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ひらがなエッセイ #15 【そ】

    「人類初となるブラックホールの直接撮影に成功した。」なんてニュースを耳にして、こりゃ人類の叡智だわ、めでたいめでたい、なんて言いながらグラスにビールを注いで豆腐にキムチ乗せてごま油ぶっかけ、夜の帳が下りたばかりの空へ向けてグラスを掲げた。スイスの特許局で勤めていたドイツ生まれの扁平足も喜んでいる事だろう。おめでとう、ブラックホールは観測された。貴方の【相対性理論】は正しかったのさ。一口どうだい、美味いぜキムチ豆腐、なんて言いながら。

    【相対性理論】なんて、そもそも完全に理解していないので語る事なんて出来ない。あぁ、はいはい、【相対性理論】ね、あれは〜、なんて、すまし顔で説明してくる人達に、大丈夫? と聞いてみたくなるのだが、そこはグッと堪えて、はぁ、凄いですね、と笑顔で対応する。今宵も貴方の虚栄心を満たしてあげたく存じまする。だからお酒飲ませて下さい。えへへ。とは言いながら、私も月刊Newtonの愛読者、少しばかりはお話してみたいのである。大丈夫? 

    光の速さは秒速約30万km、この宇宙にはこれより速度の速いものは存在しない。つまり光の速さを超える事は出来ないというのが【相対性理論】の基本原理の一つで、一時期ニュートリノが光速を超えた!と賑わったが、実験設備不備により正式に撤回され、やはり今でも不動の理論なのである。タキオンやスーパーブラディオンなんてのもあるが、それが証明されるのはまだまだ先の未来だろう。光を超えると言う事は時間を超えると言う事であり、過去や未来に干渉出来ると言う事になる。そんなものはござぁせん、と言い放っているのが【相対性理論】で、私は夢見る人々に現実を叩きつけるこの理論が大好きなのである。現実を愛そう、夢は寝る時見てりゃいい。

    小さな頃、漫画に出てきたタイムマシンに憧れて、勉強机の扉を何度も開け閉めした。あの時に行きたかった未来に今立って、ふと思う。私はあの時の自分に手を差し伸べてあげられるような大人になれているのだろうか、と。あの頃の自分に出会って恥ずかしくない大人でありたい、と。

    その為に私がまずやるべき事は、シンクに溜まった食器を洗う事だろう。さて、やるか。

   では、よき週末を。

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