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京都SFフェスティバル2019参加記録(後編)

前編はこちら。

当日は9時頃に起床。宿1階のカフェでモーニング。オーソドックスにトースト・サラダ・フルーツ・ヨーグルトという感じでまあまあよかったです。京フェス参加の知人一家も同じ宿だったみたいで朝食時に会ったんですけど、眼鏡外してたのもあって「これあの人かな……?」と自信がなく、あいさつもせずに離脱してしまった。そのあと会場で会って「いましたよね!?」「いました!」という会話をしました。
チェックアウトギリギリの10時に宿を出たら外は台風でそこそこ雨が降っていた。ただ、宿は会場からかなり近い場所にあったので、走って移動したらほとんど濡れずに済みました。あと、台風の時はレインコートを使うのが一番ということも学んだ。

木原善彦・藤井光「実験小説を語る」

1コマ目は藤井光・木原善彦さんの実験小説企画。半分くらいは知ってる小説で半分くらいは知らない小説でした。J.J.エイブラムスが唯一小説を共著で描いてる『S.』という本が紹介されるかな、とTwitterで書いたら木原先生から「今日は持って来れませんでした」とリプライが飛んできてひえーごめんなさい!ってなった。台風の中重たい本を何冊も持ってきていただくだけでも十分です……!


昼食

1コマ目が終わったあとは昼食タイム。今年は3企画しかないおかげでランチタイムが1時間半と少し長い。それならばと大学同期の某氏についていってバスで少し離れた場所の中華料理店までランチに行く。台風のおかげで結果的に道中のバスもガラガラだし、お店も想像より空いてて大勝利ですよ。

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卵白あんかけ炒飯、卵白あんかけのおかげで全然脂っこさがなくてするっと食べきってしまった。びっくりした。

「アリスマ王vs魔術師 小川一水×小川哲対談」

2コマ目は小川小川企画。哲さんがファンキーなのに対して一水さんがぐいぐい聞き出そうとするのがおもしろかった。一水さん、時々語調が強めになるのを除けば聞き手としてのスタンスがはっきりしてて(創作論を引き出そうとしてるように思った)、かなりいい企画でした。

小林泰三・矢部崇「ホラーとSF――「未知」を描く2ジャンルの交点」

3コマ目のホラー企画、こちらはお二人のゆったりしたテンポの会話が印象的だった。小林泰三さんが「『〔少女庭国〕』で奴隷制を成立させずに展開するならこうしたらいい」といった話を始める辺りはSFの書き手としてのスタンスがはっきり現れていて興味深かったです。

夕食

本会〜合宿の間は知人7-8名と一緒に文化センター1階のカフェに行き、その後ぼたんの流れ。


京フェスの醍醐味の一つは新しい知り合いができることなんですが、この時も初めてご一緒する方がいた。友達にすすめられてイーガンとか読んでる京都の大学生らしい。もうちょいちゃんと現役生さんとか紹介してあげたらよかったな……とも思ったが、今回俺は『あたらしいサハリンの静止点』の件があってキャパ超えてたので仕方ないと割り切りました。そういやご飯食べてる間に円居さんから2冊買いたいという連絡をいただいた。

合宿会場入り〜『あたらしいサハリンの静止点』売り子

ぼたんでご飯を食べ終わったら合宿会場へ。今年は台風が重なったこと+早川書房の三体イベントが丸被りしたことなどあって、例年より人が少なかった印象です。オープニングの後は、千葉さん・織戸さんと一緒に『あたらしいサハリンの静止点』の売り子です。3人で交代交代でシフトを組む。

オープニング〜1コマ目あたりで軽く風呂に入った後、織戸さんと売り子をしてました。新作「八月の荼毘」を書く際、地の文と台詞とのバランスやシーンごとの盛り上げ方とかに関して、『終わりのセラフ』の講談社ノベライズ前日譚をめっちゃ参考にしたという話をしたところ、丁度織戸さんが1巻を買って読んでらしたのでそのまま『終わりのセラフ』の話をさせてもらう。いまジャンプSQの本編の方がいい盛り上がり方をしています。というか本編が盛り上がってたからノベライズ読み返して結果的に作品に影響を与えたというのか正確なところ。

その流れから山本ヤマトさんの話に移ります。「山本先生は昔、とあるシェアードワールド企画の宣伝漫画を描いていたんですよ。憑依都市って言うんですけど」まさかの憑依都市の話題である。大学の某先輩がよく話していたのでこれは伝えねばと思いTwitterに書いたら、10分後くらいに嬉々として我々の場所にいらっしゃった。吉川良太郎のやつが特に好みとか、憑依都市のシェアワールドものとしての特徴とか、そういった話を伺う。

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写真は帰宅後購入した憑依都市に関連する雑誌。

2コマ目:東北大SF研、中国SFを大いに語る

ケン・リュウの活躍や劉慈欣「三体」の大ヒットにより、一躍注目の集まる中国SF。そんな中国SF・中華SFの世界を、本場中国からやってきたSFファンと日本人のSFファンとの2人が語ります。現在翻訳中の中国のSF作家、韓松の作品についても触れる予定です。

2コマ目が始まったくらいで千葉さんが再び合流したので、シフトを交代してこちらに移動。途中から参加したので、部屋から人が溢れかえっていました。ケン・リュウが中国人(の東北大SF研メンバー)からみてどう見えるのかを聞いたのは覚えている。あと、「『三体』は中国からすると貴重な海外資本の獲得源」みたいな話も仰っていた気がする。

3コマ目:魔術的リアリズムに見るSF――ラテンアメリカ文学部屋

昨年ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』が復刊され、今年もガルシア=マルケスの新訳短編集が刊行されるなど、未だ根強い人気を博すラテンアメリカ文学。その代名詞でもある「魔術的リアリズム」に含まれる奇想には、SFのセンス・オブ・ワンダーにも通じるものがあると思います。
そこで今回は、今年の創元SF短編賞日下三蔵賞受賞者で、京大SF研OBでもある谷林守氏とともに、SFファンにもおすすめしたいラテンアメリカ文学作品について語ります。

3コマ目は鯨井くんと主催するマジックリアリズムの部屋に。鯨井くんからお声かけいただいて自分は参加したんですが、本当に通り一遍のことしか語っていないのではというところで不安が大きかったので、後でTwitterを検索してみると楽しかったというコメントを見かけるのに一安心。でもその一方で、「最新状況が知りたい」「ラテンアメリカ外の魔術的リアリズムを知りたい」という声も散見されたので、やっぱり最新のラテンアメリカ文学事情はちゃんと調べておくべきでしたね、結構反省している。

ただ紹介しなかったのは一応意図的なものではありました。というのも、『「ラテンアメリカ文学=魔術的リアリズム」として扱われているのは実際それでいいの?』という声はブーム期もブーム以後の1980年代以降も確かに存在していたらしく、そっちの方向に話が進むと「2019年に魔術的リアリズムというテーマで何かを語ること」そのものが孕む課題に話が膨らむかなと思ったので、鯨井さんの意図は別にして自分は意図的に避けてしまいました。

せっかくなので何かまとめられないかなと思い、英語版Wikipediaを雑に漁って「魔術的リアリズム」でヒットする作品/作家にどんなものがあるかを調べてみました(悪いが知識のとっかかりとして俺は遠慮なくWikipediaを使うぞ)。それがこちら。

ジョナサン・サフラン・フォア『エヴリシング・イズ・イルミネイテッド』/トニ・モリスン『ビラヴド』『ソロモンの歌』/サルマン・ラシュディ/アンジェラ・カーター/ギュンター・グラス/ジョゼ サラマーゴ/ルイス・セプルペダ/村上春樹/大木健三郎『同時代ゲーム』/カルロス・ルイス・サフォン『風の影』/マイケル・シェイボン『ユダヤ警官同盟』/ジョン・クロウリー『リトル・ビッグ』/ジェフリー・ユージェニデス『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』/ジョン・アップダイク/スティーヴン・キング『グリーンマイル』/カレン・テイ・ヤマシタ『熱帯雨林の彼方に』/ブラッドベリ『たんぽぽのお酒』/カレン・ラッセル『スワンプランディア』/ジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』/ジョイス・キャロル・オーツ/スティーヴ・エリクソン『アムネジアスコープ』/ブルガーコフ『犬の心臓』『巨匠とマルガリータ』/ナボコフ『ロリータ』/マイケル・オンダーチェ/ジャネット・ウィンターソン/ケイト・アトキンソン

野放図というかこれ何をどうまとめたらいいんだ! という感じになったので当座は諦めました。この辺の理論立てというか、ラテンアメリカ外の魔術的リアリズムについては確かにどこかのタイミングでもうちょいまとめておきたいところです。それはそうと、ジーン・ウルフが魔術的リアリズムを「スペイン語話者が書いたファンタジー」と語っていたことがあるのをはじめて知ったので英語版Wikipediaも馬鹿にできねえなと思った。

当日の資料はこちら。ここにも書いてますが、安藤哲行『現代ラテンアメリカ文学併走』は1990~2000年代の一部の国の文学状況や、当時発表された未訳作品等にを知るのに優れているのでおすすめです。あと読み物として大変面白い。

4コマ目:2019年の神経科学とフィクション

意識や自由意志、記憶といった神経科学のトピックは、一方では多くのフィクションにおいて中心的にとりあげられてきた題材でもあります。本企画ではまず2019年における神経科学の現状を簡単に紹介し、その上で現実と虚構を自由に行き来しながら、技術革新によって変容しつつある人間観と社会について考えていきたいと思います。
企画のたたき台となる資料を https://scrapbox.io/neuroSF にて公開、更新中です。お時間があればこちらもご覧ください。

4コマ目は神経科学の部屋に。神経科学(≒脳科学)に関する、割合ミクロな実験・研究の話を色々聞かせてもらって楽しかったです。シナプスの発火に伴い発光するタンパク質を利用した脳の活動を視覚化する実験、物理的な迷路でなくVRでの仮想迷路を利用した、鼠の活動の条件づけを狂わせる実験(視覚的に距離感を狂わせる(壁がいきなり一気に近づいてくる)といったことをおこなうと鼠はどう反応するかなど)とか。「脳が完全に一体化し、感覚や相手の感情も共有しているにもかかわらず意識は別々」なシャム双生児を用いた意識の範囲の研究など。

4コマ後~朝6時まで

そのあとは大広間で色々な話を聞きました。以下雑多に書き下し。

・何人かの前でレイナルド・アレナスの話をしました。
・「毎日書くには健康的な生活習慣が大事」という話題で『僕の心のヤバイやつ』の桜井のりお先生は毎日19時台にTwitterを更新しているのであの人の生活習慣はかなり規則正しいはずという話を振りました。
・某氏はSF漫画の歴史に興味がシフトしているらしく、その辺の歴史を伺いました。
・麦原さん、オキシさん、その他某作家さんらの会話に混ざり込みます。そこにあとから織戸さんが混じりSF作家の会合的ななんかになりました。
・オキシさんが「SF作家になったからって専業になったらいけませんからね!」と何度も繰り返していた。あと「円城塔さんはね! ただのおもろいおっちゃんですよ!」「皆月蒼葉さんはね! 一次創作を書くべきなんですよ!」と叫ぶ姿、毎年恒例になりつつある。円城さんを京フェスに呼んで深夜にオキシさんとぶつけるべき。オキシさんからは野尻抱介さんの〈クレギオン〉シリーズと『沈黙のフライバイ』を激推しいただきました。
・これ誰にどの文脈で教えてもらったのか覚えてないんですが三雲岳斗『忘られのリメメント』もすすめられました。
・頭が回らなくなってきたタイミングで俺と織戸さんが「今後どうしていったらいいんでしょうね……」「アイデアってどうやって考えたらいいんでしょうね……」という話をして某氏を困らせたのではないかと今更ながら心配になった。某氏は語りたい世界観ありきで話を作るタイプの方で、自分は「こういうシチュエーションの話を書きたい」というモチベから話を作りがちだったので、悩み所が真逆っぽい(織戸さんに確認はしてないけどそういう話だったのではないか)。
・3−4時くらいだったと思うんですが、大広間で大きな音がしました。体育座り状態でぼんやりしてた参加者の誰かが、割と怖い感じにバタリと横に倒れたんですよね。意識がちゃんとしてる人の倒れ方じゃなかったからみんな慌てて快方を始める。お酒には気をつけていきましょう。

そんなこんなで6時くらいまで色々話し、1時間半くらい眠る。

京フェス後:東寺観光

京フェス明けには京都観光。知人数名と平安神宮近くの喫茶店に行きました。みんなぬるっと鴨川方面に出て川沿いに下っていくか、合宿会場近くのからふねやに行くかのどっちかだと思ったので、そのあたりから外れた場所は穴場だろうと踏んだのです。実際空いていたので正解でしたね。たまごサンドが旨かった。でも今年くらいで閉店しちゃうらしい。せっかくの穴場が……。本店があるらしいので次回からはそちらに行きたいところです。

ご飯食べながら予定を相談。南禅寺に行ってから東寺の特別展にという案を提示したところ、同行者の友人たちから「体力が……」「体力が持たない……」という声があがる。言い出した自分も「確かに体力保たんわ……」となったので、ご飯後そのまま東寺に直行しました。

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初訪問だったんですが、だだっ広いので混んでなくていいですね。観光の地味な穴場に思えた。立体曼荼羅(大講堂にある21体の仏像)はなかなかの迫力。宝物殿で曼荼羅の解説を聞いたり、枯山水の庭園でぼーっとしたり、京フェス明けにしてはのんびりできたのではないかと思った。

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昼頃に京都駅に戻ってパスタ食べた辺りで体力の限界。解散しました。

まとめ

『あたらしいサハリンの静止点』がご好評いただけたようで大変ありがたかったです。何人か、知人に頼まれてと数冊買われたかたもいらして頭がさがる一方です。制作に関して色々話題はあるのですが、それは年内の頒布が終わったくらいでまた書こうと思います。

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