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ひらがなエッセイ #21 【な】

    【楢】(なら)という木をご存知だろうか。材質は非常に硬く重いので加工が難しいけれども、木目が虎の皮のように美しく、高級家具やウィスキーの酒樽などに使用される木である。私は木が好きだった。好きだった、と書いたのは、私の記憶の引き出しの殆どには、アルコール過剰摂取と言う名の南京錠がかけられていて、中々引き出せないからである。高校、大学とデザインを専攻していたが、その記憶の殆どが施錠されていて、家具を製作する為に夏休み1ヶ月丸々をぶっ壊した事さえ、物置で机を見つけるまでは忘れていた。この机と椅子のセットデザインで知事賞を頂いたが、表彰状が手元に無いので記憶を美化しているだけなのかも知れない。椅子に至っては存在すら見当たらない、あぁ、物を大事にしない癖直さないとなぁ。それは良いんだが、この机の天板が確か【楢】の木なんだ。だから凄く重たい。だいぶ汚れているけれど、やはり【楢】は美しいなぁ。人間が人間であるが故に拒否する事が出来ない美意識、それを探し求めて生きていた時期があった。ペイディアスやダ・ヴィンチの黄金比率みたいな感じさ。だから酒樽を無闇やたらに投げてくるゴリラのゲームは嫌いだ。あの樽が【楢】だったらと思うとやり切れない。ブライアン・メイのレッドスペシャルに敬意を表しているのさ。【楢】使ってるからね。これは、ギターの話。

    学生の頃デザインを志したのは、普通の勉強が嫌いだったからではなく、ただ単に、私は人とは違う道を歩まなければならない、という強迫観念に近い使命感によるものだった。あいつは変わり者だ、と呼ばれたいが為に給食で皆が残した西瓜の皮を集めて食べていた小学生時代から、ジャケットの内ポケットにジャックダニエルの小瓶をいつも隠して「おはようジャック」と呼ばれて暮らした大学時代まで、私はその使命感に支配されて暮らして来た。過去の出来事は黒歴史で、昔の日記なんか読まれるのは恥ずかしいと思う人も中には居られるかも知れないが、私はそういう場で進んで情報を開示した。変わってる私を見て見て作戦である。天才になりたければ、天才のフリをすれば良い。口髭とがらして暮らせば君も天才だよ。私はいつの頃からか、天才のフリをする事を辞めた。どうやら本当に天才になったのかも知れない。あぁ、世界が輝いて見えるぜ、キラキラキラキラーってアホか。

    周りの友人達が社会で立派に家庭を築いていく中、私は相も変わらず下らない事に胸を躍らせてその日を暮らしている。

    友人達と会って話をする度に、羨ましく思えて、恥ずかしくなるけれど、ほんの少しだけ、好きな事ばかりして暮らしている自分の生き方が誇りに思える。

    また家具でも作ってみようかな。

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夏の思い出

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