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ひらがなエッセイ #34 【め】

    若い頃から眠りの国の王子であった私は、アルバイト先の同僚からよく【目覚まし時計】をプレゼントされた。今振り返って、マジで頼むから遅刻だけはやめてくれ、というSOSだったと推測するのは容易だが、当時は、誕プレサンキュー、渋っ、木目調のデザインイカすやん、ハイセンスだね、なんて、時計に内蔵されているアラーム機能を使用する事無く部屋に飾って放置、相も変わらず時間にルーズな日々を送っていた。私は良い人間ばかりに出会って来た、because あまり怒られる事は無かったからである。みんなありがとう、優しくしてくれて。

    私が【目覚まし時計】を使い始めたのは、社会人になってからの事である。遅刻は駄目だ、時間とお金にルーズな人は信用出来ない、信用、信用、信用第一。ピッピッピ、おはよう! ほな、いってきます!  と、いう暮らしを長らく続けたのだが、始業時間には厳しく、就業時間にルーズな経営方針に、なんっっじゃこの会社、毎夜毎夜、残業エレクトリカルパレードかまして来やがって、ファッキン出勤、やってられるか、と、時計をぶん投げて有給申請を取り、一日中泥のように眠って罪悪感と共に目覚め、投げた時計を元の位置にセットして、また真面目に働くというエンドレスラビリンス。一体私は何の為に働いているのでしょうか、誰の為、お金の為、生活の為、あぁ、受注、発注、納期、納期、品質改善、山積みの書類、ずばばばば。

    最も重要な決定とは、何をするかではなく、何をしないかを決めることだ。と、スティーブのジョブっちゃんは言った。私はこの言葉の解釈を間違い、仕事をしない、という選択をして、友人が経営するBARに潜り込み、毎日を自由気ままに暮らす事にした。たまに依頼されて何処かしらに絵を描いたり、イベントでカフェブースを出店したり、何処ぞでライブしたり、よくわからない事で小銭を稼ぎ、その日を暮らす事が正しい事なのかどうかはわからない。ただ【目覚まし時計】を捨てた生活は、ロングスリーパーの私にとっては有益なのかも知れない。人生の3分の1は眠っていると言うだろう、私は確実に2分の1は眠っている。眠りの国に王子がご帰還だ、正門を開けよ。

    とは言え、生きていく為には何かしら行動を起こさなくてはいけない。この手で今、何が出来るのだろうか。人生に対して目を覚まして考える必要はあるのかも知れないな。

    なんつって。寝よ。


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