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ゲームを語りたい、面白さを研究したい人にとっておきの一冊がある。

ウィキダです。ゲームの記事や情報、というと企業やニュースサイトの紹介やプレイした感想が多いだろう。それとは別にゲームの面白さについて考える記事もある。インディーズゲームの開発者がどんなゲームに影響を受けてコンセプトに反映したかを受け答えたり、esportsのプロゲーマーがいかに観客を楽しませるか、ゲームの駆け引きは何かを語ったり、またGame Developers Conference で開発の過程を公開することで開発者間以外にユーザーにとって興味深い話を聞くことも出来る。
しかしそれでは飽き足らず、より深くたくさんのゲームについて語りたい、面白さについて知りたいという人もいるだろう。そんな方にはこれがオススメだ。

◯ゲームデザイナーのための空間設計 歴史的建造物から学ぶレベルデザイン

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レベルデザインとは難易度の設計…ではなくマップやステージ、背景などをゲームコンセプトやメカニクスにどう結びつけるかを考える分野だ。英語圏ではレベルはステージなどを指す言葉でレベルデザインを難易度の言葉とするのは誤訳といえる和製英語である。

よりよいステージを作るにはどうするか、他のゲームではどうしているか、建築学の観点から根拠を当てはめている。

本書はゲーム開発者向けに書かれた「ガチ」な内容なのだが読み物としても非常に面白い。ステージ一つとってもプレイヤーに操作方法を教え、ゲームの有利不利を左右してプレイヤーを楽しませる。その解説にほぼ必ず既存のゲームによる実現例を出している。

具体的には
・「スーパーマリオ64は最初のスターを手に入れる過程で
マップを一通り回ることで同じレベルのスターをに入れる予習を行う」

・「狭い通路は恐怖や緊張感をだすため
ロックマンはボス前に狭い通路を通ることで緊張感出すと同時に
武器の準備空間として機能する」

・「ハーフライフ2のシタデルという高い建物を最終目的地として、
そこからどこまで近づいたかでゲームの進行度を知る」

などといった具合である。

レベルの設計に意味があること示す根拠として歴史的建造物と
ゲームの共通点を挙げるという方法をとっている。
帯に「名作ゲーム136点と名建築57点」とある通り
かなりの数のゲームについて解説されている。
そのため「レベルデザインが優秀なゲームカタログ」として利用できる。

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本書の索引。ずらっとマリオやダンジョンズ&ドラゴンズなどの
ゲームタイトルが並ぶ中でサグラダ・ファミリア教会やソロモン王の宮殿
といった文字が並ぶ本はそうそうないだろう。

難しい建築用語、知らないゲームも多数紹介されるであろうが
どれも必ず十分な解説がされており、見やすいスケッチ、スクリーンショットもほぼ必ず記載されているためググりながら読まなきゃいけないということはまず無い。

(リンク先のアマゾンの商品画像参考)
https://www.amazon.co.jp/dp/4862462618/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_AqvuybQ5SJYVN
図説のないページのほうが少ないくらいで非常に楽しく読み進められる。
中でも日本庭園っぽく書かれたスーパーマリオワールドはユニークなので是非本を買って見て頂きたい。

小手先のテクニックを取り上げるだけではなく建築デザインから原理原則を紐解いたものなのであらゆる分野に利用でき、古びることのない知識になってくれるだろう。

値段は7,560円(2018/03/27 時点 Amazonの新品)と高めだが
総合してこれほど高い水準で書かれたゲームのハウツー本は
他に代えがたいという意味でその価値はあると考える。

◯まとめ

レベルデザインだけでもあらゆるゲームの奥深さ実感できる点でより(いちユーザーとしては必要以上に)深く楽しめるようになる本だ。ゆえにこの本は必読書というよりとっておきの一冊である。ただここまで既存のゲームを研究してもゲームの進歩とともにレベルデザインもまた進歩している。「METAL GEAR SOLID V : THE PHANTOM PAIN」では高所からの偵察とマーキングを行い、多様な解決策を用意することで潜入方法を組み立てる「自由潜入」の楽しさを提案したり、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」では山や崖などの地形で視線誘導しつつ、その向こうに塔や建物をチラ見せすることで好奇心を刺激する「フィールド三角形の法則」を生み出した。(参考: http://www.4gamer.net/games/341/G034168/20170901120/ )
この本はそんな新たなゲームの深みに気づく助けにもなるだろう。

◯さらについでに

この本を買ったのは数年前で、当時の感想は「とても面白いし興味深いけどあまりにガチすぎて誰にも紹介出来ない」というものだった。まず読書のターゲットがゲーム開発者だし、他に読むとすればライターかゲーム博士でも目指すような人だろうかといった感じだ。しかし冒頭に書いたようにゲームの面白さ自体を取り上げる情報の発信も増えてそれにリアクションするユーザーも増えつつあるように感じる。それで改めて紹介に至った。
そういった情報の発信が増えた要因として予想されるのは個性的なインディーズゲームが増えて単純にゲームのタイトル数と既存のジャンルにとらわないゲームが増えたこと。またA級タイトルでも様々な進化のなかで成功や失敗を出すうちにユーザーもゲームに対する多様な視点が必要になり、やがてどうしてゲームって面白いんだっけ?という問いにたどり着いたからではないかと思う。マリオメーカーなどはまさにそれを考えるキッカケになった人もいるのではないだろうか。ニンテンドーダイレクトでは開発に関わった人がそのゲームの面白さについて発信するようになったりと今後もこうしたゲームの面白さ自体を伝え合う機会は増えると思う。もし本書を読む人がいたらこの本がその考えかたの軸となればなお幸いだ。

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