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【Fundinno案件】グッドラックスリーに投資する前に知っておきたいこと

 株式投資型クラウドファンディングプラットフォームであるFUNDINNOの104号案件グッドラックスリーがtwitter等のSNSで話題になっています。本稿ではFUNDINNOの開示情報をもとに、同社へ投資する際に気を付けておきたいことをメモしました。

1.前々事業年度は債務超過

 「企業のリスク等」に記載のある通り、2018年度8月期決算は債務超過の状況でした。ただし、前期末事業年度ベースでは、債務超過を脱しているようです。

発行者の決算期末(2018年8月31日)における純資産は、△57,728千円と債務超過になっています。また、また、直近試算表(2019年8月31日)における純資産は、6,213千円となっています。なお、直近試算表の額は暫定であり、変更となる可能性があります。今後、売上高が予想通りに推移しない場合、債務超過に陥るリスク及び有利子負債の返済スケジュールに障害が生じるリスクがあります。

 契約締結前交付書面の別紙に詳細な事業計画が記載されています。基本的にFUNDINNOに登録した人しか見ることが出来ないので、ここにはそのまま記載しませんが、前々期が債務超過に陥っている主因として、売上220百万円に対し、売上原価が317百万円かかっており、売上総利益の段階で100百万円近い損失を出していたことが挙げられます。推測するに、ゲームやシステムの受託開発事業が想定維持上にコストがかさんでしまったこと、または今後の事業の中核となるブロックチェーンゲームの開発によるものだと思われます。
 前事業年度は受託開発事業を大幅に減少させた結果、売上原価も減少、一方でブロックチェーンゲームの売上が2倍成長したことで、結果的に売上は微増、費用は逓減しましたが、まだ赤字の状態です。(なお、人件費も減少しているので、リストラも行った可能性もあります)
 赤字自体はベンチャーにとって珍しくないのですが、手元のキャッシュが2019年8月末時点で31百万円しかないので、この規模で毎月の支払いを考慮すると、かなりギリギリな状態であり、資金調達は必須の状況と言えます。

2.取りうる資金調達オプション

 債務超過はぎりぎり脱したものの、営業赤字の状態であり、取りうる資金調達の選択肢は限られてくると思われます。直近で有利子負債は122百万円ありますが、追加の借入は営業赤字ということもあり、大きな金額は難しいと考えられます。仮に借入を実行できたとしても、担保を要求されるする可能性が高く、また多額の調達できない可能性が高いと思われます。

 借入が難しい場合は、他のオプションとして増資が考えられますが、代表取締役社長である井上氏の持分比率が現状で40%強であることから、増資による持分希薄化が懸念されます(バリュエーションと調達金額にもよります)特に持分比率が1/3(約33%)を下回ると、会社法上単独で拒否権※を発動できなくなるので、1/3を下回る増資は少なくともIPO直前でない限りは、するべきではないと言えます(同社は2023年のIPOを予定)今回のプレバリュー32億であれば、1/3を下回らない程度で数億円程度はVC等から調達できるかとは思いますが、おそらくIPOまでに何回か調達を行う必要があると考えられます。そうなると、次回以降の増資では確実に1/3を下回る可能性があり、増資オプションが実質取れない状況になってしまう可能性があります。

※拒否権:特別決議の決議された議案を拒否できる権利。経営者、もしくは経営陣の持分が1/3を超えているかどうかは資本政策上非常に重要と考えられている。


3.資金調達の目的

 今回のFUNDINNOによる調達金額は600万円、プレバリューが32億円のため、社長持分比率の希薄化は軽微と言えます。この規模の会社で少額の増資は、珍しい印象です。ところで、今回の資金調達の目的は、IEO(Initial Exchange Offering)の費用に充てるとのことです。このIEOというのは、ブロックチェーンプロジェクトの発行するトークンを、仮想通貨取引所が先行販売するサービスで、ICO(Initial Coin Offering)が規制により日本では実質できなくなった後にでてきた資金調達方法です。ICOと異なり発行主体が明確に存在し、販売する取引所が責任を負います。

 IEOによる資金調達がどのような会計処理になるかはまだ議論されてないと思われますが、おそらくICOに準じた処理になるとすれば、負債か収益になり、資本にはならないと考えられます。負債か収益で計上できれば、経営者の持分の希薄化は起こりません。

 以上から考えると、今回のFUNDINNOによる資金調達は、金融機関からの借入やVCからの増資といった伝統的な資金調達方法が取りづらい同社が、新しい資金調達方法であるIEOでの調達を行うための、いわば「つなぎ」の資金調達ではないかと思われます。

4.バリュエーション

 今回の調達のプレバリューは32億円と、債務超過をギリギリ脱した会社としては、異例の高さと言えるかもしれません。ただしここで留意しなければならないのは、バリュエーションは過去の数値をもとに計算されるわけではなく、将来の事業からのキャッシュフローを元に算出されます。同社は受託開発中心の会社からブロックチェーンゲームへの会社へとビジネスをピボットしている最中であり(事業計画では、将来の売上の大半をブロックチェーンゲームが占めています)、この高いバリュエーションはそれを反映していいます。

 ブロックチェーンゲームを行っているような類似の上場企業がないので、おそらくバリュエーションはDCF(Discount Cash Flow)法で行われたのではないかと思われます。事業計画は4年先の2023年まで開示されていますが、2023年時点の売上は976百万円、純利益は143百万円であり、同規模のITセクターの上場会社と比較して、プレバリュー32億円は少し高いのではとは感じるものの、ありえなくもないなという印象です。逆に言えば、それほど同社の事業の将来性、革新性が高いと考えられている証左と言えるのかもしれません。

※本稿はあくまでFUNDINNOの開示資料から読み取れる内容を筆者が独断と偏見で考察したものであり、同社への投資を推奨または勧誘するもので合はありません。


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