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【Summer Pockets REFLECTION BLUE】

2023年6月プレイ開始
総プレイ時間:約40時間

【ストーリー】

★★★★☆ 4

主人公の鷹原 羽依里(たかはら はいり)は死んだ祖母の遺品整理のため、夏休みを利用し、人口二千人ほどの離島・鳥白島(とりしろじま)へやって来ていた。
主人公は叔母の岬鏡子(みさき きょうこ)と二人で遺品を整理する傍ら、島で出会った新しい仲間との島の生活を楽しみ、夏休みが終わるまでの時間を島で過ごすことになる。

本作は所謂完全版であり、今からプレイするのであれば余程の理由が無い限りこちらを選ぶことになるだろう。

シナリオは過去作の『CLANNAD』や『リトルバスターズ!』のように、ヒロイン毎の個別ルート → グランドルートという構成になっており、シナリオの進行に応じて世界観や物語上の謎が徐々に明らかになっていく。
key作品らしい幻想的でファンタジックな世界観は本作にも健在であり、「夏休み」をテーマにしたノスタルジーで爽やかなシナリオは、同じく夏を舞台にした『AIR』とはまた違ったテイストで非常に楽しめた。

しかし、個人的には先述した作品たちと比較して「破壊力」が足りないと感じた。
特に終盤のシナリオ展開は非常に勿体なく、もしもここで重たいボディブローのようなシーンが連続していたのなら、間違いなく僕を含め多くのユーザーの涙腺を決壊させていただろう。
この点を惜しいと捉えるかは個人の自由だが、過去作のような泣きゲーを期待していたプレイヤーは少々引っ掛かるかもしれない。
とは言え感動出来ないという訳では決してなく、現に僕はとあるシーンの一枚絵で恥ずかしげもなく涙を流していた。

シナリオ全体を通じて夏休みという有限な時間に対しての表現力や、ポケットという物を使用した比喩表現も素晴らしく、夏を舞台にしたゲームの中では名作と呼ぶにふさわしい作品であった。
また、『CLANNAD』や『リトバス』はこの手のゲームにしては珍しく女性ユーザーにもファンが多いのが特徴であり、本作もまた女性でも楽しめる内容になっているだろう。

【ゲームシステム】

★★★★★ 5

ジャンルがノベルゲームであるため革新的なシステムこそ無いが、読み進めていく上で必要な機能はほぼ全て搭載していると言ってよく、非常に快適に物語を楽しめる。

また、本作には物語には関与しない「島モンファイト」と「島ポンファイト」というミニゲームが採用されている。

「島モンファイト」は島の中で手に入る島モンを入手してデッキを編成し、島民たちと戦ってランキングを上げていくミニゲームであり、ランキングを制覇した暁にはなんと専用のエンディングが見れる。
ルールやシステムは難しくないが、ポケモンバトルをイメージさせるバトルはかなりの運要素で成り立っており、シャド〇バースのようにどうしようもない時は本当にどうしようもない。
本編とは無関係でありながら、ある程度の周回が必要であったりとそこそこやり込める要素となっており、ハマる人はハマるミニゲームに仕上がっている。

「島ポンファイト」は卓球を題材にしたミニゲームで、こちらも島民たちと卓球勝負をして島を制覇するのが最終目的となる。
リズムゲームが苦手なので僕はほぼ手つかずだが、こちらもミニゲームとして遊ぶ分には遜色ないクオリティに仕上がっており、専用のエンディングも用意されている。

【キャラクター】

★★★★★ 5

美少女ゲームである以上、やはりヒロインたちの存在は非常に重要である。

本作での攻略対象はしろは・蒼・鴎・紬・美希・静久・うみ・識の8人である。
特徴的なのは、本作に登場するヒロインは過去作のキャラに比べるとクセがなく、どのキャラクターを攻略しても愛着が湧きやすくなっているように思う。
かと言って没個性かという訳ではなく、皆それぞれの個性もハッキリと明確であり、どのルートにおいてもしっかりと存在感を放っているのは流石の手腕である。

そして、日常パートにおける賑やかしに欠かせない男友達は、脱衣癖のある良一と卓球馬鹿の天善の二名がおり、主人公と共にふざけまくってくれる。

総じて登場人物たちの持つ、田舎の人間特有の住人性を巧みに表現しているキャラクター描写は素晴らしく、作品への没入度をより高めてくれた。

【音楽】

★★★★★ 5

夏という季節を連想させる曲と聞いて、久石譲氏の「Summer」を思い浮かべる人は多いのではないだろうか。

そして、本作にも聴いただけで夏を感じられる楽曲が存在する。
Sea,You & Me」という、ゲーム開始後すぐに耳にする曲だ。
同じ季節が舞台の『AIR』には「鳥の詩」、「夏影」のように夏を感じさせるキラーチューンがあり、いずれも人気を博しているが、本曲も負けず劣らずのクオリティを誇っていると断言できる。

またヴォーカル曲が多用されているのも特徴で、流れるシーンでは感情を大きく揺り動かされること必至だ。
作品のために書き下ろされた歌詞もまた素晴らしく、本作をプレイした後では意味合いが大きく異なってくる点も見逃せない。
個人的にはとあるシーンで流れた「夜奏花」という楽曲が、今聴いただけでも涙腺が緩むほど強く印象に残っている。

Keyを代表する作曲家・編曲家たちが集って製作された楽曲たちは、ノスタルジーというイメージを大切にしながらも非常に洗練されており、とにかく耳に強く残る。
ちなみに僕はゲームクリア直後にサウンドトラックを注文していた。

【総評】

96点

Key作品をプレイしていたのは今から十数年前のことであり、本作を偶然見かけて十数年振りにプレイした。
学生時代に『Kanon』~『Rewrite』まではプレイしており、大人になってからのプレイは初である。

高校時代では、大して混雑もしない学食に友人と二人であんぱんやカツサンドを買いに走ったり、仲間内でゲーム内のネタを使ってウケを狙いにいったりしていたのが懐かしい。

ゲーム開始前、僕は少し不安だった。
今プレイして楽しめるのか、と。
高校時代――一番楽しくて輝いていた自分の感性を否定される可能性を含んでいたからだ。

結果は杞憂だった。
2023年上半期最後のプレイになった本作が、僕の2023年上半期に遊んだ作品のNO.1になっていた。

本作の純粋な面白さは言わずもがな、やはり昔の自分に戻ったような、もう一度会えたような気がしたのが何よりも嬉しかった。

ゲームクリア後から数日経つが、未だに本作の余韻から僕は抜け出せずにいる。
ここまでの喪失感を抱えたのは、『ゼノブレイド2』以来であった。

そして、何より――

今は無性にスイカバーが食べたい。

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