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讃岐の「失敗しない男」はいかにして岐阜の「成功する男」へと変貌を図るのか。策士・北野誠の鮮やかな反転術を見よ!

本日は「フットボール批評 issue25」の発売日です。表紙は油彩画で描かれたイビチャ・オシムさん。いまだに「いびちゃ」と入力すると最初に「揖斐茶」と変換される学習能力のない日本語入力システムをなんとかしたいのは置いといて。

特集タイトルは「すぐに答えを求める時代に効く賢人の言葉・哲学するフットボール」。割と抽象的なテーマだけれども、個人的にこれは絶対に買いだと思う。西部謙司さんがミシャ式とカタノサッカーに迫っていたり、ペップとかウタカとか鈴鹿アンリミテッドとかいろいろ満載。

わたしは北野誠・FC岐阜監督のインタビューを担当しました。

北野さんとは、北野さんがカマタマーレ讃岐を率いていた頃に記者会見でイジられて以来、いろいろとお話を聞かせていただく関係になりました。きっかけとなった記事はこちら。われながらアホなもん書いてたねえ(笑)。

それから北野さんについては拙著『監督の異常な愛情』の「失敗しない男・北野誠」の章で、がっつりと書かせていただきました。章のタイトルは北野さんが自らを外科医・大門未知子になぞらえて「わたし、失敗しないので」と言い放ったエピソードからです。

低予算で練習環境もなかなか整わない故郷のチームを率い、地域リーグからカテゴリーを駆け上がるといつもギリギリでJ2にしがみついてきた、人呼んで“残留請負人”。2018シーズン、ついに持ちこたえられずJ3に降格したのをきっかけに9年間務めた讃岐の指揮官を退任されました。その歩みについては今年2月発売の「フットボール批評 issue23」で、『監督の異常な愛情』の続編的に、くまなく書かせていただいております。

その後、フリーでいた時期の北野さんにも、大阪でロングインタビュー。その記事は「タグマ!」の「J論プレミアム」で前後編にわたり掲載されています。有料コンテンツだけど無料部分も多いので是非。

この立て続けの「北野さん×ひぐらし」の組み合わせを面白がってくださった「フットボール批評」さんが最新号でも是非、とインタビュー企画をもちかけてくださったのが6月。タイミングよく大分トリニータのアウェイ・ヴィッセル神戸戦もあるし、その帰りに京都に寄らせていただこうかと、そそくさと北野さんにアポを取ったところ、いつもの快諾ではなく「実は…」と歯切れの悪い返信が。そう、ちょうどFC岐阜の監督就任が決まりそうな状況だったのでした。

今季の岐阜は、Jリーグファンがみんな大好きな大木武監督体制3年目。特殊きわまりない攻撃的スタイルも浸透して今季こそと思っていたのですが、どうしたことか不調が続き、最下位に低迷していました。そこで監督交代に踏み切ったクラブが白羽の矢を立てたのが“残留請負人”の北野さん。人選としては実に正しいように思えます。

どれだけ勝てなくても自身の目指すスタイルを貫く大木監督と、残留のために相手の長所を消す策略を駆使する北野監督。一見、対極のロマンチストとリアリストのようにも見えますが、讃岐の監督時代から「オレ本当は大木さんみたいなサッカーがやりたいんだよ…」と話していた北野さん。いやまさに大木さんの築いた土台を受け継ぐことになったじゃん! そりゃ行くよね岐阜! いや北野さんがじゃなくてあたしが!

というわけで6月26日、岐阜に飛びました。監督就任から8日目のこと。岐阜には元大分の風間宏矢選手と川西翔太選手もいます。二人にも会えるし!

6月にしてすでにクソ暑い岐阜のグラウンドで練習を見せていただき、その後にクラブハウスで北野新監督のインタビュー。ダントツ最下位の岐阜をどう立て直していくかというところで、北野さんのサッカー哲学が浮き彫りになってきました。

讃岐でやっていたのは「負けないサッカー」。すでに上昇するしかない状況に置かれている岐阜でやるべきは「勝たなきゃいけないサッカー」。どちらも勝点を積むことが求められるのは同じなのですが、指向性は真逆。つまり消去法のサッカーで「失敗しない男」を演じ続けてきた北野さんが、今度は新天地で「成功する男」に変貌するということ。これはセンセーショナル。

北野さんの岐阜での初陣は就任発表からわずか4日目のアウェイ・レノファ山口戦。結果は0-4での大敗でしたが、そんなの北野さんにとっては全然想定内だったとのことで。

「大丈夫大丈夫!3日しか(トレーニング)やってないから!」というのはまさにそのとおりで、インタビューでもこう言ってました。

「オレの中では相手の分析は完璧だったの。でも逆に、自分のチームの分析が出来なかった。無理(笑)」

…そりゃそうでしょう。選手の愛称リストを書いた紙を見ながら、3日間の突貫で準備しただけでしたから。

その後、岐阜は大分トリニータから北野さんの愛弟子の馬場賢治選手も強奪していき(笑)、雷の影響で第23節のアウェイ鹿児島ユナイテッド戦が中止になったため暫定でいまだ最下位ですが、それでも徐々に内容を上向けながらじりじりと勝点を積み上げています。ちょっとジュニオール・バホスが決定機を外しすぎるのにモヤモヤするけど、翔太くん、宏矢くん、賢治さんたちがのびのびとサッカーしているのを見るのは楽しい。

まだまだ予断は許しませんが、シーズン終了後に「成功した男」としてドヤ顔する北野さんに会いたいですね。

とはいっても、田坂和昭監督の栃木SCとか鈴木惇選手がキャプテンを務めるアビスパ福岡とか、現在のJ2は応援しているチームがことごとく苦境にあって、なかなか手放しでどこかを応援できず、手に汗握って見守っているような状況です。ここからどうなっていくのかな。

ともあれ、「フットボール批評 issue25」、是非ともお楽しみください。

補足。なんとこの記事を書いていた最中に、宏矢くんのFC琉球への期限付き移籍が発表になってた!

マジかよ沖縄行かなきゃいけないじゃん。(わくわく中)

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