ネタバレから始まる巻き込み型マーケティング、どんどん広まっていきます!
小学館がミステリー小説を発売前全文公開に踏み切ったというこのニュース!
小学館は17日、ミステリー作家、蘇部健一さんの書き下ろし小説のタイトルを一般公募すると発表した。集まった案の中から編集部が選んだ5タイトルを最終候補としてネット上の投票で決めるという異例の試みだ。17日から12月7日までの3週間、小学館のサイトで全文を無料公開した上でタイトルを募集する。
この人が著者の蘇部健一さん。
とてもおもしろい!
書籍の無料公開を自ら実行し、話題となっているのはご存知キンコン西野さんですが、彼もびっくりの思い切ったやり方でしょう。絵本やビジネス書と「ネタバレ厳禁」のミステリー小説とはやや違いますからね。
かつてミステリー小説でベストセラーになったものは数多くありますが、その中でも最後の一行で大どんでん返しになるようなものは、マナーとしてたとえネットでもネタバレは避けられるものでした。
例えば、ダウンタウンの松本人志が絶賛していた乾くるみの「イニシエーションラブ」とか叙述トリックの古典ともいうべき歌野晶午の「葉桜の季節に君を想うということ」などはネタバレしたらつまらないと言われてきました。
でも、時代は変わります。ネタバレから始まるマーケティング、どんどん広まっていくと思います。
西野さんの「革命のファンファーレ」に、"人は確認作業でしか動かない"という言葉がある。これはまさにその通りで、これだけ情報過多の時代に、得体のしれないものやわけのわからないものに生活者はお金や時間を割かない。だって失敗したくないもの。
人々がどんなに宿泊費が高くても京都の紅葉を見に行くのは(普段6000円のアパホテルが25000円になる)、京都が日本一素敵な紅葉を見せてくれるという事前情報や写真がたくさんあるからだ。紅葉の素晴らしさは実は全員知っている。自分の目で確認するために行くのだ。また、「君の名は」「シンゴジラ」を何回も見に行くのも自分の感動の確認作業です。
それと同じと考えれば、事前にネタバレは避けるべきことどころか、やらないといけない必須事項になる。しかし、これが当たり前になるためには、西野さんだけではなく、いろんな人や企業がやり始める必要があることも確かです。
実は、今回小学館が小説の全文公開する前に既にそれを実施した老舗出版社があります。それが新潮社です。
しかも、新潮社が今回のニュースに際して、小学館にツイッター上でエールを送るというおもしろい流れに。
新潮社は、今年の7月に「ルビンの壺が割れた」という小説で発売前全文公開というのを実施しています。その狙いと戦略についてはこちらの番組で話題にされています。
MCの佐々木俊尚さんが的確な解説をしてくれているので引用紹介します。
「無料段階で読ませたら本売れなくなる」ってみんな言いたがるんだけど全然そんなことなくて、これ読んで話題になればその方がいい。「この本面白かった」ってSNSで拡散してくれるわけでしょ。ずっと無料でもいいと思うよ。下手するとそれで拡散して「面白かった」って声がでてくるとやっぱり紙で読みたいという人が出てくる。紙の本買うわけです。そこがマーケティングなんだよね。みんなマーケティングの発想がないから「読んだら買ってくれない」って言いたがる。そこの誤解が蔓延してるところはあるかな。
まさにその通りで、事実この小説は売れました!重版もされているようです。多分全文公開をしていなかったらこれほど売れていなかったでしょう。無名作家の作品だから尚更です。
ネタバレしたら買ってくれない、読んでくれない、見てくれない…。
確かにそういうのもあると思います。かつて映画の仕事をしていた時に、映画会社の人が言っていました。
「つまらない映画は試写会をやらない」
なぜなら、つまらないという情報が拡散してしまうからです。試食だってそうです。まずい物は試食したら売れないでしょう。
裏を返せば、おもしろいコンテンツなら、無料だろうがなんだろうがどんどん見せてあげた方が効果的ということです。
但し、人間は自分一人の判断だと確信が持てないものです。しかし「みんなが言っている」と言われるとどうでしょう。「みんなが言っているなら安心だ」となってしまうものです。ここでいうみんなとは3人のことです。人間は3人以上が同意見だとそれを信じてしまうものなんです。
つまり、周囲の3人以上におもしろいと言わせてしまえば勝ちということです。これをマーケティング的には「バンドワゴン効果」と言います。
バンドワゴン効果とは、アメリカの経済学者、ハーヴェイ・ライベンシュタインが創作した用語。多数がある選択肢を選択している現象が、その選択肢を選択する者を更に増大させる効果。「バンドワゴン」とは行列先頭に居る楽隊車であり「バンドワゴンに乗る」とは時流に乗る・多勢に与する・勝ち馬に乗るという意味。
飲料や食品、映画では当たり前にやられていたこの無料サンプリング。むしろマーケティングの基礎です。逆に言えば、今までなぜ小説ではやらなかったのか?という話です。
ところで、この蘇部健一さんという作家さん。実におもしろいです。
1961年生まれというからもう56歳です。今回の企画の小学館サイトに彼の自己紹介があるのですが、
小説家といってもほとんど本にもならず、貯金はゼロで、「吉野屋でバイト」とか「30歳年下の20代女性店長に使えないと言われてたり」とかダメダメ感満載なのに、やけに根拠のない自信があって、嫌味が無い感じ。
このキャラクター、大事です。
これが金持ちでイケメンで鼻もちならない男なら助けてやりたいとは思わないものです。
助けてあげなきゃ!男でも母性をくすぐられるこの感じ。
誰かに似てる( ˙ө˙)
※ 写真はイメージです。
好きですわ。応援したいwww
皆さんも、蘇部健一さん、応援してあげてください。
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。