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誰かに伝わればいいけど言わなきゃ伝わらない装丁に込めた意味(ネタバレ注意)

ずっと下書きの途中で放置してた💦今更ですみませんが拙作「りんごあめと白雪王子」、今度はボイドラの方ではなく、同人誌の装丁に込めたあれこれ裏話を連ねてますのでよろしければお暇なときにでもご一読ください。

色に込めた意味

青と白で統一された、一見二色刷りっぽい二人のおでこ合わせ表紙。実はフルカラー原稿なんですが、有彩色(青と赤)に白をまぜて、濃淡と彩度だけで調整したものです。青と白はもはや王道なカラーコンビですが、そこに意味を求めると結構切なくて「ああ、WINGS」とわかる色んな要素を盛り込んでます。

青と白は空の色。ストーリーは快晴の夏空を眺めながら勝行くんに電話をするシーンから始まり、青い空の中二人で気晴らしドライブに。そして小説同人誌だけのオマケ特典で書いた翌朝では、晴れた青い空と白い雲に向かって、光くんがいきなり歌い出すシーンで終わる。

WINGSの話は、「音楽に翼をつけて、一緒に空を飛びたい」二人の成長ストーリーなので、空は常に重要ワード。
本文も空色のコミック紙を使用してます。

そして彼らのデビューシングル「Ready Go」を音源化してエンディングに歌わせることを思いついた時、『ReadyGoの曲は清涼感がテーマの飲料水CMソングで、夏の曲。空をイメージしたジャケ画』というコンセプトが元々あることを思い出し、全体通して「青×白」にこだわる装丁を考えました。
清涼感のキラキラっとした感じは、控えめに煌めく特殊紙「星物語」の白ラメで。赤いりんご飴の色を差し色に使うことで、青だらけの生真面目感を抜いて、甘さを付け足しました。

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でも青×白っていう配色は、そんな清涼感だけを引っさげたデザインじゃなくて、「切ない」「物悲しい」「病弱」なイメージも併せ持つんですよね。ここが私の中で一番デザインに出したかったポイントなんですが、伝わったかどうかは……きっとここで声に出さないと、全く以て伝わらない気がしました(笑)

光くんの体調が悪化するサインはこの時期からちょっとずつ、音を立てずにじわじわと出ています。そして彼は、せっかく父親の呪縛から抜けることができたのに、今度は肉体的な活動制限を食らって、歯がゆい思いばかり。そんな彼の苦悩は、りんご王子の一つ前の短編「眠れない夜のジュークボックス」でも少し触れています。本編では、第3部に触れることになると思います。


でも、両翼少年協奏曲って基本は明るいコメディを前面に出したいわけですよ。あまりシリアスにはしたくない(本編がすぐシリアスに走るので)ので、そのへんは端折り気味。でも、彼らの心の葛藤を色やデザインで表せるのが同人誌。使わない手はないですよねー!

なのでぱっと見は「夏」「涼」「青春」を感じさせる表紙に対し、肌のピンク色をぐっと明度上げて青白く光らせることで「弱」く「儚」い男の子二人の「笑顔の思い出」を表しています。って言ったらいきなりあの本のテーマが「えっそんなにしんどい本なの」って引かれるでしょう。でも大丈夫、WINGSの結末を先に読んだ人は何を読んでもイチャコラしてる話は「しんどい」はず(鬼作者)

ラストシーンの意味(ネタバレ)

しんどいついでにネタバレを申しますと、「また来年も連れてきてあげる」と言った勝行くんの約束の言葉。これを聞いているようで聞いていない、寝ぼけている光くんですが、実はちゃんと聞いています。
でも、その言葉には返事できない。光くんは小さい頃からずっと、明日死んでるかもしれないという恐怖の概念を振り払って生きることができません。なので光くんは、「将来の約束」をしない子なのです。未来を考えることができない、という欠点のような部分でもありますが、そんな彼のごまかしには、勝行くんはなかなか気づけません。

逆に勝行くんは、次、その次……と未来を夢みては、未来も光くんがずっとそばにいてくれることを願って願望や将来の予定を口にします。ちょっと愛が重い束縛セリフとも言えますよね。お互いにそれは無意識にやってることなんですが、この二人はここがすれ違うが故に、うまくいくようでうまくいかない。そこに気づかないままの話なので、ある意味とてもラストシーンは切ないと自分は思ってます。(オチにふざけたことやってますがそれはまあ置いといて)
勝行くんは将来の職業を決められた男。家に縛られて生きていたけれど、光くんと一緒に描く未来をどうにか実現することで、くだらない家のしきたりから逃げようと必死です。このあたりの物語は、両翼少年協奏曲と並走する2作目の本編「勝行編」で明らかにされますので、そのあたりも絡んできます。

来年、彼らはもう一度旅行に行けるのかどうか。それは次の物語を読み進めているうちにわかります。(2020年夏にりんご王子の翌年の物語を執筆、公開したのでよろしければご覧ください)

光くんの願いや勝行くんの想いは、結局この短編ひとつではとてもじゃないけれど表現できなくて、匂わせで終わってしまってばかりですが、距離感の違う二人が願うことはいずれも同じ。
「ずっと一緒にいようね」
二人が同じ布団で寝てもえっちっちな展開にならないのは、性的欲望の部分より精神的依存の部分が強いからです。(とはいえ、ラストは物語のオチが欲しくてふざけてしまいましたが)

いつか消える存在、装丁に込めた意味

りんごあめの王子様は、勝行くんの思い出の中にある、少女漫画のような記憶です。

本を開くなり見える口絵には透けるトレペに二人が仲良くくっつきあって、勝行くんにべったり甘える光くんのイラスト。透けるってことは、それはもう思い出のひとつ……という意味も込めていたり。

透ける絵の先にタイトルがいるのはそういうことです。

もうあの装丁の本を再版する予定はないので、お持ちの方は収納しっぱなしにしないでぜひ可愛がっていただけるとうれしいです。
PP加工もしてないし、何度も読み返したり、触っているうちに光くんの着物や髪の毛がかかっている角部分が剥げてくると思います。わざとそうしたんですが、その剥げていく部分まで、WINGSの世界です。

そう、いずれ消える存在。今しかつむげない物語。

だからこそ、WINGSを描いて書いて表現していきたい。そんな作者側の思いが、読み手の誰かに届きますように。


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