『サマーウォーズ』と公共性

2019年9月24日 火曜日
この日、私は午後から自宅にいた。そのあとゲオへ行き、DVDを借りた。そして、途中でコンビニに寄り、彼女の家に行った。冷蔵庫からビールを取り、ソファへ移動し、テーブルの上に置いたビールを飲んだ。

映画を見たかった私は、床に置いてあるDVDの入った袋を開け、『サマーウォーズ』を取り出した。DVDデッキへ行き、DVDを挿入して、デッキの上にある再生ボタンを押した。

『サマーウォーズ』は、細田守さんが監督を務めたアニメ映画である。世界中の人々が「OZ」という仮想世界内に自らのアバターを持ち、その中で提供されるサービスを利用しながら生活を送っている。ここで作られたアバターは、持ち主と同等の権利を持っている。

主人公は、この「OZ」のサーヴァーの管理をしていた高校生のシンジくんを中心に話が展開される。彼は、夏休みに同じ高校の先輩である唯さんのお手伝いとして彼女の実家へ行くことになった。最初は、実家へ行くだけだと考えていたシンジだが、彼女の実家で許嫁として紹介される。その後、彼女にアルバイトの内容が、4日間、許嫁として振る舞うことだと知らされる。そんなことが行われている中、「OZ」内では別の大きな問題が発生していた。

『サマーウォーズ』では、この「OZ」のサーヴァーがAIによりハッキングされてしまう。このハッキング事件により、現実世界へ混乱が起きてしまうのである。

話のあらすじは上記の通りである。
今回は、この映画を通してみる仮想世界の均質性とその中での個人について見ていきたい。

本作では、仮想世界とアバターそして両者の関係が映画の演出として利用されている。

まずはじめに、本作内の仮想世界について考察していこう。本作では、ストーリーの半分が「OZ」という仮想世界で展開される。

「OZ」では、全ての人がアバターに変換される。そして、このアバターを通して人々はサービスを受けることができる。また、内部で使用される言語は同時翻訳が行われ、違う国同士のコミュニケーションが可能となる。また、「OZ」の大きな特徴として、全員が一つの大きな空間を共有し、同じ世界観の中で活動が行われている。このことから、『サマーウォーズ』で扱われている仮想世界は、利用者が個人とは別のアバターに置き換えられ、誰もが均質に利用できる公共空間として作られている。

この「OZ」内で見られる公共性は、平面的な公共性ではなく空間的なものとしてより均質に作られている。アバターは、「OZ」内を浮遊し、横だけでなく、縦の動きを伴いながら移動している。これは、土地や重力という現実世界の文脈を剥ぎ取り、ホワイトな均質空間としてより抽象度の高い公共空間となっている。このことから、「OZ」は均質性を内包した空間として現れるのである。

それでは、「OZ」内で個人の代替として扱われるアバターは、どのようなものなのだろうか。映画では、唯先輩の親戚のアバターは、彼らの職業や人格をもとに形成されている。漁師を職業としているおじさんのアバターは、イカをモチーフに作られている。医者のアバターは、薬を、消防士のアバターは、ホースを背負った形で作られているのだ。そして、彼らのアバターには、持ち主と同様の権限が与えられている。この映画で出てくる、人工衛星のアラワシも、アラワシを操作する権限を持った人のアバターが奪われた結果、AIにより操作されてしまう。

これは、均質空間の中で、現実世界の文脈がアバター化していると言える。外見や権利など人を構成する重要な要素が、現実世界からの影響を受けており、「OZ」内でも現れているのだ。

ここから、仮想世界とアバターの関係についてみていこう。

「OZ」では、仮想世界が均質空間という公共性により構築されている。そして、アバターが現実世界の文脈を持った存在として現れる。

仮想世界 対 アバターの構図は、公共性 対 個別性の構図と置き換えられる。これが、現在の情報化社会で扱われる仮想世界の役割なのだ。

仮想世界内では、別々の文脈を持った人間が大きな均質空間を介して同等に扱われる。仮想世界は、その均質空間を作るための媒介として利用されているのだ。

『サマーウォーズ』では、この関係が「OZ」とアバターとしてうまく表現されている。そして、この個別の文脈をもつアバターが、「OZ」という均質空間で一つになることが、本作では大きな感動となる。情報化社会で可能となった均質空間とアバター化した文脈を利用し、今までにない大衆性と個別性を作り出した。だからこそ、この映画は、一つの作品として成功したのだろう。

しかしこの映画には、これまでの公共性の先の、次の時代の公共性が現れている。

それは、AIと花札で対決しているときの一つのシーンに表現されていた。またいつか、『サマーウォーズ』について書くなら、この次の時代の公共性について語っていければと思う。

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