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強さんの歌はしんどくて倒れそうなときにもう一度自分本来の力を思い出させてくれる

今年の夏はことさら暑くて雨が多かったせいか、怒涛の8月を終えて一気に心身に疲れが出ている気がします。髪と肌と爪がボロボロに。きゃー。

残暑に蝕まれているのか、なんだか運転してたりSNS見てたりしても無駄にイライラして攻撃的になってる人が多いような。そういう空気感がじわっと世界にダメージを与えて悪循環してるんじゃないか。個人的に今はへろへろなので出来るだけ引きこもって穏やかに過ごす…わけにも行かず。せめて自分はそういう渦にのまれることなく、体の底から湧く力を信じて発語していきたいと思うのです。そう、強さんみたいに。

きちんと出会ったのはインタビューのためだった

少し以前から、やたら選手たちから「強さん」って名前を聞くようになっていました。取材の中で、好きなミュージシャンや気持ちをアゲるときに聴く曲の話になったときに。チーム内にあまりに聴いてる人が多かったし、実際に「いいですよ、是非」と勧められもしたので聴いてみようとは思ってたんだけど、日々の多忙さにまぎれ、腰を据えて音楽を聴く余裕もなく。そういうジャンルにもあまり縁なく生きてきたし。

その強さんが、J1第22節・ヴィッセル神戸戦のスタジアムイベントで来場することになったと知った今年の初夏。大分トリニータの8月のホームゲームはこの神戸戦と第23節の鹿島アントラーズ戦で、夏休みということもあってどちらもイベント目白押し。特に神戸戦の強さん、鹿島戦の阿部真央さん&北村直登くんは目玉のゲストで、その告知も兼ねて、クラブオフィシャルの有料コンテンツ「トリテン」でインタビュー記事を無料公開しようということになりました。阿部真央さんはデビュー前最後の大分でのライブを見に行っていたし北村くんは彼の駆け出しの頃に他の画家の友人に紹介されて知っていたしということで、きっちり向き合うのが初めてなのは強さんだけ。

数々のアスリートに楽曲を提供している

インタビューのために最初に聴いたのは『クソッタレが原動力』という曲でした。藤本憲明選手がそのタイトルをスローガンのように使っていたのをはじめ、いろんな選手がここぞというときに口にしていたので。現・浦和レッズの岩波拓也選手が神戸所属時代、リオ五輪に挑む際の応援歌となった一曲です。

岩波選手のための曲がこんなにも他のJリーガーたちにも愛されるんだなーと思いながら聴き進め、その過程で、強さんが西岡剛、浅村栄人、陽川尚将といったプロ野球選手やK-1の皇治選手のためにも曲を提供していることなどを、順に知っていきました。

高校球児だった彼自身が戦う痛みを知っていた

聴きながら少しずつ気づいたのは、前向きな応援ソングたちの裏側に、ことごとく「痛みの感覚」が横たわっているということ。多分、自分自身が痛みを乗り越えようとした人でなくては、こういう言葉は出てこないんじゃないか。そう感じる歌詞がたくさんありました。

スタッフの方に教えていただいて知ったのですが、強さん自身、甲子園出場経験を持つ高校球児だったんですね。インタビューでその話を振ると「スポットライトを浴びるような存在ではなかった」と言いながら、名門・平安高校(現・龍谷大学付属平安高校)の副キャプテンとしてベンチ入りし、選手権大会で自分の走塁ミスで敗退した苦い経験をあらためて明かしてくれました。高校生だった当時の彼にとって、「自分のミスで」と自責する十字架はどれだけ重かったことでしょう。

ああ、でも、だからか、と思ったのです。自ら乗り越えてきたものがあるからこそ、何かを乗り越えようとしている人の背を、説得力をもって押せるんですね。強さん自身は控えめに「何もしてないよりはしているほうが…」なんて言っていましたが、彼の楽曲を愛する選手たちはみんな歌の根底に流れるそういうものを、歌から感じ取っていたのかもしれません。

スタッフたちが彼を支えたくなる理由

インタビューは8月2日。京都でのライブ前の楽屋とわたしの仕事場とをつないで当初は電話で行う予定だったのですが、強さんのスタッフの機転により、直前にLINEのビデオ通話に変更になりました。表情を見ながら話すほうがコミュニケーション取りやすいでしょ、という気さくなご配慮がありがたかったです。

神戸戦前日、一緒に大分入りしたスタッフの方々とともに顔合わせさせていただいたとき。初対面の強さんはなんと握手した直後に腹痛を訴え、トイレへと駆け込んでいきました。

まさか大分で食べたものがよくなかったのでは…と焦りましたが、スタッフのお話によると強さんはメンタル的にたいへん繊細で、よく胃腸の調子を崩すのだとか。「さすが『クソッタレが原動力』…!」と思ったりなんかは絶対にしてないですからね!絶対に!

みんなでひとつのテーブルを囲むと、関西人御一行のノリはすさまじく、ワンタッチでテンポよく回るパスのようにウィットに富んだ抱腹絶倒の会話が飛び交う。その中で、主役であるはずの強さんはむしろ控えめで物静かな人でした。楽曲の熱さとかステージでの存在感とかどこ行った?くらい。

でもきちんと本質のところでお話しさせていただいて、またなるほどなあと感じること多々。スタッフの方が「俺、本当に強を大きな会場の大観衆の前で歌わせたい」と熱く語ったのもそういうとこなのかな、と思ったり。

トリサポの思いに寄り添ったステージング

神戸戦の日、スタジアムライブで歌ってくれたのは『クソッタレが原動力』と『やんちゃ坊主』の2曲。

この神戸戦はトリニータのサポーターにとって、ある特別な意味をもった試合でもありました。なんと試合の3日前に、エースストライカー藤本選手が神戸へと電撃移籍。自ら「クソッタレが原動力」と言い続けていたアンタがこのタイミングで対戦チームへ移籍かよ!ネタすぎて何も言えんわ!

戦力としてはもちろん、ピッチ外でも愛されていた藤本選手を失った、そんなトリサポの思いを代弁するかのように、強さんはMCでアウェイゴールを指して「アイツがね…」とブーイングを煽って、この状況を笑いに変えてしまいます。

実は、強さんを最初にチームに広めたのは福森直也選手でした。わたしも最初に強さんの名を聞いたのは福森選手からだったと思う。そこから伊佐耕平選手をはじめとする周囲の選手たちに広まっていったのです。

でも強さんにインタビューする直前に強さんのことを聞こうと思ったまさにその7月31日。福森選手の清水エスパルスへの完全移籍が発表されました。みんなで「強さんがスタジアムで歌ってくれたらいいね」と話していたはずなのに、完全に置き土産になってしまった。強さんはもちろんそのこともスタジアムライブの冒頭に、スタンドに向かって語りかけていました。縁をつないでくれたふっくんに感謝。


強さとは打たれて立ち上がること。それを知っているトリサポたち

この日までに『クソッタレが原動力』を聴き込んできていたサポーターの方も少なくなかったようで、ライブは予想以上に盛り上がりました。

大分トリニータというクラブは、今年で創設25周年を迎えたのですが、クラブの歴史はみなさん御存知のように波乱万丈。カップ戦でタイトルを取ったかと思えば未曾有の経営難で破綻寸前になったりと、地方の小規模クラブでありながらジェットコースターのように浮沈を繰り返してきました。いつもそこにはビッグクラブに遠く及ばない資金の問題がつきまとい、大好きな選手を引き抜かれたり地力の差に唇を噛んだり。

でもそんなトリニータが、今季はまたJ1で、残留を目指して戦っている。長きにわたりトリニータを応援し支えてきたサポーターの中には、まさにこの「クソッタレが原動力」感覚の人も多かったんじゃないかと感じました。本当の強さとは、打たれて立ち上がること。トリニータとトリニータを取り巻く人たちは、それを身をもって知っている気がするのです。

「ツヨズカフェ」ではまた違った表情も

神戸戦の翌日は、大分市のカフェ「day by beach」でアコースティックライブでした。「ツヨズカフェ」と称して全国の小さな会場を巡っている企画です。従来の強さんのファンに加え、トリニータを通じて強さんのファンになったサポーターの方々や、トレーニングを終えた選手たちもプライベートで駆けつけていました。

ここでは熱い応援ソング以外のやさしい歌やラブソングも。また別の強さんの一面を見せていただけてよかったです。なによりも音源とは違ったナマの歌声が、ものすごくやさしかったな。

「頑張ってる人にしか響かない」と伊佐耕平は言った

8月31日のJ1第25節・松本山雅戦で負傷から復帰した伊佐選手も、福森選手の車の中で強さんの歌に出会って以来、その歌に力をもらってきたと話す一人です。3月、ルヴァンカップグループステージ第2節の名古屋戦で左膝軟骨を損傷し、全治4ヶ月のリハビリ期間中、しばしば彼の周辺で強さんの曲が流れているのを目にしました。

スタジアムライブの行われた神戸戦は、伊佐選手の戦列復帰直前のタイミング。伊佐選手自ら強さんにリクエストして、急遽、ワンコーラスだけアカペラで歌ってもらったのが『スーパースター』でした。きっとしんどいリハビリ中、この歌に何度も支えられたんだろうな…。

強さんのインタビューに先駆けて伊佐選手に強さんについて話してもらったとき、伊佐選手はこう言いました。

「でも多分、頑張ってる人にしか響かない」

リハビリしんどそうだなあと思いながら少し離れて見守っていた日々の中で、そんな伊佐選手が言っただけに、この言葉には質量がありました。

思うに、頑張ってる人は頑張ってる他の人をリスペクトできる。たとえジャンルや方向性が違っていても、頑張ってる人のことはわかるし、認めることができる。

強さんの歌は、そういう人たちにとっての共通言語みたいなものなんじゃないか。そう思いました。


そしていつのまにか、心を押してくれるように

俺たちは知ってる
必死こいて生きてきた分だけ
幸せが訪れるんだ
いや、きっとそうじゃなくて
必死こいて生きてきた分だけ
幸せに気づけるんだ
きっとそうなんだ
(『俺たちは知ってる』より/アルバム「Revolving Runturn」収録)

気がついたら公私ともにしんどかった8月、わたし自身が強さんの歌に支えられていた気がします。最初はインタビューのために聴きはじめただけだったのに、神戸戦が終わっても、自然と、ずっと車の中で流れてた。

それに「クソッタレ」ってすごくいい言葉ですよね。思いどおりにならないもどかしい状況や、不甲斐ない自分や、理不尽に向けられた悪意といったものまでもすべて、この一言に押し込めてしまえる。そういったものたちに対してぐだぐだ理屈こねまわすまでもなく、それらすべてを「クソッタレ」で片付けて、現状を乗り越えるために前を向かせてくれるのだから。

伊佐くんとは別の表現で言えば、「強さんの歌はしんどくて倒れそうなときにもう一度自分本来の力を思い出させてくれる」って感じ。

強さんと出会わせてくれた選手のみんな、そして彼らがプレーする/していたトリニータ、もちろん強さんと強さんを支えるスタッフのみなさんに、あらためて感謝したい今日この頃です。

取材協力:株式会社BARIKI、株式会社大分フットボールクラブ
写真提供:OTSUKEMONO

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