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パンツの運び屋

ー続・入院、そして手術(上)

病院食は味が薄いとこぼしていた入院中の奥さん。気を利かして食塩や醤油など使い切りの調味料類を差し入れると連絡したら、それは要らないとバッサリ。代わりにパンツを持って来いという。着替えが足らないとか。病院に向かう途中、警察官に職務質問を受けて所持品検査されでもしたら、実に面倒臭いことになると想像しながら歩く道中は予想以上に楽しく、あっという間に病院に着いた。妄想はいい暇つぶしになる。

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平穏無事が一番

所持品検査でカバンの中から女性用の下着が出てきて不審に思われたとしても、言い返す言葉など幾らでもある。パンツを持って来いと書いてある奥さんのメールを見せてもいい。官警に言いがかりを付けて来られたら返り討ちにしてやろうと、心の中でシミュレーションしていたが、実際は何事もなく目的地に到着。やはり平穏無事が一番、面倒臭くなくて良い。

履き心地が"アレ"

着替えが足らないという奥さん。当初は病院の1階にあるコンビニエンスストアで1着40円の紙パンツを購入する予定だったが、どうも履き心地が"アレ"らしい。元来そんなことにあまり頓着する性質ではないので、相当"アレ"なのだろう。かなり我慢していたのか、袋に入れた下着を手渡したときの満面の笑みからも、その気持ちが読み取れた。

せっかくの見舞いを"パンツの運び屋"で終わるのも寂しいので、"飯の友"として家の冷蔵庫にあった「こもち昆布」を持って行ったが、これはお気に召さなかったようだ。病院食の白米とおかずの分量がバランス良く、これに飯の友が加わると、おかずを食べ切る前に白米を食べ尽くし、「お替わりが欲しくなってしまう」という理由らしい。

奥さんの親友が見舞いに来て、差し入れてくれたものの中に佃煮があったが、それは奥さんに請われて家に持ち帰ってきた。見舞う側が渡したいものと入院している側が望むものを一致させることは容易ではないと実感。被災地の人たちが求めるものと支援する人たちが提供するものにギャップがあるとはよく聞く話だが、それと似ている。

とはいえ、奥さんの術後の経過は順調だ。

(写真〈上から順に〉:クリント・イーストウッド主演の映画『運び屋』のワンシーン=filmest.jp、"飯の友"こもち昆布=ザ・広島ブランド)

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