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なぜ経産省・国交省の洋上風力公募の公募占用指針見直し会議の早期運転開始の議論が茶番なのか?

早期運転開始インセンティブの議論

2022年5月23日に経産省・国交省合同の洋上風力公募の公募占用指針見直し会議、正式名称「総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会洋上風力促進ワーキンググループ 交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会 合同会議(第12回)」が開催されました。

5月24日付の日本経済新聞で「洋上風力公募で総取り制限 経済産業省など、早期稼働を評価」と取り上げられた通り、この会議での議論の目玉は、「早期運転開始(運開)インセンティブ」でした。

出典:経済産業省・国土交通省

上記の資料は「評価イメージ」として例示されたものですが、この会議の録画を聴く限り、経産省はラウンド2の運転開始時期を2031年あたりで計画してくる事業者が多いと読みつつ、萩生田大臣から物言いがついた早期運開インセンティブを選考基準に盛り込んで、着地点を探りたいようでした。

その流れで当然ながら、委員のコメントも、この「早期運開」を論点にしたものが多くなりました。しかし、この「早期運開」の議論は、実務を踏まえていないため、全く意味をなしませんこの会議の録画を聴く限り、経産省はそのことをわかっているけれども、萩生田大臣からのリクエストに応えなくてはいけない手前、実務的課題を説明して、委員にこの議論が無駄だと気づかせるわけにはいかないのでしょう。

そういうことなら、余計なおせっかいですが、風力業界の中の人が、ラウンド2で最も多く想定される「モノパイル基礎の日本海側の洋上風力発電所のスケジュール例」を作ってみました。次回の公募占用指針見直し会議までに、委員の先生方にもご覧いただけるように、読者の皆さん、拡散よろしくお願いいたします。

公募占用指針見直し会議の委員に実務的な課題をお知りいただくための洋上風力発電所のスケジュール例

モノパイル基礎の日本海側の洋上風力発電所のスケジュール例

このスケジュール例を作るにあたって想定した前提は以下の通りです。

  1. 選考基準の見直しが2022年9月までにまとまる(楽観的?)

  2. 2022年10月に公募占用指針が公表され、ラウンド2の公募が始まる

  3. 日本海側海域(最大5海域がラウンド2に入る見込み)

  4. 地盤調査の上でモノパイル基礎を採用

4点目で「地盤調査の上で」と書いたのは、「当初モノパイル基礎のつもりだったのに、地盤調査後あるいやウィンドファーム認証審査中にジャケット基礎に変更」という事態も十分にありえるためです。ちなみに、風車30基程度のサイトなら、ジャケット基礎の製造に2年の工期が必要です。モノパイル基礎からジャケット基礎への設計変更でも半年~1年ぐらい余計にかかるでしょう。

このガントチャートは、プロジェクト管理サイトWrikeで作りました。Wrikeは、レイアウト調整ができず、極端に横長になってしまいます。これではよく見えないので、以下に分解して解説します。

入札準備スケジュール

入札準備スケジュール

公募占用指針の公表および公募開始を2022年10月と想定しています。それは八峰町沖の公募を延期してまで公募占用指針を見直した大義名分の一つが、「早期運開インセンティブづけ」だったのですから、経産省にプライドがあれば、これより遅らせることはないだろうという期待からです。

その時期を目標にするなら、支持構造物の基本設計は2022年6月あたりまでには終わらせておきたいところです。基本設計に基づいて建設および解体・撤去の工法・工程を検討するからです。なお、上記の線表では、建設および解体・撤去の工法・工程が10月までに終わっていませんが、入札資料は書けるところから書いていくので、入札金額を決めるのは締め切り間際になるので、公募・入札期間と多少オーバーラップしてもよいと想定しています。

事業者選定後のスケジュール

事業者選定後のスケジュール

事業者として選定されてから最初の関門が「ウィンドファーム認証」です。上図では、ウィンドファーム認証に3年半を想定しています。洋上風力では、なぜそんなに長い審査機関が必要なのでしょうか。

理由は、支持構造物の設計の方法論から審議するためです。経済産業省は、支持構造物の設計の方法論は「風技解釈」と「統一的解説」にまとめられているふりをしていますが、そんなことはありません。これらは、過去のウィンドファーム認証の審査中に加えられた方法論を後追いで足しこんでいるだけです。したがって、今後、新たな風況・海象・地盤条件や新しい風車機種が審査されれば、そのたびに個別に方法論を検証し、検証した部分だけ荷重解析をして結果を検証し、次に進むというやり方なのです。その結果、詳細設計も、ウィンドファーム認証の審査のペースに合わせざるをえないため、同様の期間がかかります。

ウィンドファーム認証の審査の背景については、以前の記事「なぜ風技解釈は頻繁に改正されるのか」もご参照ください。

ウィンドファーム認証とは関係なく、しかし並行して進めなければならないのが、自営線ルートと連系変電所に関する調整と許認可です。原発や火力発電所から遠い風力発電所では、たいてい電力会社から内陸の連系点を指定されます。洋上に限らず、風力発電所では、何十kmもの自営線の設営を余儀なくされるケースがよくあります。自営線ルートに河川や鉄道の横断があれば、許認可と用地確保だけでも2~3年がかりになる場合があります。

  • ウィンドファーム認証の審査に3年~3年半

  • 自営線・連系変電所の調整と許認可に2~3年

この2点だけでも、早期運開インセンティブが事業者にとって毒饅頭でしかないことが、お分かりいただけるかと思います。

ウィンドファーム認証取得後のスケジュール

ウィンドファーム認証取得後のスケジュール

ウィンドファーム認証を取得したら、経済産業省に工事計画書を届け出ます。経済産業省が工事計画書を審査し受理したら、洋上風力発電所の工事許可となります。上記のスケジュールでは、工事計画書の受理時点から、基礎と風車の調達を始めていますが、実際にはウィンドファーム認証取得時点で詳細設計が完了していますので、そこまでは前倒しできます。

自営線と海底ケーブルなどの電線は、工事計画書の受理を待つ必要はなく、待っていたら間に合わないので、先行発注します。

風車30基程度の規模なら、モノパイル基礎の納期は約1年です。2028年までには国内メーカーがモノパイルを製造するようになるという前提ですが、そうでない場合、現在と同じくモノパイルを欧州、トランジションピースを韓国で製造することになり、輸送により時間がかかります。

モノパイルの輸送を2028年下半期に想定しているのは、ラウンド1の三種町沖の事業者が2028年上半期まで能代港を使うことを想定しているためです。秋田港はラウンド1の由利本荘市沖の事業者が2030年上半期まで秋田港を使う可能性があります。こうなると、ラウンド2で秋田港を利用しそうな潟上市沖、遊佐町沖、胎内市沖などは、上記のスケジュールでも達成は不可能になります。早期運開を本気で考えるなら、「インセンティブづけ」ではなく「秋田港を補完するもう一つの拠点港の確保」です。

12~3月の中断は、その時期の日本海は気象・海象ともに条件が悪く工事ができないためです。

2029年の基礎工事の直後に風車工事を連続させないのは、日本海側の拠点港は能代港と秋田港しかなく、ラウンド1と2の最大7海域の事業者間で取り合いになることがわかっているためです。

風車据付から運転開始までのスケジュール

風車据付から運転開始までのスケジュール

欧州のような十分な拠点港とSEP船のキャパがあれば、30基程度の風車なら3~4ヶ月で据付でき、試運転まで年内に終えて、運転開始できることでしょう。しかし、前述のように、日本では拠点港のキャパ問題が深刻です。複数の事業者間が拠点港を分け合うことになれば、プレアセンブリーも据付も時間がかかることになるのは間違いありません。傭船費の都合上、SEP船を要する風車の組み立ては年内に終わらせるべく、海がしけるギリギリまでやる事業者も現れるでしょう。その事業者は、電気工事・試運転を2031年にせざるをえません。

早期運開の課題は、長すぎるWF認証、長すぎる自営線、拠点港のキャパ不足で、インセンティブ議論は茶番

上記のスケジュール例とその解説をお読みいただければ、いかに早期運開が絵に描いた餅で、いかに早期運開インセンティブが毒饅頭であるかがお分かりいただけると思います。日本の洋上風力発電所のスケジュール遅延リスクは、「長すぎるウィンドファーム認証」「長すぎる自営線の許認可」「拠点港のキャパ不足」といずれも官の不備に起因しています。

民間の事業者が、官に起因する遅延リスクだらけの中、運開遅延ペナルティを賭けてまで、早期運開インセンティブに手を出すでしょうか❓❓❓

早期運開インセンティブの議論は、「長すぎるウィンドファーム認証」「長すぎる自営線の許認可」「拠点港のキャパ不足」という官に起因するボトルネックに目を向けさせずに、萩生田大臣のリクエストに応えたように見せかける経済産業省のスタンドプレイです。公募占用指針見直し会議の委員や萩生田大臣には、そこを見抜いていただきたいものです。

次回の公募占用指針見直し会議までに、委員の先生方にこの内容をご覧いただき、自分たちが役所の戦略に使われていることをお知りいただけるように、このページへのリンクの拡散をよろしくお願いいたします。

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