すべてはアセスメントからはじまる。-アセスメントの範囲を広げよ-

ここ最近、いろいろなことに忙殺され、考えていたことをきちんと文字にしてまとめていなかった。6月からスタートした養成プログラムの第一回でお話ししたことのハイライトになるが、こちらで文章にもまとめておきたいと思う。

法人を立ち上げて2年、その間、ソーシャルワーカーによるソーシャルアクション(広義にはマクロ実践)がなされることの社会的意義や、歴史的な文脈(ソーシャルワークの輸入、日本における国家資格化の功罪など)について、巨人の肩にのるかたちで言語化してきた。

本エントリでは、同様に先人たちの知恵を補助線に、実践においてミクロからマクロを横断する上での技術論的な話をお伝えしていきたい。

1.ソーシャルワークの国際定義
2.ソーシャルワークの構成要素
3.技術・能力的観点からの定義
4.ソーシャルワーク実践プロセスの構造化からみるミクロ・メゾ・マクロ実践

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1.ソーシャルワークの国際定義

ソーシャルワークには、グローバルな定義が存在する。ほとんどの現任者にとっては、改めて、ということになるが、まずはその定義を見ていきたい。

ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。
社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、および地域・民族固有の知を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける。

出典(和訳):http://cdn.ifsw.org/assets/globalagenda2012.pdf 
原文:http://ifsw.org/get-involved/global-definition-of-social-work/

「ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。」

冒頭の一文を、日本のソーシャルワーカーたちは体現できているだろうか?
自身も含め、この問いは常に実践において内在されるべき問いである。

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2.ソーシャルワークの構成要素

ソーシャルワークは、「価値」、「倫理」、「知識・技術」で成り立つ。

【価値】
専門職が「何を目指しているのか、何を大切にするのか」という「信念の体系」
【倫理】
価値を実現するための「現実的な約束事・ルールの体系」
【知識・技術】
倫理に則り価値を実現していくために用いるもの

『福祉専門職に求められる倫理とその明文化 (特集 福祉専門職の倫理と責務』小山隆月刊福祉 86(11), 16-19,  全国社会福祉協議会を一部加筆

この全て、どれが欠けてもソーシャルワークとは言えない。技術論だけが先行し、価値や倫理がないがしろにされるのであれば、それは「ソーシャルワーク」とは言えない。

これは、先人たちが言い続けてきたことであり、自身の実践にこれらが欠けていないか否か、実践者が常に内省し続けなければならないことでもある。

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3.技術・能力的観点からの定義

ここでは、価値、倫理に続いて、技術・能力的な観点からの定義を紹介する。

歴史上、様々な定義化が試みられてきたが、1970年代以降の米国において、いわゆる医学モデルではなく、「生活モデル」、社会システム理論の枠組みを用いることで、ジェネラリスト・モデルがソーシャルワークの基礎理論となったことを踏まえて、『Social work practice: model and method』、『ジェネラリストソーシャルワーク』から、技術・能力的な観点からの定義を引用する。

以下、『Social work practice: model and method』(1973)Allen Pincus, Anne Minahan より

ソーシャルワークとは、
「問題のアセスメントに基いた介入計画を持った”計画された変化”」
アセスメントとは、
「問題を明確化し、社会的状況のダイナミクスを分析し、ゴールやターゲットを設定し、課題と戦略を決定し、変化の作用を安定させるためのもの」


以下『ジェネラリストソーシャルワーク』ミネルヴァ書房 の内容を一部改変

・個人的な問題にも社会的課題にも対応できる能力を備える
・直接的な実践、間接的な実践の知識と技術を備える
・個人的な問題と社会的課題を特定し、その上で変化に向けた適切な介入の焦点を定め、課題と戦略を決定し、変化の作用を安定させるために人や環境、その接点に介入する
・介入の焦点は、個人的な問題(個人や家族)、社会的問題(機関やコミュニティ、行政機関、国など)

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4.ソーシャルワーク実践プロセスの構造化からみるミクロ・メゾ・マクロ実践

前述した、かの有名なAllen Pincus, Anne Minahanの著作『Social work practice: model and method』(1973)をもとに図式化すると下記のようになる。

これをみてわかるのは、ミクロ、メゾ、マクロ実践は断絶されたものではないということだ。これは、当然のことなのだが、ミクロ実践を目的とした現場に身を置いていると、意識化して自身の職業を俯瞰することを忘れてしまいがちになる。

「ミクロからメゾ・マクロへの展開」
「個人を支えることを通して、地域、社会を変える」

表現の仕方は数多あれど、ミクロ、メゾ、マクロは連続体であるということであり、言い換えれば、「アセスメントにおけるスコープ(射程距離)の違い」ということである。

「アセスメントの範囲を広げる」

その際、スコープを大きくとろうとすれば、当然、捉えなければならない(解像度を上げなければならない)システムを構成する要素や関係性(つまりは変数)が増え、そのことがよりアセスメントを困難にする。


アセスメントのスコープを広げ、「このあたりに介入の焦点があてられそうだ」という仮説がミクロの現場から出されなければ、社会福祉の現場からソーシャルアクションがおこること、マクロ実践者たちと協働して、ミクロ実践で見出された課題を社会化することなどは難しい。

介入の焦点(ターゲットシステム)とは、「変化を起こすために介入すべき焦点/対象はなにか?」という問いへのこたえでもある。

変化への努力が向けられる焦点/対象(クライアントとシステムとの関係性や接点、システム自体)に介入の焦点を定め、適切な介入方法が選定される。問題によって、介入の焦点は複数設定される場合もある。

・個人のサブシステム(生物学的、認知的、感情的、行動的、動機的、能力的、など
・対人関係のシステム(親子、夫婦、家族、親戚、友人、隣人、文化的準拠集団、信仰団体、社会的ネットワークの他のメンバー)
・組織、機関、コミュニティ
・物理的環境(住居、近隣の環境、建物、そのほかの人工物、気候など)
・文化的環境(文化的規範、文化的適応、言語など)
・経済的環境(仕事、収入など)
・社会的環境(ソーシャルサポート、制度、政策) etc…

人や社会についての広く、深い知識と、それを現実世界で起きている事象に結びつけて考えることを必要とする。アセスメントの範囲を拡げるとき、その解像度が低ければ、介入の焦点を絞ることができない。


例えば、以下のようなケースは、医療機関において散見される。

多くの場合、生活保護の申請のサポートと安心して退院できる住まいの確保が、ミクロ実践においてなされることであると思うが、アセスメントの範囲を拡げていくと、また異なる介入の焦点が現れる。

以下の模擬ケースのニーズに対応するかたちで、国内外に4つ、社会資源が生まれている。
これをお読みの方は、どこに介入の焦点が当てられ、実際どのような社会資源が世の中に生み出されたかわかるだろうか?

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Nさんは、豆腐屋を営む両親のもと、一人っ子として大切に育てられました。都内大学経済学部進学を機に、実家を出て、大学卒業後は、通信機器メーカーの営業職として就職。お付き合いした女性はいましたが、結婚はせず、独身。幼少期から家族関係は良好でしたが、母親はNさんが31歳のときに末期ガンが見つかり、発見後1年ほどで亡くなりました。

母親の死後、父親から、「豆腐屋を継いで欲しいので、実家に戻ってきてほしい.一緒に手伝ってほしい」とお願いされるも、営業職の第一線で活躍しており仕事が生き甲斐であったNさんはそれを拒否、父親と言い争いになり、確執が生まれ、勘当状態となり、その後、父親とは疎遠となり、10年以上音信不通状態となりました。

数年ほど前、リーマンショックの煽りをうけ、会社の業績が悪化.当時40歳のNさんはリストラに会い、失職。失業保険の手続きをしハローワークで再就職先を探すも、なかなか見つからず、失業保険、預貯金など数か月分の生活費は徐々に目減りし、家賃を支払うことが難しくなりました。失職した際、会社の健康保険から市区町村の国民健康保険の切り替えを行っていませんでした。

お金を借りることができる友人知人はおらず、父親に詳しい事情は伝えずに電話でお金を貸してくれないかと聞くも「久しぶりに連絡してきたと思えば、金のことか。お前のことは勘当した。もう親子ではないと伝えたはずだ」と即電話を切られ、金の工面の目処が立たなくなったNさんは、消費者金融、闇金などにも手を出すも、その後も仕事は決まらず、アパートに取り立てがくるようになります。

それがきっかけで、大家から退去を強く求められたため、キャリーバックとボストンバックに収まるほどの荷物に収め、借金は踏み倒した状態で、借りていたアパートから退去することになりました。

その後、友人知人宅を渡り歩くが、2週間ほどで、泊めてくれる友人の宛てもなくなり、カプセルホテルやサウナで寝泊まりするも、手持ち金が尽きてきたため、日雇いの仕事を探しては、日銭を稼がなければならなくなる。日雇いで得たお金は、日々の食事(コンビニ・ファストフード)と、寝床となるカプセルホテル、サウナ代で消えていきます。

服の洗濯も3日に1回、5日に1回と、身なりは汚れ、とてもではないが、再就職活動など行える状態ではなくなりました。

再度アパートを借りるにも初期費用や保証人が必要になります。Nさんは、まずはアパートの初期費用を貯めるために、生活費を削るようになり、食事は1日1食となり、カプセルホテルやサウナの使用を止め、ネットカフェに寝泊まりするようになります。

複数のネットカフェを回ってみて、シャワーやフリードリンクがあるところ、自分と同じような状況に置かれている人たちが多く使用しているネットカフェがわかるようになり、「寝床にしている人間」を排除しないネットカフェを長く利用するようになりました。

だが、1.5畳の個室は寝返りもまともにうてません。いびきをかけば、隣のブースの利用者から壁を叩かれ、ときには隣のブースの人間のいびきにより睡眠を妨害されます。そんな環境の中、日中、肉体労働で疲れた体を休めることができず、疲労も蓄積していき、疲れを紛らわすために、酒やタバコに手を伸ばすようになり、アパートの初期費用は一向に貯まりませんでした。

入院数ヶ月前は、仕事中に意識が朦朧とすることや、胸がひどく締め付けられるようなことがありましたが、会社を辞め、健康保険証もなく、所持金も少なかったため、病院に受診はせず、生活保護も考えましたが、テレビで「若くて働ける人間は受けられない」と聞いたので、無理だろうと思っていたそうです。

そんなある夏の日、日雇いの建設現場で、意識を失い、救急車で緊急入院となりました。

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いかがだっただろうか?

問題の構造を広い範囲で捉え、適切な介入の焦点を設定できなければ、ソーシャルアクションを含めたマクロ実践に必要な、介入のための知識や技術を有していても、意味がない。

まずは、日々の実践を可能な限りメゾ・マクロ側に寄せていくことが大事である、日々の実践において、「アセスメントの範囲を広げ、より広い介入の焦点を仮説として持つこと」を何百回、何千回と繰り返していくことが、ソーシャルアクション、マクロ実践をおこなうための下地をつくるトレーニングになると私は考えている。

職場や勉強会等で、アセスメントの範囲を広げ、介入の焦点の仮説を複数出してみるなど、事例検討のやり方を変えるだけでも、トレーニングになるであろうと思う。現在、法人内でそういった事例検討を行う上でのフレームワークを開発している。

「生活上の困難・不安を抱えている人々は、困難や不安を生み出す社会構造の欠陥を教えてくれる存在」であると眼差しを変えたとき、現場において出会う人たちがソーシャルワーカーに教えてくれるものが、社会を変えるための種であることに気づく。

介入の範囲が異なったとしても、ヒントやこたえは常に目の前にいる人(クライアント)が持っているということを忘れないでいたい。


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