見出し画像

「性の現場から見た『女性の貧困』の10年」の論点 セックスワークサミット2019秋の大会 一日目(9月22日)

9月22日(日)のセックスワークサミット2019秋の大会・一日目のトークセッション「性の現場から見た『女性の貧困』の10年」(水無田気流さん×中村淳彦さん+司会・坂爪真吾)の会場配布資料を掲載いたします。

資料の論点・内容を見て興味を持たれた方は、ぜひ会場にお越しください!

***************************

「女性の貧困」に関する社会環境・言説は、この10年間でどう変わったか

第1期(2008年~2010年)貧困の社会問題化(再発見)

●2008年 【キーワード】秋葉原殺傷事件、ロスジェネ、年越し派遣村、アラフォー、ゆとり世代
★『黒山もこもこ、抜けたら荒野 ~デフレ世代の憂鬱と希望~』(水無田気流)
1970年代前半生まれの「デフレ世代」(団塊ジュニア世代)の共通前提
① 「高度成長期最終世代」としての、親世代と比較した「相対的剥奪感」
・親世代との世代間格差、得られるはずのリターンが得られない
・経済状況と年齢との相関関係がもたらす運・不運が一生を左右する?
② 「普通に生きる」ことの難しさ
・これまでの「普通」を維持するコスト(進学、就労、結婚、家庭、育児)の膨大さ
・「普通とは、遠きにありて思ふもの、そして悲しくうたふもの」
⇒敵は日常にあり(第二派フェミニズム)
③ デフレ世代が「荒野生まれの荒野育ち」世代を論じるということ
 ⇒黒山の時代を知っているがゆえに、荒野の時代を客観視かつ問題視する動機づけが生まれる?

●2009年 【キーワード】草食男子、カツマーブーム、肉食系女子、婚活、政権交代、歴女
★『無頼化する女たち』(水無田気流)
普通がどんどん遠くなる中で・・・
① ニッポン女子の無頼化現象・・・女性の社会的自立と、これまでの伝統的文化規範からの逸脱
・女性が正しさを追求しても幸福になれない時代。「正しさ」と「望ましさ」は違う。
② 中間層の崩壊(格差と分断の時代へ)
・中間層の崩壊の過程で、幸福=経済的成功に単純化してすり替えられた?
③ 自己責任論の台頭 VS 新しい公共(ソーシャルセクター、NPO)の台頭
・勝間和代氏のような成功者の姿を過度に追いかけて悩むのは圧倒的に女性が多い
⇒社会の問題点ではなく、ひたすら自分個人の改善点ばかりを考える

★『名前のない女たち最終章 セックスと自殺のあいだで』(中村淳彦)
・「ニッポン女子の無頼化現象」の一つの終着点が、名前のない女たち=企画AV女優。
・AV業界の不況は深刻化。裸になっても稼げない・救われない時代に
・自己責任論を内面化し、伝統的文化規範から逸脱して収入と承認を求めた女性たちの絶望と悲劇
⇒「支援」から「記述」へ

第二期(2011年~2014年)女性と子どもの貧困が問題化

●2011年 【キーワード】東日本大震災、絆、震災婚、なでしこジャパン、どや顔、ラブ注入
★『平成幸福論ノート 変容する社会と「安定志向の罠」』 (田中理恵子)
●2012年 【キーワード】終活、ステマ、ネトウヨ、ロンドン五輪、東京スカイツリー
★『徹底討論!ニッポンのジレンマ』(水無田気流他)
・震災後の社会の在り方をめぐる議論が活発化、若手論客への注目(ブームの意義は)
⇒かけ声としての「絆」、実態としての婚姻数の低下(戦後最低)

★『職業としてのAV女優』『デフレ化するセックス』 (中村淳彦)
・女性たちがカラダを売る理由や仕事への意識は、必ず社会を反映している
① AV・性風俗の参入障壁低下・・・「普通の生活を送ってきたはずの女性たち」が参入
⇒働く理由は、物欲や拝金主義からくる「心の貧しさ」(病理)から「金銭的な貧しさ」(貧困)へ
② 第一次無頼化(バブル時代の挑戦)~第二次無頼化(90年代半ばの病理)~
第三次無頼化(ゼロ年代・自虐と諧謔からサバイバルへ)⇒冥府魔道(風俗・AV)へ
③ 「最後の手段を使っても何も変わらない」という絶望
⇒裸を売るリスクが低下する一方、裸になることで得られる収入も低下

●2013年 【キーワード】女性が輝く日本、JKビジネス、リベンジポルノ、バカッター
★『女子会2.0』(NHK出版:千田有紀・石崎裕子・西森路代・白河桃子・古市憲寿)
① 女性の社会進出=働かざるを得ない中高年既婚女性の増加
⇒後ろ向きの男女平等=男性の地位が相対的に下がっただけ?
② 矛盾や不合理(社会の歪みや軋み)を受け止める緩衝材としての女性
⇒風俗・AV・JKビジネス・リベンジポルノの形で具現化?

●2014年 【キーワード】「女性の貧困」報道ラッシュ、保活、マタハラ、アナ雪、壁ドン

★『無頼化した女たち』(水無田気流)
① 女性は国や社会を信じていない。国や社会も、女性を信じていない。
 ⇒女性を守るのは社会ではなく家族。家族でなければ風俗?
② 社会の不平等や雇用環境に物申しても、幸せにはなれない
⇒仕事力はあっても、女子力がないと幸せにはなれない?カツマ―にもノマドにもなりきれない
 ⇒ゼロ年代、女性の平均所得はそれほど増えず、婚姻件数も増えてはいない。
③ 女子が働くことはクソゲー?
⇒キャリアのフリーズ(初期化)、回復所(家)でも休めない、敵を倒して得られる経験値とゴールドが少なすぎ、気遣いによるMP消費量多すぎ、ストーリーがコロコロ変わる
クリア自体ができない無理ゲー?
★『日本の風俗嬢』(中村淳彦)
・「自らの意思でポジティブに働く」現代日本の風俗嬢たちのリアルを活写
 ⇒家族にすがるより、社会に異議申し立てをするより、クソゲーすぎる労働市場に適応しようとするよりも、自己責任&個人事業主として風俗で働いて稼ぐ方が合理的?

★『シングルマザーの貧困』(水無田気流)
① シングルマザーが最も必要としているのは、「夫」「お金」「制度」でもなく「妻」
⇒「女性として」「母として」の役割が重すぎる
② シングルマザーにとって、働くことが貧困の改善につながらない
⇒従業員として時給ベース+最低賃金ギリギリで働く限り、時間の貧困は解決できない
「従業員として働くことの限界」に対応した結果として、シングルマザーは個人事業主
=自営業者として風俗店で働くようになる。「ワークライフバランス」実現のために。
② 男性嫌悪と男性不信、にもかかわらず男性依存
⇒夫の存在が子にとってマイナスであれば、お金を落としてくれるだけ、夫より客のほうがいい?

第三期(2015年~2019年)貧困の不可視化とバッシング

●2015年 【キーワード】爆買い、一億総活躍社会、SEALDs、LGBT、一橋大学アウティング事件
★『「居場所」のない男、「時間」がない女』(水無田気流)
★『非婚ですが、それが何か! ? 結婚リスク時代を生きる』(上野千鶴子×水無田気流)
① 保守的な家族観を持っている先進国ほど少子化が進む
⇒家族を営むことが高リスクになるがゆえに、家族を忌避し、規範から逸脱する
⇒風俗で働く女性増加の背景には、保守的な家族観(の変わらなさ)がある?
 ⇒保守的な家族観を持っている家庭の娘ほど、風俗嬢やAV女優になりやすい?
② 女性問題の背景に潜む男性問題
⇒仕事以外の人間関係がない男性、コミュニケーションをとる相手・場所・スキルの
欠如した男性の受け皿としてのAV・風俗・キャバクラ・JKビジネス
⇒残念な元彼・元夫、#クソ客のいる生活、ホモソーシャルとミソジニー
④ 時間貧困の帰結としての風俗勤務(短時間・高収入・日払い)
⇒家族世帯を前提に社会保障制度が作られていることが問題。
⇒女性は家族の時間財・・・福祉制度の個人化は可能なのか?
⑤ キャリア志向ではない若い女性に、安定した自己承認や自信を持たせられない社会
⇒女子力を資源にするのはカッコ悪い、と考えるキャリア志向のエリート女子
女子力を資源として活用する下層女子
中間層はどちらにも振り切ることができず、もやもやを抱えがち。

★『女子大生風俗嬢 若者貧困大国・日本のリアル』(中村淳彦)
・奨学金をめぐる問題とブラックバイト・ブラック企業の社会問題化
① 「風俗をやって本当によかった」彼女たちが異口同音に語る理由とは
② 女性バッシング(女子大生風俗嬢、シングルマザー、女子高生、パパ活女子)の背景にあるもの
⇒女性の選択は「権利」ではなく、「自分勝手なわがまま」と思われがち
⇒男というだけで承認してもらえると思っている男は、女が好きなのではなく、自分を承認してくれる女が好き?「俺を選ばなかった女たちへの憎しみ」がある?

●2016年 【キーワード】AV出演強要問題、ゲス不倫、保育園落ちた日本死ね、PPAP
★『貧困とセックス』(中村淳彦×鈴木大介)
・風俗やAVなどの日々の取材が、いつの間にか「貧困問題」に
・社会学者ではなく、サブカルライターが社会問題を語る時代に
⇒二次情報の批評ではなく、一次情報(当事者の声)が優位な時代?しかし、分析や提言が弱い

●2017年 【キーワード】「適正AV」の誕生、パパ活、刑法改正、#me too、JKビジネス規制都条例
★『AV女優消滅』(中村淳彦)
・AV業界は、女優以外の関係者のセーフティネット
⇒女性以外のセーフティネットとしての風俗・AV(クソ客、DV彼氏・夫)ある種の共依存?

●2019年 【キーワード】平成から令和へ、アダルトVR、8050問題、無敵の人
★『東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか』(中村淳彦)
① 多面体の世界におけるダークサイド=「絶望サイド」・・・反響は?
② 解決策がないわけではない。しかし、それが当事者や現場に全く届いていない。
③ 貧困女子の物語は、誰によって・どのような目的で・消費されているのか
⇒個人に焦点を当てた「貧困の物語」に対する世間の反応・・・誹謗中傷コメントの嵐!
⇒女性の貧困はエンタメになるが、男性の貧困はエンタメにすらならない!
「シングルファザーの貧困」(光文社新書)は出せるか?

次の10年の課題と展望 ~これからどう変わっていくべきか~

・10年間、性産業やジェンダー・セクシュアリティをめぐる社会問題の現場にかかわってきた「デフレ世代」の絶望と希望

① 女性(の貧困)をめぐる言説や社会環境:この10年間で「変わったこと」と「変わらなかったこと」
・東電OLから東京貧困女子へ:貧困が常態化し、落差がなくなった時代に、何を書くべきか
⇒貧困記事でPVや部数が稼げなくなる時代は来る?
② 「社会の変わらなさ」とどう向き合うか、モチベーションをどう保つか
・「記述」だけでいいのか、当事者原理主義・被害者原理主義に傾倒してしまっていいのか
③ 「家族」と「働く」にかけられた呪いを解く・・・働き方と家庭生活の在り方の再編
⇒女性個人に様々な役割や負担を背負わせないと成り立たない家族に、個人も、国(社会保障)も、学校も、地域も、会社も依存してしまっている。
・次世代への貧困の連鎖・・・無頼化したように見える女性たちは、実は保守的?
「女は水商売で働くのが当たり前」「家庭に父親はいないのが当たり前」という規範を持ち、自分の母親と同じように水商売や風俗の仕事に就き、母親と同じように未婚の状態で子どもを産み育てている女性にとっては、それが「当たり前」
⇒本人は規範的に振舞っているつもりでも客観的に見れば非合理かつ逸脱的な振る舞いに
・親の呪縛・・・子ども時代に見た家族の姿、親の働く姿だけが、家族や働き方についての「正/誤」
「幸/不幸」「快/不快」を判断する唯一の基準になっている
・「産む権利」「働く権利」の確立・・・強制もされず、非難もペナルティも受けない
・「家族をつくること」と「働くこと」について、個人の実体験や固定観念を切り離した上で語る
スキルと、この両者を自らの意思でデザインしていくためのスキルを身につけること
⇒そのために必要なこと、これから私たちがやるべきことは?


サミットへの参加申し込みはこちら!

<合わせてご参加ください>

 9月21日(土)論文個別相談会(学生・院生向け)

 9月23日(月・祝)「障害者専用風俗店」の現場から考える「性に対する合理的配慮」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?