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ソーシャルワーカーとして自己研鑽するための方法論/トレーニングについて

社会福祉士、精神保健福祉士、ケアマネージャー等の資格を取得後、多くの方は、自身のキャリアアップやスキルを磨くために色々な方法を試され、自己研鑽に励まれていると思います。

プロフェッショナルとして研鑽し、成長するための方法論について、私個人の経験(7年間)を振り返り、「ソーシャルワーカーとして自己研鑽するための方法論/トレーニングについて」と題してまとめました。

用意された研修を受講する以外にも、専門職としてのトレーニング方法は存在します。新人さんから中堅に足を踏み入れた方で、「自己研鑽の型」がまだ見つからない、模索中。という方に向けて、少しでも参考になればと思い書きました。よろしければお読みください。
(なお、本コンテンツの収益は、私が代表理事をつとめるNPO法人Social Change Agencyの活動費に充てさせていただきますので、最後まで読んでいただいてよかったら投げ銭していただけると嬉しいです)

(*本コンテンツは、15000文字、1-9章で構成されています。)


1.研修に出て、知識や技術を身につける。

ソーシャルワーカーの業界では、多くの研修が開催されています。職場の研修や、職能団体の研修、大学主催の研修、そして自主勉強会など、主催者は様々ですが、今はインターネット上で情報発信を行うところも増えましたので、研修情報も取得がしやすくなりました。研修形式も、座学形式、ワークショップ等のアウトプット重視のもの、ロールプレイを取り入れたものなど、多様なものがあります。職能団体が開催する研修は、勉強の意味でも、そして同業者の仲間と出会う意味でも活用できる場だと思いますので、各職能団体のホームページ等で研修情報をチェックし、受講されることをお薦めします。

また、研修に参加することで、知識や技術の習得だけではなく、同業者の知り合いや価値観を共有することができる仲間に出会うこともできます。研修以外にも、テーマ別の講演会やシンポジウムなど、自分自身の問題意識に即したものには積極的に参加するといいと思います。長く付き合っていける仲間の存在は、ソーシャルワーカーとして働き続けていく上で自分を助けてくれます。

私は、規模の大きい数日間に渡る研修については、入職1年目に職能団体主催の新人研修、初任者研修に参加しました。そのときに知り合った人たちとは今でも交流があります。全国に同業者の仲間がいると思うと心強く思えて、それだけで頑張ろうと思えることもありました。仲間を見つけにいくという目的も、研修受講に加えてもいいと私は思っています。

新人時代を過ぎた以降の研修受講において大切なポイントは、「自分に必要な知識や技術」を知り、その上で、研修受講を検討するということです。都度、所属している組織の特質上、求められる知識がありますし、それに加え、制度や法改正等の知識も大切です。インターネットの普及により、知識のみを求めるのであればわざわざ座学で研修を受けなくても情報を得ることは容易になりましたので、「自分に必要な知識や技術」と「時間」を勘案し、受講を検討することをお薦めします。

ソーシャルワーカーとして学ぶ上で、全てにおいて、「自分に不足している分野・領域、知識や技術」に自覚的であることが大切だと私は考えます。そうすることで、研修受講の選択に根拠が生まれます。

「とりあえず勉強したい」というモチベーションを否定する訳ではありませんが、ただ漫然と目的意識もあまりないまま受講する研修は、気づきの少ないものになってしまいます。「自分に不足している分野・領域の知識や技術」を知るには、後にお伝えします「スーパーバイズ」や上司からの指導を活用することもその一助になります。

自分が有している知識・技術等のマップをつくることもおススメです。

「過去に受講した研修の履歴をまとめる」、「自分の本棚をみてどんな領域のどんな種類の本があるかを知る」、「自分が書いたものを見返し、自分がその知識や技術や価値倫理について、しっかりとした根拠を有しているかを知る」それが大変であれば、本棚にある本の系統を知っておくことだけでも、自分の知識や技術の偏りを知ることができます。

これは、自分のソーシャルワーカーとしての持ち物について「自覚的」であるかどうかということにも通じます。

自分がどういったソーシャルワーカーとしての武器と防具を身にまとっているかを知った上で、研修受講をすることができると、自分の強みをより強めたり、自分に足りない部分を補ったり、という視点で研修から学びを得ることができるようになります。この考え方は、本を読んで学ぶ上でも同様に活用することができます。このことは、ソーシャルワーカーとして学び続けていく上で、とても大切なことです。


2.本を読み、知識や技術を学ぶ。

みなさんは、本を読みますか?どのようなときにどのような本を読みますか?

私はひとつめの職場で「給料の1割は自己投資に使いなさい」と上司に言われて以来、お金の糸目をつけずに本を購入し読みあさるようになりました。
今では、1年の中で本を読まない日は無いくらい、私の中で読書は「習慣化」された行動になりました。外出するときには必ず数冊本を持ち歩き、細切れ時間があれば読書に当てることが多いです。最近は電子書籍の登場で、スマートフォンで読書ができるようになったので、重い本を持ち歩かなくてもよくなりいい時代になったなと感じます。(紙の本で読むべき本、電子書籍でもいい本など、選別をしています)そしてなにより、読書は1冊1000円前後(専門書はもっと高価ですが)で、未来の自分に対する投資ができる素晴らしいものです。

読書は知識や技術を知る上で非常に有用ですが、試験勉強のための知識詰め込み型の勉強における「暗記」のための読書は現場に出るとあまり重要ではなくなります。インターネットで多くの情報を収集することができるようになりましたが、それでも未だなお、ひとつのテーマについてまとまった知識を得ることができるもので本に勝るものはありません。

現場で活用するために、参照できる知識を増やす。社会に対する興味関心テーマを増やす。そのような目的で学ぶとき、読書はとても有用です。場所や時間を選ばずに学ぶことができるというのも利点です。

そして、今後お伝えしていく「書く技術」の基本においても、「文章を読む」ことが欠かせません。たくさんの文章を書くためには、たくさんの文章を読む必要があります。語彙や接続詞の使い方、物事を論理立て、文章にしていく方法などは、多くの本に触れ、多くの文章を読むことで、自然と身に付いてくるものもあります。

本との出会い方。どのように本と出会うかについては、普段あまり読書をしない方であれば、まずは、興味のあるテーマのある本からでいいと思います。まずは、読書に慣れる、習慣化するということが第一だと思います。参考までに、私の本との出会い方、購入するルートは以下の4つです。

⑴.尊敬できる人が薦める本
(オンライン、オフラインに限らず。この人が薦めるなら!と盲目買いをする本。読書の幅が広がります。)

⑵.仕事上、読んでおかなければならない本
(主に専門書です。インターネット新刊情報をチェックしています)

⑶.実際に書店に足を運んで、偶然の出会いを果たす本
(週に1、2回は必ず本屋さんへ行く。テーマ問わず、そのときにおもしろそうだと思った本を購入)

⑷.その都度自分に必要なテーマに関して、選び購入する本
(学びが多い良著に出会ったら、その本の中で紹介されている書籍を読むというのもひとつです)

私は、尊敬する人やお話をして、とてもおもしろい人には必ず「おススメの一冊」を教えてもらうようにしてきました。日頃、仕事上読んでおかなければいけない本以外との出会いは、どうしても自分の興味関心のあるテーマに限られてしまうので、人から紹介してもらう本を読んでみることは、自分の思ってもみなかった興味関心テーマに出会ったり、仕事に活用できる新たな知識が得られたりと、新しい出会いがあることが多いです。

自分の興味関心テーマや知識の系統を知るには、「自分の本棚を眺め、どんな領域のどんな種類の本があるかを知ること」がその助けになります。思想家の内田樹氏は以下のように言っています。

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「自分の本棚に配架される本は自腹で購入した有料頒布のものに限定されます。自分の本棚は僕たちにとってある種の「理想我」だからです。「こういう本を選択的に読んでいる人間」であると他人に思われたいという欲望が僕たちの選書を深く決定的に支配しているからです」
(内田樹『街場のメディア論』)

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本棚は欲望の照射先でもあり、自分がこの先どうなりたいのか、そして他者からどう見られたいのか、などを本棚の本たちは如実に無言で語ります。ご自身の本棚を見てみましょう。どんな本がありますか?人に薦めたい本や、今後も読み返したい本はありますか?本への興味は自分自身の興味関心テーマを教えてくれます。ぜひ、一度本棚を見つめ直してみることをお薦めします。


3.職場で上司から指導を受け、実践を振り返る。

現場に出てから教育を受ける機会としては、職場の上司からというのが一番多いと思います。

現在進行形のケースに対するリアルタイムでの相談、ケース終結後の振り返り、スーパーバイズなど、上司から指導を受ける機会を、学びに活かすことは非常に大切です。それは、ソーシャルワーカー自身の成長のためだけではなく、クライエントに対して、常に一定の質の援助を提供するために必要なことでもあります。

入職したばかりの新人と、ベテランの間に能力の差異があることは当然ですが、クライエントにとって常に一定の質の援助を提供するために、上司から部下への教育的指導は欠かせません。

ソーシャルワーカーの所属する機関は、その種別に関わらず、少人数であることが多いです。

学生さんであれば、はじめての職場を選ぶ際は、可能な限り、「現場経験がある上司から指導をしっかりしてもらえそうな機関」を選ぶことをお薦めします。現時点ではソーシャルワーカーの業界は、OJTに頼る部分が多いからこそ、現場での教育体制が整っているところ、しっかりと指導できる能力のある上司のもとで働くことは、ソーシャルワーカーとしてのキャリアを考える上でも大切なことです。

私自身ははじめての職場で、業界でのキャリアが20年を超えたベテランの上司に指導をして頂きました。それによって私が受けたOJTは非常に意義のあるものになりました。「見て盗め」も大切ですが、やはり、きちんとした根拠のある実践を為すために、上司からの指導は必要です。

少し脱線しますが、就職活動をする際は、必ず自分の上司になるであろう人と話をする機会をつくることをお勧めします。自分の職業的な価値観と、上司や部署のそれが大きく相違ないか、一緒に働くことになるかもしれない人たちの人柄等も知っておくことで、入職後のミスマッチを可能な限り回避できます。ソーシャルワーカーは組織に数人であるからこそ、部署内のバランスは非常に大切です。これは、管理職として新しく人を採用する際にも、必要な視点だと考えます。

職場で上司から指導を受けることのメリットは、現在進行形のケースについての指導やアドバイスが受けられること、他部署や地域の関係機関との関係性に基づくコミュニケーションの取り方を教えてもらえたり等、「近しい存在」であるからこリアルタイムに、実践の中で、学び、成長をしていくために必要なことを教えてもらえることです。

ですが、ソーシャルワーカーとして成長し、スキルを身につけていく上で、上司からのだけに頼ることもまた考えものです。上司からの指導にも当然、限界があります。

上司の現場経験がどれくらいあるのか、過去に部下の教育経験があるのか等によって、上司が部下に提供できる教育的資源は異なります。なぜなら、クライエントに援助を行うこととと、部下に教育的な指導ができることは、異なる能力だからです。上司として過去に何人もの後輩たちをしっかりと育ててきた人、上司としてはじめて部下を持った人、両者には当然、「教育的能力」の差があります。ですから、現場経験の長さと教育的能力は単純には比例しないのです。

組織学習論などを専門とする東京大学の中原淳准教授は、マネージャーが学ぶべきことについて以下のように記しています。

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マネージャーが経験しなければならない変化(学び)は、2種類のものがあります。1つは、実務担当者時代の未経験分野を新規に学び直すこと、もう1つは実務担当者時代に身につけた知識やスキルをマネージャー用に変更することや、場合によってはそれらを捨て去ることです。
【駆け出しマネージャーの成長論(P42)】

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ソーシャルワーク現場の「上司」の多くは、現場で成果を出すことと(プレイヤー)、部署の管理業務(マネージャー)の両方の役割を求められる”プレイングマネージャー”であることがほとんどで、忙しい現場で、上司が部下の教育に割ける時間も限られているので、上司がプレイヤーとしての業務に忙殺されているような現場では、当然部下の教育に割ける上司のリソースは減ります。

また、同一機関内の上司・部下という構造において、ときに率直な意見や本音で話ができない場合があるでしょう。だからこそ、現場での上司からの指導に加え、組織外でスーパーバイズを受ける機会等、様々な学びを組み合わせていくことが大切です。


4.職場外でスーパーバイズを受け、実践を振り返る。

対人援助職の質の向上を目的とした教育方法のひとつに「スーパービジョン(以下SV)」があります。SVとは、「熟練した専門職員が初級職員に対して行う専門的指導・支援活動」であり、管理的機能、教育的機能、支持的機能の3つの機能を有するものを言います。方法は、個別SV、グループSVがあり、スーパーバイザー(SV指導援助にあたる専門職)とスーパーバイジー(SVを受ける側の専門職)との間で行われます。

SVは、クライエントヘの援助の振り返りや、その質の向上、スーパーバイジーの成長を促す等の目的で行われます。多くのスーパーバイズに関する書籍がありますので、書籍を読まれることをお薦めします。

私は、スーパーバイズを受けた経験から、援助の振り返りや質の向上という目的の他、スーパーバイジー自身が自分の「ソーシャルワーカーとしての教育的機能を高める」ためにも、スーパーバイズを受けておくべきだと考えます。以下その理由をお伝えします。

まずは、スーパービジョンにおけるバイザー側の役割を考えてみます。

バイザーは、バイジーからのケース内容報告から、バイジーがみているケースの全体像をイメージし、かつバイジーがどのような問題と対峙しているかを読み解いていきます。そして、バイジーの現段階での到達点を見極め、バイジーからのケース内容報告等以外の事実(バイジーが確認できていないもの、認識できていないもの)を確認したり、バイジーの中で起きている、主観的事実、客観的事実、感情等の情報の混乱を整理するのをサポートしながら、まずはケースやバイジーの困りごとの全体像をバイジーと共に描こうとしていくのだと考えます。

バイザーは、バイジーの思考の交通整理を助けながら、ケースの全体像を描き直す過程をサポートしていきます。バイザーは、その過程で起こるバイジーの気づきに着目、焦点化し、思考を掘り下げていきます。そして、その過程の根底にあるのはバイジーへのエンパワーメントな関わりです。それが根底に存在しないと、ときにスーパーバイズはバイジーをパワーレスに陥らせるだけのものになってしまいます。つまりは支持的ではなくなってしまいます。

SVにおけるバイザー側の役割を上記のように分解して考えると、そこに必要な労力、そしてどれほどの技術が必要だということが想像できます。

SVを行うということは、バイザーも全力で能力を働かせ、バイジーとイメージを共有した上でアドバイス・指導を行うということであり、そういった意味でスーパーバイザーにはかなりの職業的熟練が求められ、かつ良質なスーパーバイズを受けてきたという経験も欠かせません。

良質なSVができるようになるためには、良質なスーパーバイザーの元でSVを受けたという経験が必要であると私は考えています。そして「教える」という経験も欠かせません。経験年数が長いからと言って、ある日突然良質なSVができるわけではなく、都度現場で後輩たちに「教える」という経験を経てきたからこそ、バイジーとしての能力は向上するのです。ですから、ある程度の経験年数を重ねていく過程で、「教える」ことを避けて通るべきではない、むしろ経験すべきだと考えます。

ソーシャルワーカーの業界は、ひとつの組織に従事する人数等の問題で、「教える」ことを経験せずにキャリアを積み上げていかざるを得ない構造があります。しかし、「教える」経験をせずに経験年数を重ねていくことへの危機感が業界全体として薄いように思います。

少なくとも現場経験3年目以降は、ソーシャルワーカーとして、「教える」という経験をせずにキャリアを積みあげることへの危機感を持ち、「教える」ということが難しい環境にいるのであれば「補完できるものを得る」いう意識を持つべきです。

SVを受けるということは、ソーシャルワーカー自身のためでもあり、クライエントのためでもあり、そして近い将来出会う後輩のためでもあるのです。

職能団体等で、スーパーバイザーの紹介等を行っていますのでぜひ、ご検討されることをお薦めします。


5.学会等で発表をし、実践から得たものを言語化する。

実践の振り返りを時間をかけてしっかりまとめる上で、学会等での発表は非常によい機会です。日々の業務に忙しくしていると、「ゆっくり時間をかけて、しっかり自分の実践を振り返る」ことは、必要に迫られない限りは行うことが難しいと思います。ですので、学会発表等、時間的期限の定まっている目標を定めることは、よい機会になります。

日々の実践から得たものを言語化することは、「成長するための問い」を生み出すことに繋がります。

違和感をことばにし、生み出した問いについて、考えることで、自己覚知を為したり、ソーシャルワーカーとしての職業的価値を獲得したり、現場でクライエントに対し援助を行う際に必要な用意や準備ができるようになるのです。このように行動を変える問いを、「成長するための問い」と呼んでいます。

違和感をことばにできなければ、発表のテーマ(問題意識)も定まりませんし、外部化(発表スライドの文章や原稿をつくったり)できなければ、他者と共有することができません。そして他者と共有しようという意識があれば、外部化したものを体系化し直し、「どのような方法であれば、より伝わりやすいものになるか」と、他者に実践から得たものをどのようにプレゼンテーションするか、という考えに至るでしょう。

「書く技術」は、アウトプット型の学びを得るための一助になる技術です。

受動的なインプット型の学びが多い中で、意識的に能動的なアウトプット型の学びを取り入れることは、学びのバランスを取る上でもとても大切です。

インプットするだけで、アウトプットための方法やそのトレーニングを怠れば、インプットされたものは、廃れ、最大限活用することが難しくなります。逆もまたしかり、そもそもインプットしていなければ、アウトプットはできません。ソーシャルワーカーとしての「実践経験」という価値あるインプットを、最大限活かすためには、アウトプット型の学びが必要になります。

アウトプット型の学びは、日々の業務にも活きてきます。

なんとなくやっている仕事を「意識化」することができなければ、やり方について考え、より良いやり方に変えたり、また、やり方について他者に伝えることできません。そして、「いちいち立ち止まって考えなくてもできるようになる」ことが多くなれば多くなるほど、意識を新しいことに向けてあげることができるようになります。

「なんとなくやっていることを意識化することができる」→「やり方について考えることができる」→「ルーティン(決まりきった手続きや手順)化することができる」→「いちいち立ち止まって考えなくてもできることが増える」

この過程は、仕事を覚える上でも、仕事のやり方をよりよくする(業務改善)を行う上でも、とても大切です。

ですから、「無意識の意識化(なんとなくからの脱却)→ルーティン化(決まりきった手続きや手順化)→再・無意識化(考えなくてもできるようになる)」という過程をつくる上でも、経験から成長の機会を得る上でも、振り返りのスキルを高める上でも、書くことは有用です。

「気づき」を増やし、「成長するための問い」を生み出すために、学会等の発表場で、アウトプットをする機会をつくることはとても大切です。



・6.逐語録を書き、自分の面接場面の振り返りをする。

みなさんは、逐語録という言葉をご存知でしょうか。

逐語録とは、発言等の一語一語を忠実にたどり、記録することをいいます。

クライエントとの面接場面の逐語録は、事例検討やスーパーバイズを受ける際の材料として用いられることがあります。

アウトプット型の学びである「記憶をもとにした逐語録の作成」についてお伝えします。

私は現場2、3年目の頃、適宜、インテーク面接を逐語録に起こし、自分がインテーク面接をどのように行い、そして、どのようにアセスメントを行っているのかを振り返り、各ケースを比較するということを行っていました。

新人の頃、入院中の患者さんに対して、新しく担当になったケアマネージャーの方がインテーク面接を行う場面に同席をする機会があり、その際、私が展開しているインテーク面接との違いを感じたことがきっかけでした。その患者さんのケースが終結した後に、自分の面接とケアマネージャーの面接を比較し、その違いについて、モヤモヤと言葉にできないものを明確化するために、自分とケアマネージャー両者の逐語録を記憶を引っ張りだして書き、それを材料に、当時の上司にスーパーバイズをお願いしました。

その後も、約1年間、自分がソーシャルワーカーとしてどのようなインテーク面接の枠組みをもち、どのような傾向があるのか、そのことについて知るために、逐語録を書き続けました。

やり方は至って単純。その日に行った患者さんやご家族との面接場面を、業務終了後に思い出して、書き起こすというものです。本来、逐語録は、面接場面の動画や音声の録画録音を、クライエントの同意を得て行ったり、面接のロールプレイ(模擬クライエントを誰かに行ってもらい行う練習)を録画録音して、それをもとに書き起こしますが、私の場合は、記憶に頼り、自分やクライエントが何を言ったかを思い出しながら、逐語録を書くということを行いました。

この場合、まずは、当然、面接場面を記憶しておく必要があります。これができないと、逐語録が書けません。最初は思い出せず、結果、穴の多い意味の通じない逐語録しか書けませんでしたが、続けていくうちに、穴の無い、意味も通る逐語録が書けるようになってきました。

記憶を頼りに逐語録を書くようになり気づいたのは、全ての場面や言葉尻を覚えることはできないので、キーポイント(重要)になる場面を覚えておくようになった、ということでした。それにより、『その面接の”キーポイント”になるところはどこだったか?』という振り返りを促す問いが常に生まれるようになりました。

記憶しておくには、たくさんのことに「気づいておく」必要があり、気づいたことが目印になり、記憶ができ、逐語録の情報量も多くなっていきました。

面接場面でクライエントの方と共有した場の空気感(穏やか、緊張、感情的等)や、表情、言葉、ソーシャルワーカーである自分の感情の動きなど、を記憶しておく、ということは、面接における、クライエントとの間で交わされる情報量を多くを捉えておく必要があります。これは、第一章でお伝えした「気づく」=「無意識のことば化」の訓練にもなりました。

「気づく」について言えば、例えば、面接において、患者さんの家族が、「患者本人は1年くらい前から通院しなくなった」と口にしたとき、ソーシャルワーカーとして、その言葉に対して思う「なぜだろう?」はたくさんあります。 人は、とあることが「自分の問題である」と自覚しはじめて、解決に向けた行動を起こします。日常生活に弊害が生じたり、何かが今まで通り立ち行かなくなったときに、それが問題だと「認識する」のです。

この例について言えば、通院しなくなった事実を家族が「問題」として捉え、何かしらの行動を起こしていれば、入院という結果にはならなかったかもしれません。

たった一言でも、そこにアンテナを張り巡らせ「気づく」ことで、目の前にいる人の生活の様子や、物事の捉え方を知るヒントになります。 そしてそういった情報を、しっかりと他職種や他機関を含めたチーム全体で共有することができれば、チームでのアプローチを行う上で有益なものになります。

記憶をもとにした逐語録は厳密には逐語ではありませんが、このやり方には、自主トレーニングとしての機能があります。「気づく」=「無意識のことば化」の訓練にもなりますし、自分の面接の持っていき方のスタイルなどの傾向を知る材料にもなります。

「記憶をもとにした逐語録の作成」は、慣れるまで大変で、地味な作業ですが、本書のテーマである「気づく」と「書く」を共に行うことができますので、非常にお薦めです。


 7.援助記録を書き、日々の実践の振り返りをする。

現場でクライエントヘの援助の過程等を書き残す記録を援助記録と呼びます。

私は、援助記録を書く意義は、「クライエントへの援助の質を高めるため」、そして、「ソーシャルワーカー自身の実践能力を高めるため」だと考えています。

一言で言えば、記録が書けない=頭の中で様々な情報が整理できていない、ということであり、頭の中で様々な情報が整理できていない=アセスメントまで到達できていない、ということです。

記録が書けない=アセスメントを組み立てる段階まで到達できていない、ということですから、援助記録を書くことがどれだけ大切なことで、アセスメントを組み立てるためのトレーニングになるかがわかります。

新人の頃は、必ず、しっかりと援助記録を書きましょう。

なぜなら、最低限、クライエントとそれを取り巻く環境に関する「情報」を整理し記録に書き起こすことができてはじめて、それを基に、アセスメントを行ったり、上司にケースのスーパーバイズを受けることができるからです。できれば、新人のうちに身につけておべき記録の習慣をいくつかお伝えします。

⑴インテーク(初回)面接の記録はしっかりつけるべき

インテーク面接で扱う情報量はとても多いです。

その内容を記録に起こすことは、クライエントとそれを取り巻く環境についての理解を構造的におこなうこと、また、記録に起こすことで、援助を組み立てる(アセスメント)上で足りない情報が自覚できたり、面接中にリアルタイムで気づかなかった疑問に気づいたりすることができます。

<書き方に迷ったらSOAPがおすすめです>

記録の書き方に迷ったり、やり方を試行錯誤したりするのであれば、スタンダードな方法を採用するということをおすすめします。やはり「SOAP方式」が一般的なのではないでしょうか。

SOAP記録とは以下の項目のアルファベットの頭文字を取ったものです。DrやNsなどの記録も多くはSOAP記録で書かれていることが多く、ソーシャルワーク記録に限らず用いられている記録方式です。

S: Subjective(主観的事実)

クライエントが言葉にしている訴えや希望など

O: Objective(客観的事実)

病状、家族背景、経済状況 などの誰から見ても変わることのない客観的事実

A: Assessment(主観的事実と客観的事実から導かれる状況・問題の評価・分析)

主観的事実、客観的事実を基に、対象となるクライエントが今現在どのような状況に置かれているか、どのような問題があるか、どのような活用できる資源(ヒトやモノを含む)があるかなどの評価

P: Plan(具体的な問題解決に向けて行う、行ったアプローチの内容)

実際に、誰と誰に(何に)対して、どのような方法で何を活用して、どうしていくか、という事実・結果。

援助記録を我流で書くのはおすすめできません。いつも、同じ書き方である一定量の記録を書いてはじめて、自身の中で比較や検討ができるようになるので、まずはスタンダードな方法で記録を書いてみるのがよいのではないかと思います。

⑵面接の記録を読み返し、面接前のウォーミングアップをしましょう

面接にきちんと継続性を持たせ、前回の面接でソーシャルワーカーとクライエントとの間に共有された事項の確認をしてから面接に入るということは、クライエントへの礼儀であるとともに、自身の実践力を過信せず、謙虚な姿勢でクライエントと向き合うためにとても大切なことです。

その上で、前回の面接でどんな話をしたかということを書き起した記録を読み返し、思い出してから面接に入るということは、プロスポーツ選手がウォーミングアップをしてから試合に入るのと同じことです。

SOAP方式の記録でAssessmentとPlanの区別ができないという話をよく聞きます。ですが、きちんと記録を書き続けていけば、「記録を書く」=「情報を整理しアセスメントを行う」という一連の流れが理解できるようになる時期が必ずきます。援助記録は、業務上でできる「書く」訓練です。記録をさぼらず、続けていくことで、間違いなく力はついてきます。

援助記録については書籍:八木亜紀子著「相談援助職の記録の書き方―短時間で適切な内容を表現するテクニック」副田あけみ、小嶋章吾著「ソーシャルワーク記録―理論と技法 」がお薦めです。


8.問いを立てる力を鍛え、考える材料を増やす。


書くことは気づくことであり、気づき、書くことを続けるには「問い」が必要です。

言葉にするという行為の前提には「問い」があります。

例えば、「私はこんなソーシャルワーカーになりたい」という言葉は、「あなたはどんなソーシャルワーカーになりたいですか?」という問いへのこたえです。現場で感じる「なぜ?どうして?」という全ては意義のある問いです。わたしたちは、問いの数だけ考えることができます。ですので、問いは考えるための材料になります。

私は長い間実践に身を置いているわけでもないですし、まだ発展途上のソーシャルワーカーではありますが、その過程で得た「問い」について考え、行動するということを身体に叩き込んできました。「言葉にする/書く」ことを続けてこなかったら、「問いを立てる力」を鍛えることは難しかったと感じています。

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⑴「質問をする」という行為から”わかること”

私は2012年から2年間「ソーシャルワークを語る会」という対話の場を企画してきました。参加者は少人数、テーマは決めず、その日の話の流れでテーマを絞っていくという形式です。

その中で、参加者の方の自己紹介のあとに、各自が他の参加者の自己紹介を聞いた上で「もっと聞きたい質問」を考え、その質問に各自が答えることをアイスブレイクを兼ねて行なってきました。

「人の話を聞いて、自分の中に生まれる質問」は、「ここが気になる」という自身の「興味」と言い換えることができます。「この質問をしたい。これを聞きたい」というのは、他者の話を膨らませるという側面以外にも、自分自身の興味や関心ごとを知る上でのヒントにもなり得ます。

自分の興味関心を知るための「質問」を考える上でのひとつのポイントは、質問を「頑張って捻り出す」ことをしないことです。なぜなら頑張って捻り出した質問は、イコール「考えて作り出した質問」だからです。

自分の興味関心のアンテナを知るためには、「相手の話を聞いてパッと出てくるキーワードやイメージ」を大事にして、簡単で単純な質問でいいので、「あまり考えず」にすることが大切です。

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⑵問われる環境が与えてくれるもの

「問われる環境」が与えてくれるのは、「考えるための材料」です。

自分で問いをつくるためには、気づきを積み重ねて、それを問いにまで昇華せねばなりませんが、誰かが自分に質問をしてくれれば、質問の分だけ、書く、言語化する材料は増えることになります。

「問われる環境」の例を具体的にあげると、例えば、現場で働いている方が、大学から実習生を受け入れたときなどがそれにあたります。「問いの質」や実習生自身のモチベーションは考慮にいれないにしても、学生の実習での本分は「実習で、気づいたことをもとに問いを立て、それについて考え、学ぶ」ということであるはずです。

ですから、実習生自身が気づいたことから問いを立てるための補強材としての「質問」を、現場の人間にしているはずなのです。そして、「質問」を受ける現場の人間の側にも「問われることで生まれる新たな問い」が生じます。

「学生は、なぜこの質問をするのか?」

「学生は、こんな気づきをしたのかな?」

「こういう質問をされたけれど、最近そのことについて考えたことがなかった。それはなぜだろう?」

例えばこのような、問いが生まれるかもしれません。

他者から問われることで、気づき、考え、新たな問いを生み出すことができ、考えるための材料が得られるのです。だからこそ、「問われる環境」は「言語化」を続けていく上で、とても大切です。

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⑶問いの射程距離を拡張することで得られるもの

私は、「問いの射程距離」という言葉を使います。射程距離とは、「目的に対して充分に届くことが可能な距離」と言い換えられます。山田ズーニー氏はこれを「問いを立てるエリア」と称しています。以下、「話すチカラをつくる本」から抜粋します。

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問いを立てるコツは、「問い」を立てるエリアです。
時間軸:過去→現在→未来空間軸:身の回り→日本社会→世界
思考が行き詰まってしまう人は、「問い」を立てるエリアが狭い。
視野を自分から→相手へ、まわりの人へ
視野を自分から→自分のいる組織へ、社会へ、世界へ
視野を現在から→過去へ→未来へ
人、空間軸、時間軸を意識的に移動しながら、できるだけ広いエリアにわたって問いを立てていくことが思考をのびやかにするコツ。

「話すチカラをつくる本」より
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問いにも「ミクロ、メゾ、マクロ」があります。「人、空間、時間」の軸を移動し考えることで、「問いを立てるエリア」が広がる。イコール、考える材料が増えることになります。なにかひとつの問いを得たとき、その問いを上記3つの軸を移動させることで新しい問いが得られることがあります。

問いを立てることにより、考える材料は増えます。

ですので、問いを立てる力を鍛えることは、考える力を鍛えるためのトレーニングにもなるのです。


9.学びのポートフォリオ作りのススメ

ソーシャルワーカーの学びの現状について8つ取り上げお伝えしました。
もちろんこの8つが全てではありませんが、皆さんが、日々どのような学びをされているか、そして、1-8までに学びのバランスはどうなっているか等、振り返っていただくための材料にしていただくことができたかと思います。

研修は沢山参加しているけれど、スーパーバイズは受けていないし、本も全然読まない。

研修はほとんど参加していないけれど、本はたくさん読んでいる。

研修も参加していないし、スーパーバイズも受けていないけれど、学会発表などはたくさんしている。

みなさん各々、学びの種類にバラツキがあるのは当然です。大切なのは、それに自覚的であることです。これも自己覚知のひとつだと考えます。こでひとつお薦めしたいのは、「学びのポートフォリオ」をつくる、という考え方です。

ポートフォリオとは、現金、貯金、株、国債、不動産…etcなど、「企業や個人が所有する各種の金融資産の組み合わせ」のことを言います。

「学びのポートフォリオ」とは、「ソーシャルワーカーとしての自分が行っている学びの組み合わせ」のことです。

・1.研修に出て、知識や技術を身につける。

・2.本を読み、知識や技術を学ぶ。

・3.職場で上司から指導を受け、実践を振り返る。

・4.職場外でスーパーバイズを受け、実践を振り返る。

・5.学会等で発表をし、実践から得たものを言語化する。

・6.逐語録を書き、自分の面接場面の振り返りをする。

・7.援助記録を書き、日々の実践の振り返りをする。

・8.問いを立てる力を鍛え、考える材料を増やす。

・9.(1-8以外の、みなさんが行っている学び/私の場合は日々気づいたことを文章にする)


少しは参考になりましたら、幸いです。

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