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ひらがなエッセイ #17 【ち】

    にいちゃん、この社会で生きていくにはな、人間関係、これや、これを大切にしないとあかん。なんて会話に、いや、はい、おっしゃる通りで、と相槌を打ちながら、本日もお酒を飲む暮らし。偉くない人が偉そうにして、遊んでいない人がモテるアピールをする。無いものねだりミッドナイトパレードさ。他人の芝生は青く見える。誰かにとって私の芝生も青く見えるのだろうか。大切な物ってのは近くにあり過ぎたら見えないもんだ。まぁ、飲もうか。こんな下らない事を考えている間でも南極ではペンギンが遊んでる。

    二日酔いで、自分が蝶の夢を見たのか、蝶が自分の夢を見たのか、がわからない。疲れた体で覚えているのは昨日の話題と去年の誕生日、なんて何処かで聞いた歌を口ずさむ。私が覚えているのは、昨日閉店後に行った、深夜食堂の厚揚げと【ちくわ】の事ばかりだ。美味し。

    そういえば、昨日のエッセイで【ちくわ】を小指に挟んで乙女の様な眼差し、と書いた。これは比喩でも何でもなく経験から来るリアリズム。私の後輩の嘘偽りない描写であった。私は男四人で旅行に出かける事が多い。何故四人なのか、そして、何故男ばかりなのか、という問いには答えない。答えられない、のではなく、答えない。これは大事。まぁそれは良いとして、その事件が起こったのは、ある旅行の夕食後、部屋に戻って晩酌を楽しむ席で起こった。クリスマスパーティーのプレゼント交換会のように、皆が持ち寄ったおつまみを紹介し合い、おっ、ここで味付けつぶ貝の缶詰、通だね、とか何とか言いながらそこら辺に残っている酒を適当に流し込み、じゃあ私はシイタケのスナック、これは中々どうしてたまりませんよ、とか何とか言ってまた飲み、それを繰り返している内に、ある者は歌い、ある者は残りの皆を集めて桂米朝の「一文笛」を流し始め、微睡みの空間が続いた。私も酩酊状態になり、眠りに落ちるか落ちないかの最中、目に移った最後の景色が後輩の小指に装着された【ちくわ】であったのだ。彼は思春期の女子学生の様にイノセントな目で私を眺めていた。私はきっと、とても穏やかな夢を見たに違いない。夢の内容は忘れてしまったがな。

    最近では皆忙しく、何処かに出かけようという話題だけで酒を飲む事が多くなった。何処に行くか、を話し合う事はとても楽しい。そこには見た事の無い世界が広がっていて、沢山の楽しみがある。でも本当は、誰と行くかだろう。違うかい?

    今度また同じメンバーで旅行に行き、おつまみプレゼン大会を開催するなら、私は【ちくわ】にしようと考えている。

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