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1996年3月21日(木)《BN》

【新迷宮:湘南爆走隊】
「なかなか良いものは落ちてないわよね~」
 宝箱のなかから、ブロードソードを取り出した桜庭 敦子はため息混じりにこう言った。新迷宮1階を順次探索していた湘南爆走隊のメンバーであったが、亜獣がいる部屋に高確率で存在している宝箱の中身のあまりものはずれさに意気消沈していた。
「高望みはしないからせめてブロドソ+2ぐらいは落ちてないですかね。」
 平山 裕美は右手に持ったブロードソードを見ながらこうつぶやいた。ブロドソ+2の+2とは、武器にこめられた魔力の大きさを表している。この+が大きければ大きいほど一般的に切れ味が良く、軽いという傾向がある。現在湘南爆走隊の戦士3人は全員ただのブロードソードを使っている。
「さて、じゃあ次の部屋に行きますか」
 桜庭の合図とともに全員立ち上がり、次の部屋へと向かっていった。

【紅丸:原田 公司・大島 清吾】
「ということで、あまり気にすんなよ。」
 『紅丸』の奥の座敷にあるテーブルの1つを陣取り、ホイコーロー定食をほとんど食べ終わっていた原田 公司が、真剣な面持ちの大島 清吾に向かってこう言った。大島は原田にマーフィーとの戦いで自分がダメージを受けてしまうことについて悩んでいると相談した。戦士の戦い方は大きく分けると喰らう人と避ける人に分類されるが、喰らう人を選んだ大島は常に自分の戦闘スタイルに対する疑問を持って戦っている。喰らうよりも避ける方が良いのではないのか・・・この疑問を払拭するにはかなりのレベルを必要とする。それに対して原田は大島に対してこう説明した。
「現在の敵レベルだと、避けるのも簡単だし、攻撃を受けてもそこまでダメージが大きくないので、避ける方が絶対的に有利なのは間違いない。しかし、敵のレベルが上がっていくと、避けるのが難しくなるし、避けきれずにくらった時のダメージが半端ではなくなる。しかも、どんなにレベルの高い戦士でも敵の攻撃を100%よけるのは不可能。そこで喰らうという概念が出て来るんだ。特に大島の部隊には飯島さんがいるから、避ける戦いに魅力を感じるかもしれないけど、大島が飯島さんほどの回避力を身につけるのは無理だし、それに飯島さんでも敵の攻撃を完全によけることは出来ないんだ。だから大島は今までどおり喰らう方向でやっていった方がいいと思うよ」
 この説明を聞いて大島は自分の持つ疑問が少し解消できたような気がした。
「ところで大島」
「はい」
「ここの勘定は俺が出すよ」
「あ、ありがとうございます」
「だから金貸して」
 自分は持ち合わせがないのに、後輩にはちゃんと飯をおごる。昔から後輩にはやさしい原田であった。

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