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風力発電事業者の調達能力とコスト競争力

陸上風力発電もそうですが、特に洋上風力発電では、発電事業者の調達能力がコストに如実に表れます。今回は、風力発電事業者の調達体制とコスト構造について考察します。

洋上風力発電事業者の主な調達先(建設時)

洋上風力発電事業者が建設時に何をだれから調達するかは、だいたい以下に示す通りです。

  1. 風車:風車メーカー

  2. 基礎部材:基礎部材メーカー

  3. 変電所、自営線などの陸上電気設備:電気エンジニアリング会社

  4. 海底ケーブル:ケーブルメーカー

  5. 建設工事全般:ゼネコン

  6. 海運会社(基礎部材など海外調達がある場合のみ)

それらのうち、風車と海底ケーブルまでを直接発注し、それ以外はゼネコンに任せて間接発注するというのが、国内の発電事業者の標準的な調達能力ではないでしょうか。

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風力業界の中の人オリジナル

直接発注度は発電事業者の実力の目安

実力のある発電事業者なら、直接発注を増やして、コストを下げることができます。

風力業界の中の人オリジナル

反対に、実力がない発電事業者は、ほとんどゼネコン任せの間接発注になり、高コスト構造になります。

風力業界の中の人オリジナル

この「ゼネコン丸投げ間接発注」は、太陽光発電など他業界から風力業界に参入してきた事業者に多いです。

コストを下げるには、直接発注を増やすなんて、だれでも思いつきます。それなのに、国内で陸上風力の実績がある事業者でも、直接発注度はあまり高まっていません。

なぜ直接発注を増やすのが難しいのか❓

例えば、ある発電事業者が「海運会社(フォワーダー)」への直接発注を検討しているとしましょう。

最初の壁は、おそらく「どんなフォワーダーにどう引き合ったらよいのかわからない」というところでしょう。なんとか引き合ってみたいフォワーダーをいくつかピックアップできたとしても、次の壁は、「フォワーダー向けの購入仕様書や、引き合いための提案要求書をどう書いたらよいのかわからない」です。

そこで、貿易事務や海上輸送に詳しい人を雇えないかと考えます。ところが、その事業者が毎年どこかしらに輸送案件がなければ、そんな専門人材を雇っておくことができません。そこで、とりあえず今の調達部門の人たちでできることをやってみようとします。国内で風車輸送の経験がある海運会社に話を聞いて、過去の例から要件・仕様を想定して、ざっくり見積もってもらうわけですね。風車や基礎部材のような特殊な形状の大型貨物を運ぶには、それなりの船が必要なので、国内の海運会社も、キューネ・アンド・ナーゲルDSVのような海外フォワーダーに頼むでしょう。何のことはない、実質的に間接発注です。その結果、「リスクを取るわりに安くならない」という結論になりがちです。

それでも、なんとかいくつかの壁を乗り越えて、海外フォワーダーと契約することになったとしましょう。最後の壁は、プロジェクト・マネジメントです。ゼネコン、風車メーカー、ケーブルメーカーなどの他の発注先の工程と合わせて、プロジェクト全体工程を取りまとめる能力が求められます。直接発注が多くなるほど、工程管理が複雑になり、発電事業者には取りまとめ能力が求められます。

直接発注の課題まとめ

上記の例から、直接発注の課題を、以下のようにまとめることができます。

  1. 購入品目に適した要件・仕様を定義する(提案要求書を書く)には、専門知識が要る

  2. 専門知識を有する人材を雇うには、その人がコンスタントに稼働するほどの業務量・案件数が要る

  3. 直接発注が多いほど、工程が複雑になり、高いプロジェクト・マネジメント能力が要る

洋上風力発電事業者が、直接発注を増やしてコストを下げるには、「コンソーシアム参加企業の中で、該当する購入品目に合った専門人材・専門部署の協力を得る」といった方向が考えられます。

コンソーシアムに商社が入っていれば、貿易事務や海上輸送の専門部署があるでしょうし、コンソーシアムに電力会社が入っていれば、電気エンジの専門部署があるでしょう。コンソーシアム参加企業の得意分野を持ち寄って、直接契約比率を上げることが、コスト競争力につながるはずです。

直接発注が多く複雑な工程をやりくりすると言えば、エンジ業界です。彼らにとっては、それが日常です。しかし、風力業界では、ゼネコン丸投げのほうが日常です。そのギャップに一部の発電事業者は気づき始めたのでしょうか。エンジ業界から風力業界への転職者が増えているように感じます。

これからの風力業界は、直接発注を増やし、複雑な工程をやりくりし、価格でも勝負できる陣営が勝ち残るでしょう。それは国民負担を減らすことにもなり、国益にも適います。そういう陣営が現れることを期待しています。


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