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ひらがなエッセイ #6 【か】

     眠りたい時に眠れずに、眠ってはいけない時に眠くなる。Viva自律神経失調症。なんて、病名が定まれば病気となる。コンビニでおでん買ってるあの人も、大きく分類すれば何かしらの病気だ。目に映る全ての人が病んでる。故に「一度きりの人生だから好きに生きていけば良い。」とか何とかいう安価な言葉の抗鬱剤がよく売れる。若者の間では「どうせ百年後には皆死んでる。」なんて粗悪品すら売れてるようだ。そして私はその両方を酒と共に服飲するといった所業を繰り返し、ポジティブ馬鹿に成り果てた。あぁ、素敵で無敵。世界は今日も美しい。

    とは言え、眠れない夜はある。それは心因性の問題では無く【蚊】の直接攻撃によるモノで、イライラし過ぎて【蚊】について調べてやろう、と思い立ち、携帯片手に証明写真を撮る時の真顔で小一時間程ネットサーフィンをしていると面白い記事を見つけたので、今日のテーマは【蚊】にした。

    まず【蚊】はメスしか人間を刺さない。これについては、あっそう、ぐらいにしか思えず真顔でいたが、ビル・ゲイツが遺伝子組み換え【蚊】の開発に4億3600万円もの資金を投資しているという記事に出会い、ほぅ、と破顔した。どうやら、遺伝子組み換え【蚊】が野生のメスの【蚊】と交尾すると、生まれてくる【蚊】は全て成虫になる前に死んでしまうそうだ。豊かな睡眠、心地の良い目覚め、ありがとうビル、なんてな感情を胸に読み進めて行くと、目標は全ての【蚊】の根絶ではなく、マラリアなどの感染症を媒介する少数種の【蚊】のみを根絶する事。と書かれてあって、自分の贅沢な悩みを恥じた。ごめんビル、刺されて痒いぐらいだったら、寄ってくる【蚊】が女の子という事実を胸に、モテモテハーレム状態だと思って暮らして行くわ。

    だがしかし、痒いものは痒い。どうでもいいけどこの痒(かゆ)いって漢字、痒いよなぁ。見るだけで痒くなる。まぁ、さておき、こうなれば最後の手段だ。神々に賜りし灼熱の紅炎で深碧の螺旋を焼き尽くし、その燻煙にて露天へと誘ってやろう(蚊取り線香を使おう)。そういう風に暮らして来たし、これからもそうして暮らしていく。

    それはまるで暗い地獄へ天から垂れて来た蜘蛛の糸のような煙を前に、私はそれでも【蚊】の根絶という希望的観測を抱いていた。次第にその香は、昔住んでいた家の思い出や、周りに溢れていた生活音を運んで来て、とても郷愁的な気分になった。あの頃、自分が憧れた大人に私はちゃんとなれているのだろうか。そんな事をぼんやりと考えている内に、いつの間にか痒みを忘れ、眠ってしまっていた。

    起きたら刺された痕が二個増えてた。

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