オンライン授業・登校選択制への壁

私達親子は2020年春からずっと体調不良だ。
その件については後々書くとして。

小学5年生の息子も長引く倦怠感と感染不安から、時々しか学校に通えていない。
だから、一斉休校が終わった頃からずっと、オンライン授業を実施してもらえるよう、各方面に求めてきた。
その経緯は後々書くとして。

現状を端的に言うと、私達の住む市の教育委員会は「声も含めた肖像権」を一番の盾に、オンライン授業や登校選択制については一貫して消極的だ。
「肖像権」を出されると、こちらも強くは出られない。なぜなら学校とは、いろんなお考えや事情をお持ちのご家庭を背景とした集合体だからだ。
私達の都合だけでは全体の総意としての合意は難しいだろう。提案を出すだけで波風も立ててしまうかもしれない。登校選択制に対して、誤解を伴った反発が生じるかもしれない。

教育委員会や学校、市議会議員さんまで巻き込んで、何度もやり取りや話し合いを行った。しかし、「教室に生徒がいない休校時であればオンライン授業配信は可能です」「学校に来てもらって、別室・教員同伴であればオンライン授業配信を受けられます」という前向きな表現を使ったお断りに終始され、更に「校外でのオンライン授業の際は、自宅で、保護者同伴で」という条件まで明示され、正直心が折れた。
その条件であれば、私は仕事を辞めなくてはならない。
その条件であれば、ひとり親家庭の我が家は収入を断たれる。
学校との繋がりを取るか、生きていくための収入を取るか。その天秤を突き付けられた。
「お友達との繋がりや社会性のために、基本的には登校してほしい」という先方の主張の根幹との、圧倒的な矛盾。つまりは建前。教育委員会にとっては、登校する子供だけが「生徒」なのだ。
「繋がりを断たないようにオンラインで」という、折衷案と思われた私達の主張は逆説的な事情に粉砕された。

息子は私の職場に一緒に来て、私が働く間、民間のタブレット学習を受講していて、息子も満足している。
学びについては心配がない。
「お友達との繋がりや社会性」が建前なら、無理を押して登校する理由はない。

「もういいです。民間のタブレット学習で充分です。もう時々登校する意義も感じません。失望しました。」

ため息のように言葉がすべり落ちてしまった。
学校は教育委員会の意向に従うしかない。それは重々分かっているので学校側を責めるつもりはないし、長期の体調不良を理解してくれている事に深く感謝しているが、それが正直な言葉だった。
もう息子と二人、無理せずに過ごそうという気持ちで、学校側に伝えた。

しかしこれが、学校側に焦りを生んだようだった。

「待ってください。息子さんも我が校の大切な一員です。繋がりを断ってしまわれるのは待って頂けませんか?」

『いや、学校の生徒である前に、私の大切な子供で、これ以上無理をさせたり、危険に晒したりはできないんですけど?』と暴れる脳内をなんとか抑えつけて、「はぁ…」と気の抜けた声を発するのが精一杯だった。

先生が意を決したように話し始めた。
「教室のライブ配信は無理でも、別の時間で教員と繋いだりできないか、そこから突破口が開けないか、教育委員会に掛け合わせてもらえませんか?」

いや〜違うそうじゃない感が押し寄せる。
しかし、学校側のその熱意はありがたいと、正直、思った。
やっと動く気になってくれた、教育委員会からの通達に隙間を見出だせないかと、やっと考え始めてくれたのは、正直、ありがたいことだった。
戸惑いながら「はい…まぁ…お願いします…試しにやってみてもいいですけど…」とだけ言葉を絞り出した。

明日、教育委員会の職員が学校に来て、タブレットの設定や扱い方を教えながら、校内で少しだけオンライン授業配信を受けることになっている。
オンライン授業や登校選択制に立ちはだかる壁を見せつけられ、市の教育組織に失望し切った私だが、まだいろいろ試しながらまた判断していこうと思っている。我ながらしぶとい。
いずれにせよ、国や自治体が子供の健康や安全を無視し続ける姿勢を続ける限り、フルでの登校が出来ない点に変わりはない。

何か新しいことを始めるときはいろいろなトラブルやリスクが考えられる。そして責任者はその責任を負う覚悟を求められる。
コロナ禍での学校の在り方を考えるこの時、私達が住む市の教育委員会は覚悟を決めているのだ。「オンライン授業・登校選択制は導入しない」と。
何故なら、少数であるその声を封じ込める方が、圧倒的に責任が少ないから。
オンライン授業や登校選択制に立ちはだかる壁は、絡み合った鉄筋を内包したコンクリートのように冷たい。

しかし、遠慮はいらない。
最愛の子供を守るためなら賢しくならなくては。
戦略的であらねば。
何かあったときには、後悔してもしきれない。
決して高圧的な意味ではなく、
私達は私達の人生の主導権を手放してはならない。

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