「ワクチンに効果はあるのか、ないのか、イエスかノーか」と聞きたい人へ

忽那賢志先生はいつも市井の人の疑問に答える形で、かつ客観的なデータをもとに、とてもわかりやすく解説していただけていると思います。

今回については、「ウイルスは感染力が強まるほど弱毒化する」が眉唾であるという話をされていますが、これに関しては「なぜそういう説が出たのか(どう曲解されたのか)」の解説も要るかなと思います。

個人的な理解では、毒性による差が1つ。

・毒性が強すぎるウイルスは感染が広がる前に宿主をすぐ殺してしまって広がらない。感染力がある状態でなるべく多くの人と接触する必要がある(SARS)

・毒性がそこそこ強くても人間に警戒・対策されて流行しにくくなる(デルタまで)

・弱毒化すると人間の病気への警戒心が薄れるので流行りやすくなる(オミクロン)
>とはいえワクチンの効果によるものと思われ、遺伝子ツリー的に初期型程度の毒性はありそう

つまりウイルスが多くの人を即死させるほど強い毒性を持っていれば、毒性が低く変化したものの方が流行するのはわかります。ただ新型コロナは元より数%程度の致死率ですし、特に活動的な若者ほど症状が軽いので、毒性が少々強まろうが弱まろうが、感染の広がりへの影響はほとんどないと思われます。

もう1つは新型コロナウイルスの感染力と潜伏期間の変化。

・感染力はそこそこだが、潜伏期間が1週間前後と長く、発症前から感染力を持つため、感染者を見つけづらくじわじわ広がる(初期型)

・感染力が上がり、潜伏期間もまだ長い。感染者が見つけづらいまま、感染がより広がりやすい(デルタ)

・感染力がさらに強く、潜伏期間が短い。感染して3日程度で症状が出るため、感染後に咳などの症状が出るのも早く、多量のウイルスをまき散らす(オミクロン)

初期型は潜伏期間の長さと、無症状でも感染力を持つのが厄介。デルタはさらに感染力が強くて厄介、オミクロンは発症が早いけれどそれ以上に感染力が強くて厄介。感染力と潜伏期間の違いがあるだけで、毒性の影響はなさそうに見えます。

あとウイルスに対する根本的な理解として、暴露量(体に触れるウイルスの量)が多いほど感染しやすいです。ウイルスが1つでも入ったら感染するというわけではないし、100個までなら大丈夫という話でもありません。ウイルスがうまいこと細胞に入り込めば感染し、入れるかどうかは当たりどころの良し悪し、運しだい。1発で当たるか100発でも外れるかのロシアンルーレット。

アメリカで若い人がコロナパーティーに参加して重い症状で死ぬのが何度も報道されましたが、あれは暴露量が多すぎて、肺など体の奥深くまで吸い込み過ぎた結果、重い症状が出たのでは。感染が1か所だったら体内でウイルスが広がる前に装備(免疫)を整えられたものが、同時にあちこちで感染したら装備が間に合わずにやられますよね。

「ワクチンには重症化予防効果しかない」なんてのもまことしやかに語られていますが、オミクロンに対しても接種後数週間は5割以上の発症予防効果があるとされています。つまり"軽症"予防効果だって当然あるはずで、重症化予防だけなんてのは理屈が通りません。軽症化率みたいなデータがなく(それこそ全国民一斉PCRでもしないと出せないでしょう)、重症化率と違い効果が可視化されていないことから、こんな誤解が生まれているのだと思います。

「ワクチンを打っても感染する」のも当たり前。例えばファイザーやモデルナのmRNAワクチンは従来型に対して95%程度の発症予防効果があるとされていたので、未接種の人と比較して5%の確率では発症する計算です。ワクチンで誘導される免疫力は人によって差がありますし、暴露量が多ければ感染しやすくなります。

またオミクロンに対しても接種から数週間は50%程度の発症予防効果があるとされています。「たった50%?」と思うかもしれませんが、むしろ元々の95%という数字がワクチンとしては異常に優秀な数字です。今あるインフルエンザワクチンでは、発症予防効果はよくて50%と言われており、それと同等程度の効果があるわけですから、効果が落ちたとはいえまだまだ有効と言えます。

「ワクチンに効果はあるのか、ないのか、イエスかノーか」という答えを求めがちですが、絶対に100%効くワクチンは今のところありません。どんなにワクチンを打っても、免疫がどの程度誘導されるかは個人差がありますし、ワクチン接種の有無に関わらずウイルスの暴露量が増えれば感染しやすくなります。

まとめると、「ファイザーやモデルナの新型コロナウイルスワクチンには、オミクロン株に対する重症化予防効果だけでなく発症予防効果もある。ただし決して完璧ではなく、発症しにくくなる、重症化しにくくなるだけ」ということです。そのアバウトさに納得できないかもしれませんが、「ワクチンでウイルスに対する運が上がる」くらいの理解で納得していただけるとありがたいです。ワクチンが神社のお守りより効くのは確かです。

もし現状のワクチンに対する不平不満として、「感染予防効果はない」とか「効果が低い」と言うと、この人は勉強不足だなあと思われてしまうかもしれません。言いたいなら「接種しても数か月程度で効果が相当落ちてしまうワクチンに意義はあるのか?」とか、「効果が落ちたワクチンを国費で大量購入する是非は?」とかです。

ちなみにこれらの答えは「今のところ、より有効な対策がないから仕方ない」です。まあ徒手空拳だった1年前に比べれば、一応のワクチンも飲み薬もあるわけで、はるかにいい状況ではあるのです……。感染者が増えるほど、厄介な変異株が生まれる可能性も上がりますので、先々の平穏のためにもできる限り感染を減らしていくことはとても重要です。

新型コロナウイルスのワクチンの効果に関するデータは、こちらにも掲載されています。


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