バジル氏の優雅な生活 by 坂田靖子

 たぶん坂田靖子さんの代表作になったと思う漫画である。1979年にLaLaにて連載が開始され、1987年のCindyの夏号まで8年間の作品である。コミックス版はもちろん、豪華版、文庫版にもなった。時代は19世紀ヴィクトリア朝時代のイギリス。貴族の全盛期を舞台に、イギリスの社交界でもてはやされるバジル卿をメインに据え、彼の周りの人々のドタバタ騒動を面白く描く。
 坂田靖子さんを始めとして、1970年代後半から1980年代前半にデビューした少女漫画家の人々は、イギリスや諸外国を舞台に作品を描く傾向が強く、金沢の漫画研究会ラヴリに参加していた方々も例外では無いようだ。当時の参加者は花郁悠紀子、橋本多佳子、小沢真理、岡野史佳、遅れて花郁さんの妹である波津彬子らが在席していたらしい。ポスト24年組として、なんと華やかな方々だろうか。
 当時の英国の状況や風俗・習慣を都合よく活用?している様は、私には「まるで江戸捕物帳」のように見えた。決してリアルではなく、かといって嘘100%でも無い、ファンタジー要素のある架空空間としての英国を描いていると理解して楽しんだ。(まあ、個人的な見解と鑑賞方法であるとお断りしておこう)独身をエンジョイしているバジル氏や、その友人でスコットランドヤードの総監の息子のウォールワース卿、もちろん父親のウォールワース総監も登場して、物語を盛り上げる。また第一話から登場のフランス生まれのルイや執事(バトラー)のアダムス、画家のハリー・ネクローファーなど話は、多様な広がりを見せキャラクターの魅力を十二分に引き出し、読者を楽しませてくれる。
 19世紀ヴィクトリア朝時代は、この物語のようだった・・・と思うのは早計に失するが、面白さで言えば十分だろう。かなりダンディで世の中を斜めに見ている感があり、独身を謳歌しているバジル氏だが、なかなか人情味溢れ憎めない。まあ、ルイから「人妻との浮気旅行」をとがめられたりする所も、親近感を覚えたりする。特に大きな事件があるわけでもなく、淡々と過ぎていく日常生活の描写が「ヴィクトリア朝時代ってさもありなん」思わせてくれる。それだけで、世の中のギスギスした昨今の現実から一時の癒しを与えてくれる貴重な漫画であることは、疑う余地もない。未読の方、特にイギリス物がお好きな方は、一読をオススメする。

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コミックス、文庫、豪華版と3種ともあるので、文庫は売ろうかなぁ・・・と思ったり。


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