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【Cuphead:分析】君の本気を呼び覚ますボスバトルのキモは単純化するパターン

ウィキダです。Cupheadは1930年代のアニメーションをリスペクトした
ビジュアルが眼を惹くボスバトル中心の2Dアクションゲームだ。
Steam、Xbox One、MicroSoft Storeで購入出来る。
え?さすがに生まれていない?奇遇だな私もだ。でもポパイをどこかで見たことはあるとは思う。フィリックスのいちごガム…は最近見ないかもしれないな。さすがにディズニーはわかるだろう。
とにかくそんな表情豊かで何かがキマっているカートゥーンが
まさにそのままゲームになったといっても過言ではない。

ビジュアルとならんで特に話題になるのがその難易度だ。
1戦は2分前後と短いが体力は3つ。
増加出来ても5つまであり、一部のステージとマルチプレイでの復活を除いて戦闘中の回復はない。ゴリ押しを許さぬ、いわば死に覚えゲーであり腕に自信があっても初見で倒せるボスはおそらくそう多くはないだろう。
しかし悔しくなってついついやってしまう。

今回はその難易度の妙をボスの攻撃パターンから分析したい。あくまで分析であって攻略ではないがもうCupheadをプレイした人やウィッシュリストに入れてこれからセールまで睨んでいる人も何かの知見となれば幸いだ。

◯単純なほどアツいボスのパターン

まずどのボスも必ずド派手な形態変化がある。これは短期目標とちょっとした演出によるご褒美を兼ねている。逆にボスにやられると残り体力、他の形態までの目安が表示される。おまけに形態別の煽り文句が出てくるという芸の細かさだ。

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「お前の未来が見える…ウジ虫を数えるお前が…」

しかしさらに気になるのがボスの攻撃パターンが最後は単純になっていることだ。最初はランダム要素が多かったり複雑な対処を求められるが
最後の形態は攻撃パターンが減り大味な攻撃になることが多い。

具体的な例を挙げていこう。
エリア2で相手にするお菓子の世界のVon bon bonは5体の手下のうち3体をランダムにけしかけてくる。手下の強さはまちまちだが飛び跳ねたり弾をばらまくなど、どれも単純な攻撃の繰り返しだ。
手下の1体目倒すと定期的に小さなジェリービーンズのザコが走ってくる、2体目を倒すと銃からショットで破壊出来る綿菓子を撃ってくる。

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画像では羽のついたワッフルが手下、Cupheadの足元にジェリービーンズのザコ、顔のついた綿菓子を右上のVon bon bonが発射している。
最初は手下の攻略だけでいいがそのうちジェリービーンズをジャンプで避けるか?ショットで倒すべきか?敵はライフルを構えていないか?といった判断を同時に行うとことになる。
段階を踏んでいるとは言え一度に3つの状況判断を求められるため慣れないうちは混乱するだろう。そのうえ再挑戦のたびにまだ見たことのない手下と会う可能性があるためさらに初見での対処難易度はあがる。
しかし手下の攻撃はどれもワンパターンなので一度出会った手下はどうすればいいかすぐ思いつく。つまり単純なパターンが少しずつかけあわされることで難易度をあげている。
これは宮本茂氏がマリオで掲げるアクションの醍醐味にも通じる

社長が訊く『New スーパーマリオブラザーズWii』
https://www.nintendo.co.jp/wii/interview/smnj/vol1/
以下引用

宮本 ええ。
で、たとえばひとつのアクションがあって、
それはカンタンにできるとします。
それとは別のカンタンにできる操作がある。
でも、そのカンタンにできるようなことを
「2つ同時にしろ」と言われるとなかなか難しいんです。
岩田 ひとつひとつはカンタンにできることを
2つ同時にやろうとすると難しくて、
それがカンタンにできそうだと思うからこそ、
失敗すると「悔しい」と感じるんですね。

Cupheadも単純なパターン一つ一つの組み合わせを作ることによってプレイヤーに対処方法は分かる状態を作りつつ難易度をあげている。

3体の手下を倒した後はお菓子の城が追ってきて強制スクロールとなる。攻撃方法はプレイヤーに向かって飛ぶボスの頭と巨大なミントロールを吐くだけの攻撃になる。

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ではなぜこのようなパターンになったか。
そう、まさにクライマックスを演出してプレイヤーの緊張感を高めてシンプルな攻撃で倒すことで「あれさえ避ければ勝てたのに!」と悔しい思いをさせるためだ。

本作のボスの最終形態はガラっと見た目が変わり単純な攻撃ながら緊張感を煽るボスキャラが多い、というかほとんどだ。
・地面をトゲのある根で覆いきってしまうお花のCagney Carnation。
・狭い洞窟に入って石化光線で壁にぶつけようとする人魚のCala Maria
・あろうことか本来のボスを投げ飛ばして画面いっぱいの極太レーザーを撃つCaptain Brineybeardの船
ラスボスも最後のパターンは足場を一つにしてチップ落としながらただ泣くだけという潔さだ。

どれも簡単と断言できないにしても判断に悩む部分はすくないだろう。

他のボスは攻略Wikiや動画などであらためてボスの攻撃パターンをざっとみるとわかっていただけると思う。
http://cuphead.swiki.jp/index.php
(一応、序盤にでてくる根菜のThe Root Pack、カエルのRibby and Croaksは最後の方が複雑でランダム要素もあるという例外だが)

最後のパターンが単純な理由としてほかに思いつくのは
・ラストに知らないパターンを出されるとプレイヤーは他にもパターンがあるかの模索をしなくてはならないという精神的な負担の軽減。
・後半ほどHPは減っており、緊張感が高まる中で複雑な操作を避けるという配慮。
などが挙げられる。

こうした悔しさをバネに難しさに挑む古典的なスタイルをあらゆるプレイヤーに提示するのがCupheadの魅力だ。

◯まとめ

プレイヤーに対して難易度を配慮するゲームも増えている。
いつでも難易度を変えられる、負け続けるとハンデを選択出来るようになるといったものだ。プレイヤーもゲームを詰まったままにしておきたくないし、開発者も買ってもらった以上は楽しんでもらいたい。
そういった工夫も私は尊重している。

Cupheadにもやさしめの難易度、Simpleがある。
これで一度ステージを進めてコインを集め、装備を強化することができる。だがRegularで全員倒さないとラスボスまで挑めないようになっている。
その難易度こそが魂を賭けた本気の戦いであり、プレイヤーが万全になるまでそのチャンスはいつでもあるという開発者の意図だろう。

ゲームに限らずスポーツ、芸術、勉強に仕事など本気だすのは簡単ではない。
なにかを本気でやるにはそれに成功や失敗に見合った反応やちょうどいい強さの相手、経過の手応えがないとそのモチベーションを維持するのは難しい。
手をつけても何をもって成功なのか、そのためにどうすれば改善できるのかがわからなければ結局飽きちゃったり投げ出したりしてしまう。
しかしできないからといって手を抜かれたら相手も本気じゃないという気持ちからやる気を失ってしまう。

このゲームはゲームパッドを握る者の本気を引き出す。
それは難しいとわかっていながら挑むプレイヤーに
ボスたちは豊かな表情で迎えて、負けたプレイヤーを煽り、ゴールを示しながら解決策をほのめかす。

そうしてついにボスを倒してKNOCK OUT!の叫びとゴングを聞いて悔しそうにするボスを見たとき、君は歓喜と成長を実感できるだろう。

本作の舞台、Inkwell Islandの愉快な仲間たちは君の挑戦とその勝利を分かち合えるのをいつでも待っている。

……

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※補足:ドラゴンのGrim Matchstick。ラストのパターンは高速で回る三首のどれかから火の弾を出すか火炎放射器になって横一閃に火を吹くの二つだけ。しかし動く雲の足場+後から追って攻撃しにくい+嵐で見づらいという状況の厄介さとあいまって作中屈指の強さを誇る。ラスボスより強いという声も。

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