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経産省・国交省の洋上風力の公募占用指針(入札制度)見直し案の要注意箇所5選

2022年5月23日に経産省・国交省合同の洋上風力公募の公募占用指針(入札制度)見直し会議、正式名称「総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会洋上風力促進ワーキンググループ 交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会 合同会議(第12回)」が開催されました。

委員の先生方もメディアも、経産省・国交省の誘導に乗っかってしまったのか、この入札制度見直し案の論点は、「早期運転開始(運開)インセンティブ」に集まりました。しかし、この入札制度見直し案をよく見ると、早期運開インセンティブ以外にも影響の大きい見直しが盛り込まれています。今回は、早期運開インセンティブ以外の要注意箇所を5つ選んで取り上げます。

1.支持構造物の設計の統一的解説への準拠

出典:経済産業省・国土交通省

この入札制度見直し案の14ページ⑥で、支持構造物の動的解析(時刻歴応答解析)が盛り込まれています。これを実施するには、「地盤調査を終えて、地盤データを持っていること」と「風車タワーの設計データを持っていること」が条件になります。どの風車メーカーも、まだ最新機種の日本向け耐震タワーを本格的には設計していないので、風車タワーの設計データそのものが存在しないはずです。ということは、風車タワーと基礎の両方とも設計できる設計会社を起用するしか対応策がありません。これは、国内のゼネコンでも無理で、ほんの一部の設計会社に限られます。

この入札制度見直し案には、日本の設計基準を理解していない事業者を選んでしまったラウンド1への反省が色濃くでています。この⑥は「日本の設計基準も理解していないくせに札を入れるなよ」という経済産業省・国土交通省のダメ押しなのでしょうが、これはハードルが高すぎて、明らかにやりすぎです。

2.維持管理の統一的解説への準拠

資料:経済産業省・国土交通省

この入札制度見直し案は、技術基準(設計)の統一的解説だけでなく、維持管理の統一的解説への準拠も求めています。ということは、評価委員に「維持管理の統一的解説」の内容を理解している人が加わるのでしょうか。

また、撤去に関する条件も細かくなっていて、「ライフサイクル全体にわたって詳細に検討した事業者にしか札を入れてほしくない」という経済産業省・国土交通省の思いが透けて見えます。

3.行政機関との調整実績

資料:経済産業省・国土交通省

これは、ラウンド1の関係自治体からのクレームを受けたものでしょう。それまで丁寧に地元との調整を重ねてきた事業者がラウンド1の3海域すべてで落選したことから、「国は地方をバカにしてる😡」ぐらいの剣幕で怒る人がいたとしてもおかしくありません。「最低限必要なレベル」の④など、いかにもラウンド1に選ばれた事業者への当てつけです。

4.FITとFIP

資料:経済産業省・国土交通省

経済産業省は、延期した八峰町沖の公募占用指針ではFITと公表していました。八峰町沖の公募が延期された今、八峰町沖の公募が他の促進区域の公募と同時期に仕切り直された場合、八峰町沖だけがFITで、他はFIPとなるのでしょうか。八峰町沖もFIPに変えられてしまうことはないでしょうが、ラウンド2に入札を予定している事業者にとっては、事業性・収益性を左右する根源的な問題だけに、そこだけでもはっきりしてほしいところです。

5.コンソーシアムの座組規制

資料:経済産業省・国土交通省

この入札制度見直し案の中で最も驚いたのが、26ページの4.(2)の座組規制です。同じラウンドで複数区域に応札するコンソーシアムの座組を変えることを規制しようとしています。これはビジネスの根幹を揺るがす大問題です。

例えば、A社が西海市江島沖と村上市胎内市沖に応札しようとしていると想定してみましょう。A社は、西海市江島沖に応札するコンソーシアムでは、B社、C社と組んでいますが、村上市胎内市沖に応札するコンソーシアムでは、D社、E社と組んでいるとしましょう。上記の座組規制により、もし西海市江島沖と村上市胎内市沖が同じラウンド2で公募されたら、A社は片方のコンソーシアムから離脱しなくてはいけなくなります。

これは洋上風力ビジネスの根幹を揺るがす非常識な規制と言わざるをえません。ところが、不思議なことに、入札制度見直し会議の委員のどなたからもこれに対する疑義がありませんでした。どのメディアもこの非常識な規制案を取り上げていません。この問題を指摘したのは、私が知る限り、自民党の秋元議員のTwitterだけです。(風力業界の中の人としては、自民党にこういう良識ある議員が風力を見てくれていることが救いです。)

ラウンド1の反省を踏まえた一社総取り規制の一環として、この座組規制が26ページに書かれていることに強い違和感を覚えます。「公共の場である海域を一社に独占させるのは公正ではない」という大義名分には賛同します。しかし、それを果たすなら、4.(1)の「1ラウンド最大1GWまで」だけでも十分です。

経済産業省が座組規制を持ち出したのは、この入札制度見直し会議に、総取り規制に納得していない委員がいることに関係がありそうです。桑原委員は「そもそも総取り規制は要らない」という立場ですし、清宮委員は「1ラウンド1GW」というやり方に疑義を唱えています。そこで、「1ラウンド1GW」が潰されたときの代替案として、この「座組規制」を無理やり捻り出したのかもしれません。

風力業界から見れば、「いやいや座組規制なんてそんな横暴なことをされるぐらいなら、1ラウンド1GWのほうが実務的・現実的で、是非1ラウンド1GWで決着してください」ということになるはずです。JWPAさん、こういうときこそ出番だと思うのですが、いかがでしょうか。

議員の方々、入札制度見直し会議の委員の方々へ

この入札制度見直し会議の資料と録画の視聴から、つくづく中央官庁で働く人というのは、非常に頭がよいと感じました。それは、「資料に何を含めないか」と「委員に誰を含めないか」が、議論を誘導する上で極めて有効であることを知っていて、それをうまく使いこないしているからです。

この入札制度見直し会議では、公募入札の実務には一切触れていませんし、実務がわかっている人を委員に入れていません。そんなことをすれば、「早期運開」など萩生田大臣からのリクエストに応えるハードルが上がってしまいます。萩生田大臣からのリクエストに最短で応えるために、委員に余計な議論をさせず、改善案のお墨付きを得るには、「資料に問題の本質を書かない」「問題の本質を知っている人を委員に入れない」のが(経済産業省にとって)得策のようです。

そんな背景から、風力業界の中の人が、議員の方々や見直し会議の委員の方々に、余計なおせっかいをさせていただきます。(頼まれもしないのに、勝手に)

今後、経済産業省との会合の前に必要な情報があれば、お知らせください。私の知っている限り、出典資料へのリンクをつけて、このnote上で情報提供させていただきます。根拠のない情報や公開されていない資料は提供しません。

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