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364 喜の章(28) 5月28日から31日

88日目:2020年5月28日(木)
全国の感染者数  62人
十海県の感染者数  1人

「用事」を2件入れた彼女が、10時頃に出かけた。成り行き次第で夕食もすませてくるとのこと。

 さあ、どうする。11万のマイナスを取り戻すには、10万円投入だと倍以上の配当が必要になる。待てよ、20万投入すれば。1.5倍か1.6倍で取り返すことができる。これならハードルが低くなる。

 今日も昼間は浦和、名古屋、園田で開催。1万円ずつ20レースに投票することにする。オッズを見て馬券を選ぶ。いくら意識すればいいか、ということは、だんだんわけが分からなくなってきた...

 ...気が付いたら昼食もとらないで熱中していた。本日の結果。20万円投入して回収できたのは昨日より少ない1万5400円。預金残高は最初71万あったのが30万ほど減って42万弱になった。

 彼女から「夕飯食べて帰る」とLINEがあった。どこか自棄食いにでも出かけたいところだけれど、ジャーに残っていたご飯を丼に全部つめこんで、お湯を沸かしてお茶漬け海苔を2袋ぶっかけて、一気にかっ込んだ。

89日目:2020年5月29日(金)
全国の感染者数  63人
十海県の感染者数  0人

 バイトから帰ってきた彼女がボクに言う。
「大丈夫? 目が血走ってない?」
 ああ、マンガに夢中になって、目が疲れてるのかもしれない。

 今日も午後から彼女は「用事」。
「単価が下がってるから、量をこなさなくちゃ、だね」
 ボクはといえば、要回収額が増えているから投入量を増やしている、という状態になっている。

 今日はレースがない。落ち着いて冷静に考えなきゃいけないんだろうけれど、最初に1000円だけ買って19.8倍になったときや、土曜日に総額5万円投入して12万以上のリターンになったときの快感が蘇ってくる。4日連続して負けているということは、そろそろツキが回ってくる頃だ。やはり、競馬の負けは競馬の勝ちで取り戻すのが筋だろう。

 夕方になって天満宮にお詣り。スーパーでお惣菜を買って店を出ようとしたら、雨が降ってきた。傘がない。「冷静になれ」というお告げ? いや、「恵みの雨」と考えよう。小雨の中、足早に部屋へと戻る。

90日目:2020年5月30日(土)
全国の感染者数  46人
十海県の感染者数  0人

 朝から競馬にとりかかる。なんとかしないと、なんとかしないと...心の中でそう呟きながら。
 今日はJRAが東京と京都。地方競馬は昼間は佐賀だけ。中央競馬のレースが中心となる。

 バイトから帰ってきた彼女の、「ただいま」という言葉にも気付かなかった。
「マンガに夢中もいいけれど、ちゃんとご飯は食べようよ」
 そう彼女に大きな声で言われて、やっとスマホの画面から顔を上げた。

 食事もそこそこに、競馬に戻る。

「用事」に出かける彼女が言う。
「ねえ。大丈夫? なんか顔色悪いよ」
 う、うん。大丈夫
「心配事とかあったら、言ってね」
 ...わかった、ありがとう。

 結果。無我夢中で19万円投入して、3万2300円回収。預金残高約26万円。
 ああ、なんで最初に1000円じゃなくて10万円賭けなかったんだろう。そうすれば198万円...

 夕食をすませてくる、と彼女からLINE。
 ボクは何も食べずに、布団を敷いて寝る。「ふて寝」というよりは、起きていることが辛くて、逃避しようとしたというのが事実。

91日目:2020年5月31日(日)
全国の感染者数  33人
十海県の感染者数  0人

 昨日早く寝てしまったからか、早朝に目が覚めた。窓を開く。曇り。

 彼女が起きてきたころには、ボクはもう競馬を始めていた。今日はJRAが昨日に続き東京と京都。昼間の地方競馬は佐賀と盛岡。G1レースの日本ダービーが開催される。競馬のことはほとんど知らなかったけれど、このレースのことは知っていた。

 洗濯機を回し、乾燥までかける彼女。
「キミは洗濯はしないの? そっか、今日は雨降るんだし」

 具沢山の味噌汁と目玉焼きの和風ブランチ。ほとんどランチの時間になっていた。
 昨日夕飯抜きなので、さすがに食欲はある。ご飯を2回お代わり。
「食欲はあるようだね」
 彼女がボクの目をのぞき込むようにして言う。
 うん...そ、そうだね。

「スーパーに買い物に行くけど、一緒に行く?」
 ...ごめん。ちょっと。
「わかった。なにか買ってくるものある?」
 いや、特に。

 レースを追うごとに、オッズの高い馬券を選んで買うようになる。取り返さなくちゃ、取り返さなくちゃ...

 ...本日の結果。24万円を投入して回収は...総額7400円。国民年金が引き落とされたので、預金残高は1万円を切った...

 野菜炒めの夕餉の席で、ボクは彼女に言う。
 あの...心配事あったら言って、って言ってくれたよね。
「うん。言ったけど」
 心配事、聞いてくれるかな?
「いいよ。どんなこと?」

 来月...スマホ代が、落ちなくなった。
 

<喜の章 おわり>


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