「貯水タンク」#1沖縄の建築における特徴

この「沖縄の建築における特徴」では、沖縄の現代建築における特徴から、沖縄の建築設計と沖縄の社会的、文化的、地理的特性について見ていきたい。

今回は、記念すべき第1回目であり、今後の記事の方向性を明確にする為に、沖縄の現代建築の中でもすぐに見て分かりやすい、「貯水タンク」を軸に話をしていこうと思う。また、ここで書かれる記事は、沖縄県外の人にも伝わりやすいように、なるべく具体的な説明をする予定なので、沖縄県内の人にとって読み応えのない文章となるかもしれない。しかし、沖縄の建築における特徴は、県外の人に理解してもらい、相対的な評価を受けることで、より多角的な見方が出来ると考えている為、多少物足りない内容であっても分かりやすさを優先させていこうと思う。

まずはじめに、沖縄の建築における「貯水タンク」とは、どういうものかについて説明していく。本来、「貯水タンク」とは、水を貯めるタンク全般を対象としていて、沖縄以外でも見ることができる為、それだけの定義だと、沖縄の建築における特徴と断言することはできない。しかし、沖縄の建築における「貯水タンク」は、県外の建築に見られるものと、機能が同じだが、使用される目的が少し異なる。

 沖縄では、住宅や集合住宅、店舗に至るまで、多くのビルディングタイプにおいて、屋根上にタンクをのせている。これは、一部の地域に限定されておらず、沖縄県全体で、屋根上のタンクが並んでいる景色を見ることができる。このように、屋根上に「貯水タンク」が多くの建築物に備え付けられている光景は、沖縄でしか見受けられず、沖縄の建築における特徴と言えるだろう。しかし、沖縄県は、亜熱帯地域に分類される高温多雨の気候であり、全国平均より降水量が多くなっている。そんな地域でなぜ、各建築物に水を貯める「貯水タンク」が必要になるのだろうか。

そこには、大きく二つの理由が挙げられる。下記にその理由を示す。

1)島嶼地域による貯水力の低さ

2)人口密度の高さ

まず、1)島嶼地域による貯水力の低さ だが、沖縄県は、島嶼地域(大小の島々によって構成されている地域)であり、陸地面積が小さく、日本本土のような長い川が存在しない。その為、沖縄県では、他県と比べて降水量が多くても、貯水力が低くなってしまい、水不足に陥ってしまうのだ。

次に、2)人口密度の高さ では、沖縄県が敷地面積が小さい割に人口が多いことが原因で、人口密度が高くなる。そして、もとから貯水力の低い沖縄県では、少ない水を多くの人に分配する形になるので、頻繁に水不足が発生してしまうのだ。このような、沖縄県特有の事情から、沖縄県では、多くのダムの建設が行われ、貯水力の向上を図る等、対策が講じられてきた。その対策の一部として、住宅やその他の建築物では、「貯水タンク」を設置してきたのである。

ここまでは、沖縄県において「貯水タンク」が設置された背景について説明してきた。次は、「貯水タンク」が沖縄の建築、特に建築計画にどのように組み込まれてきたのかについて見ていきたい。

はじめに、建築物における「貯水タンク」の配置計画について調査を行なった。ここでは、現地視察とそこで撮影された写真から、4つのパターンに分類した。下記にその分類を示す。

1)屋上設置型

2)ピロティ設置型

3)敷地設置型

4)バルコニー設置型

1)屋上設置型は、基本的な「貯水タンク」の形式であり、屋上に貯水タンクを設置しているものである。

2)ピロティ設置型は、沖縄の建築における特徴の一つであるピロティ空間に「貯水タンク」を設置した形式である。ここでは、階段下のスペースや駐車場として利用できない壁際に設置されている例が、確認された。

3)敷地設置型は、建築物と敷地境界の間に設けられた空間に「貯水タンク」を設置した形式である。ここでは、前面道路側でない背面部周辺に設置されている例が、確認された。

4)バルコニー設置型は、2階以上に設けられたバルコニーに「貯水タンク」を設置した形式である。これは、あまり見受けられなかったが、1)との併用型が確認された。

次に、「貯水タンク」とその周辺部の工作物について調査を行なった。「貯水タンク」は、建築物に用いられる際、周辺部を工作物で覆い、外部から見えないようなデザインとなっている場合が見受けられた。ここでは、それらのデザインを分類し、4つのパターンに分類した。

1)単体設置型

2)全外周目隠し型

3)部分外周目隠し型

4)シースルー型

1)単体設置型は、目隠しがされていない形式で、「貯水タンク」がそのまま設置されている。

2)全外周目隠し型は、「貯水タンク」周辺部がRC造やCB造で覆われており、建築物と一体化されたデザインや、目隠し部分のみ色が変えられている場合が見受けられた。また、集合住宅等は、目隠し部分に集合住宅の名称を記載して、広告塔のように利用しているデザインも見受けられた。

3)部分外周目隠し型は、2)と比較して、部分的な箇所に目隠しが用いられていた。いくつかパターンが見られたが、建築物正面部のみ目隠しをしている場合や、「貯水タンク」下部のみ目隠しをしている場合が挙げられる。

4)シースルー型は、「貯水タンク」周辺部の目隠しに、沖縄の建築における特徴の一つである花ブロックを用いていたり、RC造による横向きルーバーのデザインが用いられている例が、確認された。

このように、「貯水タンク」では、配置計画や「貯水タンク」周辺部の工作物において、違いが見られることがわかった。「貯水タンク」は、建築物外観の形態やボリューム感など、多くの部分に影響を与えている為、「貯水タンク」の配置計画やその周辺部の工作物のデザインは、建築物の印象を決定する大きな要因であると言える。また、今回は、「貯水タンク」のみに着目しており、そこへつながる動線計画まで含めた調査が行われていない。今後は、外階段や梯子の建築計画まで含めた調査を進めていきたい。

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