冬の間は、ときたまビニールハウスに生けてあるネギを引っこ抜いて
土がついたまま肥料袋に入れ、それを勝手口の外に置いておいたり、
育って混み合ってきた水菜を摘んで台所のコップに挿しておいたり、
庭の枯れた金木犀に据えた餌台にスズメのための古米をあてがったり、
部屋の出窓に貼ったプチプチ断熱シートが午前中の日の光でいっぱいになるのを眺めていた。
それくらいしか、することがなかった。

春が来て草の種が芽吹き、桜もチューリップもあっという間に咲いては散って、夜には田んぼから二階の窓にかえるの声が届く。

かえるの声がいっせいに止む間、あの遠慮ぶかい冬の日差しや雪の上にできる青白い影、朝の冷たい空気を飛んで行く白鳥の真っ白なお腹などが思い出されてまばたきもできないような気持ちになる。

それは死んだ後に思うことと、そう遠くないような気がした。

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