く実感した。
 私はフラットシェアと呼ばれる居住形態の家に住んでいる。3階建ての一軒家の2階の一室が自分の部屋で、キッチン、シャワー、リビングなどを他の住人とシェアして生活している。この家はロンドンで長く不動産業を営む日本人がオーナーで、両隣の2軒と通りを挟んで反対側の1軒を合わせて4軒を所有されている。そうした事情から、住人のほとんどが日本人だ。これらの家には学生以外も多く、さまざまな社会人の方とも知り合った。とくに10月には社交ダンスの世界大会に参加するカップルが何組も滞在し、ふだんなかなか聞けない貴重な話をたくさんしてくれた。周りが日本の方ばかりで居心地が良かったこともあり、家にはすぐに馴染むことができた。

日々、挫折との戦い

 しかし、気分が滅入ってしまう時も多々あった。自分が嫌になり、何度も心が折れてしまった。
 一番私が苦しくなった理由は、何といっても言葉の壁だ。留学に行く人の定番の悩みかもしれないが、こちらに来る前は、語学力を上げるための努力を継続的にしていたおかげで、ある程度ネイティブとも話せるレベルにまでなっていた。そのため、海外でもそれなりに困らずやっていけるだろうという甘い期待を持っていた。しかし、現実は厳しかった。とにかく言いたいことが伝わらない。お店でオーダーするときや駅でスタッフに質問するときなど、自分から話しかけても、多くの場面で聞き返され、「何言ってんだこいつ」という視線で見られているように感じた。何とか伝えることができても、自分の意味した内容通りに伝わっておらず、別の商品が出てきたり、質問とまったく違う答えが返ってきたときもあった。
 また、周りの会話についていけない。特にネイティブの会話スピードはとにかく速く、またスラングを交えて話す人も多いため、展開されている話の内容がほとんど理解できない。会話の輪に入れないため、愛想笑いしかできず、仲良くなれないため、せっかく知り合った人ともその場限りで会わなくなってしまう。こうした失敗を重ねるごとに、どんどん自分の英語力に絶望してしまい、自信を失った。英語を話すことが怖くなり、伝わらないのが不安で、しゃべるのをためらうと、そのたび、留学に来て英語を話さずにどうするんだというやるせない怒りと情けなさが心の中で入り乱れ、気落ちしてしまう。徐々に自分自身のことまで否定的になり、自己肯定感も下がってしまった。
 そして、到着以来次々とアクシデントに見舞われた。すべて書き出せば、とてつもない量になってしまうので主なものだけを挙げる。まずはスマートフォン紛失。失くしたと気付いた直後、位置情報を追跡できる機能を駆使して探すと、私のスマートフォンはいろいろな場所を移動した後、中古の携帯ショップが多くひしめく商店街の一角で止まった。転売された可能性もあり、警察に行ったがあっさりとした対応で、結局手元には戻ってこなかった。さらにこの出来事の直後、バス停の椅子に置いたカバンがなぜか地面に落ちてしまい、中に入れていたカフェ・ラテの容器から飲み物が溢れ出し、荷物がほとんど茶色に染みてしまった。強い匂いも付いてしまい、カバンは二度と使えないほどに汚れてしまった。
 また、夜遅くにバスに乗っていたとき、終点まで寝過ごしてしまった。すると、ドライバーはそのまま道路脇にバスを停車し、私に気付かないままバスを降りたため、中に閉じ込まれてしまった。目覚めてこの事実に気付いた直後は、心臓の鼓動が直接聞こえるほどにパニックになった。命の危機すら感じたが、偶然目の前に停車していた別のバスのドライバーを見かけ、必死に窓を何度も叩いて助けを求め、何とか脱出できた。今でも、もし誰も気づいてくれなかったらどうなっていただろうと考えると、強い恐怖が襲ってくる。
 こうした出来事が起きると、日本にいたときは笑い飛ばせていたのだが、ロンドンに来てからは失敗が起きるたびに自分がダメだからだと責めるようになってしまった。感情の整理ができなくなり、一人で部屋か大学の図書館に閉じこもるだけの日々が多くなった。しかし、こうした場面でも自分に言い聞かせていた言葉がある。それは「自分責めても、一つもいい事ないで」だ。日本を発つ直前に高校の友だちと飲みに行き、他愛もない会話をしていたときに彼が不意に言ったものだった。そのときに聞いて以来、ずっと心に残っている一言だ。実際、この言葉に救われたことも多く、気分が落ち込んでいるときは自分に言い聞かせ、辛い場面を乗り越えようとした。そして最近は、アクシデントがあっても開き直れるようになり、周りの人と積極的に交流できるようになった。言葉の壁はもちろん今でもあるが、相手の反応を気にせず、会話できている。

気付いたイギリスと日本の違い

 ロンドンでの生活に慣れるまでは分からないことも多くあり手探りの毎日だったが、特に驚かされた部分、イギリスと日本とまったく違うと感じた部分が5つある。
 1つ目は大学の授業スタイルだ。自分は1週間に2コマ授業があるのだが、1つの授業ごとに必要な勉強時間が日本のときと比べものにならないほど多い。また、教室で行われる講義は3時間だが、授業前に予習として、指定された2冊の論文の抜粋を読む必要があり、さらに講義とは別の授業動画も用意されているため、毎週予習だけで莫大な時間を要する。日本で大学に通っていたときは、授業前に予習が必要な授業は少なく、講義を受け、課題や試験に取り組む形が多かったが、イギリスの大学の講義はディスカッションがメインで、予習してきたことを前提として進んでいく。そのため、こちらで授業が始まったときは強く戸惑った。予習用の論文を読んでいるだけで1日が終わることもあり、講義でも自分の意見を言うことに慣れていないため発言を躊躇してしまう場面が多くあった。課題も、論文や授業で学んだ内容をもとに自分の意見を組み立てるエッセイ形式で、英語の文献を読むことにも、エッセイを英語で書くことにも不慣れなため、思うように課題が進まずに苦労している。しかし、論文をしっかり読み、それらをベースに自分の考えや意見をディスカッションやエッセイで表現することで、本質的に内容が理解でき、学んだことが定着する。また、提出したエッセイは丁寧なフィードバックがあり、先生に依頼すれば、直接アドバイスをもらい、次のエッセイの内容も相談できる1対1の面談も予約できる。そのため大変な面も多いが、成長とやりがいも同時に感じられており、高いモチベーションを維持して大学に通うことができている。

留学先であるロンドン大学バークベック校の外観

 2つ目は人々の繋がりが日本と比べて強いことだ。特に休日に街を歩いていると、多くの人々が友人や家族と会話に花を咲かせており、一人で歩いている人がとても少ないように感じる。また、電車やバスの中でも友人や家族と電話している人が多く、とても人間関係を大切にしているように思える。場所を問わずカップルはキスやハグを行い、直接愛情を表現する人が多い。そして何より驚いたのは、花を持っている人を多く見かけることだ。恐らく誰かに渡すためだと思うが、さまざまな場面で花をプレゼントする習慣があるとは知らなかった。見かけるたびに素敵な気持ちになる。
 3つ目はサービス面だ。日本は「おもてなし」という言葉があるように、親切かつ早急な対応が一般的で、電車やバスなども世界一正確だと評価されている。一方、イギリスでは、こうした対応を受けることはほとんど皆無で、基本的に店員やバスの運転手などは態度が悪く、話しかけても真顔で対応されることが多い。また、公共交通機関は頻繁にストライキがあり、電車の目的地が変更になることや運休になることも多い。日本では当たり前に流れる駅のホームの接近アナウンスも発車ベルも存在せず、ホームにいると突然電車が入ってきて、何の合図もなしに急に扉が閉まり、発車していく。こうした文化の違いを通じて、ずっと日本で当たり前だった常識が違う国ではまったく異なることを肌身で感じ、さまざまな面でサービスが行き届いている日本の凄さを実感したが、逆にイギリスはこういった状態でも社会が回っていると考えると、そこまで正確さや速さを気にしなくても大丈夫なのではないかとも考えさせられる。
 4つ目はモラル面だ。ロンドンの街では至るところにゴミがポイ捨てされており、特に休日の夜に歩いていると、目を疑うような光景が広がっている。例えば電車やバスの車内の場合、新聞は読み終わるとそのまま座席に置いていき、食べ終わったご飯の袋や容器も当たり前のように残していく。特にバスは清掃が頻繁に行われないため、誰かが残した飲み物の瓶や缶がよく走行中に床を転がっているが、誰も気に留めない。文化や意識の違いなのかもしれないが、こちらで生活して改めて、日本に旅行に訪れた観光客があまりの清潔さに驚かされるという有名なエピソードがあることにも深く納得させられた。
 5つ目はストライキの多さだ。こちらでは頻繁に公共交通機関のストライキがあり、賃金の上昇と待遇改善を多くの労働者が求めている。自分がもっとも驚かされたのは、大学でも職員のストライキが行われていることだ。つい最近では、この影響を受け、授業が休講になった。また、別の日にはストライキに参加している職員が校舎の目の前で集会を行い、私も彼らの主張が掲載されているビラを受け取った。このような光景は日本では考えられないものだが、抑圧されている権利を勝ち取るために多くの労働者が行動を起こす姿を見て、いろいろなことを考えさせられた。
 他にも、日本とこちらで異なると感じた部分が多くあるが、こういった経験をするたびに、日本の良さを再確認できる一方で、人々の強い繋がりや細やかすぎるサービスなど、見習うべきところもあると感じる。

やっぱり留学で得られる学びは大きい!

 この2か月あまりの留学生活に辛かったエピソードが多く、留学に挑戦することの魅力を伝えられていないかもしれないが、自信を持ってロンドンに来てよかったと言えることが3つある。
 1つ目は人々との出会いだ。ロンドンに来てから、現地の人だけでなく、社会人も含め、多くの日本人と知り合ったが、日本にいるだけでは間違いなく出会えなかった人たちばかりで、自分の考え方や価値観に大きな影響を与えてくれた。特に、ケンブリッジ大学に通っている日本人留学生たちと就職活動関連のイベントで出会い、話をしたことは刺激的だった。彼らのこれまでの経験や現在勉強していること、将来の目標などを聞かせてもらったが、話をすればするほど現在の能力や将来像が自分と彼らでは差が大きいと感じてしまい、茫然自失になった。その他にも、現地の大学・大学院に入学して勉強している人、仕事を休んで語学学校に通っている人、休学して働いている人など、ロンドンで出会えたさまざまな日本人の方たちの話は本当に興味深く、自分を信じ、挑戦する大切さをいつも学ばせてもらっている。こちらに来てから気分が乗らない時期も長かったが、そうした人たちと出会うたびに励まされ、モチベーションを維持できている。これらの出会いは宝物であり、やはり誰かと繋がっていることが大事だと強く感じるようになった。
 2つ目は新たな場所に旅をし、写真を撮ることができることだ。私は日本の都道府県の約8割を訪れた経験があるほど、旅行が趣味で、イギリスに来てからも時間があればすぐに電車のチケットを取り、新しい都市を訪れている。また、留学前に履修したフォトグラフィ実習がきっかけでカメラが趣味になり、一眼レフカメラをロンドンにも持参している。モチベーションが低かった時期も、旅に出て写真を撮ることが気分転換になっていた。冬休みにはさらに多くの場所に出掛けようと計画している。

Bristol, Clifton Suspension Bridge(世界で一番古い吊り橋)
Dover, White Cliffs of Dover(ドーバー海峡がすぐそばにあり、海岸沿いに白色の崖が続く)
Cotswolds(イングランド中心部の丘陵地帯。のどかな街並みに心が奪われる)

 3つ目は海外の人々の日本へのイメージがとても良いと分かったことだ。初めて会った人に私が「日本出身です」と伝えると、多くの人が「いつか日本に行ってみたい!」「日本に行くのが夢!」と言う。最初はこうした反応に戸惑ったが、徐々に彼らが日本の街並みや文化に惹きつけられていることに気付かされ、日本の魅力を再確認できた。特に私はロンドン中心部のパブで毎週2回行われている日本人と日本語を勉強したい人々が集まるミートアップ(交流会)に頻繁に参加しているが、日本語を勉強中である彼らに、勉強するきっかけになったものを尋ねると、多くがアニメ、マンガ、ゲームを挙げる。こうした経験を通じ、日本のコンテンツが海外でも強い影響力を持っていると実感し、また、実際に日本語を勉強する動機にまでなっていることに驚かされた。

これからも日々前進

 まだ留学に来てわずか2か月しか経っておらず、自分の感情の起伏に影響された時期もあるが、これらを乗り越えることで得られた成長もある。また、自分の環境がいかに恵まれているか気付かされた。特にロンドンではホームレスの姿をよく見かける。道端や駅の階段に座っている姿にいつも胸が痛くなる。これから、さらに多くの方が住まいを失ってしまうという報道もあり、イギリスの不況を肌身で感じている。私はこうした状況の中でも、自分がするべきことに集中して生活するようにしており、最近は語学力の課題を解消するため、新たに語学学校に通い始めた。
 ロンドンに来る飛行機の中でもらったキャビンアテンダントからの手紙は、今も大事に自室の机の引き出しにしまっている。時折読み返すが、いつも手紙の優しい言葉に励まされ、到着したときの初心を思い返す。いつか直接お礼が言いたいとずっと願っており、もし帰りの飛行機などでお会いできれば、心から感謝を伝えたい。留学生活もあと4か月間しか残っていないが、これからさらにさまざまな方と知り合い、そして、多様な経験を通じて視野を広げ、後悔のない留学生活にしたい。

Tomoki(SAPA)

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