コロナウィルス分類の基本情報

 報道を正しく受け取り、検証するための一助として。

 コロナウィルスは、ほかのウィルス同様に様々な変異を遂げながら世界への拡大を見せている。
 変異株の種類が増えるとともに、これらの分類や呼称について、「パンゴ命名法」という方法が開発された。この方法を使うと、発見されたコロナウィルスが既知のものであるかを簡単に識別できるという。この分類に従って、WHOでもギリシャ文字を付した名称が使われるようになった。
 WHOでは更に「懸念される変異株」「注目すべき変異株」など、その株の危険性を分類し発表している。
 しかし報道やニュースを見ていても、そうした基本情報にいまさら立ち返ることはない。これが本や論文であれば、ページに付箋をはることでいつでも見返せるのだが。
 そこでここに、メモ書き代わりに一覧を表記する。


WHOによる危険度分類

VOC Variant of Concern 以下★でマーク
「懸念される変異株」
 次の少なくとも一つ以上に関連性のある変異株。
1.COVID-19疫学における伝染性の増加または有害な変化
2.病原性の増加または臨床患の症状の変化
3.公衆衛生および社会的措置または利用可能な診断、ワクチン、治療法の有効性の低下
 現在α、β、γ、δ、οが指定。

VOI Variant of interest ☆でマーク
「注目すべき変異株」
1.基準株と比較し感染性、病原性等への影響が疑われる変異体
2.クラスターや地域感染を引き起こし、複数の国で検出される
 現在λ、μが指定。

VUM Variant under Monitoring 〇でマーク
「監視中の変異株」
 ウイルスの特徴に変化を起こすと疑われる変異を有する変異体で、新しい証拠が出るまでは監視を強化し、評価を続けてゆく必要がある。
 現在η、ι、κが指定。

Formerly monitored variants マークなし
「以前監視された変異株」次の基準に基づいて再分類された旧VOC/VOI/VUM(子孫系統を含む)
1.公衆衛生上重要なレベルの世界的流行がなくなった
2.変異株が長期間流行しても疫学状況にいかなる影響も与えない
3.科学的証拠が変異株が関連する特性との関連性がないことを示している
 現在ε、ζ、θが指定。


ギリシャ文字によるパンゴ命名

α アルファ  B.1.1.7株。英で最初に検出★
β ベータ   B.1.351株。南アで最初に検出★
γ ガンマ   P.1株。ブラジルで最初に検出★
δ デルタ   B.1.617.2株。印で最初に検出★
ε イプシロン B.1.4271/B.1.429株。米で最初に検出
ζ ゼータ   P.2株。ブラジルで最初に検出
η イータ   B.1.525株。複数国で最初に検出〇
θ シータ   P.3株。フィリピンで最初に検出
ι イオタ   B.1.526株。米で最初に検出〇
κ カッパ   B.1.617.1株。印で最初に検出〇
λ ラムダ   C.37株。ペルーで最初に検出☆
μ ミュー   B.1.621株。コロンビアで最初に検出☆
ν ニュー 「New」との混同を避けるため使用されず?
ξ クサイ 「Xi」の英表記が中国人名の「習」と同じのため?
ο オミクロン B.1.1.529株。南アで最初に検出★

π パイ /ρ ロー /σ シグマ /τ τ /υ ウプシロン /φ ファイ /χ カイ /ψ プサイ /ω オメガ 未使用

 ちなみに、「ミュー」「クサイ」の2種についてWHOは使用しなかった理由を公表していない。これについてはSNS等で、上記一覧に書いたような理由が存在するのではないかという憶測がある。


注意書き

 社会で生きるうえで、こうした情報は「皆当たり前に知っている」前提となっている。ゆえにいまさら見返そうとしても、表記しているページが見つかりにくい。
 またスペースなどの問題で、条件の抜き書きなどをする場合もある。これは特にテレビや新聞など、スペースに制約がある場合気を付けなければならないほか、書籍では行われないという保証もないのが実情だ。
 受け取った情報を精査し、自分で考えるためのツールとして、このメモ書きを記した。
 各変異株が最初に検出された国については、初期の報道等に当たる際に必要になる可能性があるので一応付したが、それ自体には何の意味もない。「見つかったけど黙っていた」可能性もあり、たまたまその場所で発見されただけなのだ。そういう意味では「検出された国からのアクセスを一括禁止」という方法がどの程度の実効性を上げるのか、つねに注意しなければならない。同時に最初に声を上げた国が不必要に不当な扱いを受けないよう、様々な手法や救済策を模索するのが必要であろう。
 各変異株のパンゴ命名を「煽るためにつけたのでは」という風説もあるらしい。これについては別の場所で見つかる各ウイルスの識別に使うため、この風説はあたらないと考えている。「ならばその情報は研究者内にとどめ、一般には識別記号を使用する必要はないのでは」ともあるが、そうなると新規株が見つかった際も「ほかの場所で見つかっているものを、煽るために別カウントしている」等の解釈を生みかねない。やはりこの分類は賢い方法だと感じている。
 我々は常に試されている。さらに踏み込んだ情報がリリースされた際こそ、一度初期情報に立ち返り調べなおしてみる「情報リテラシー」が問われる瞬間である。こうした力は義務教育で学ぶ事物のようなもので、しっかり身に着け、常に研鑽していかなくてはならない。
 鎌倉時代は1192年からではない。新しい情報を求めていく姿勢は、社会人になってこそ問われるのだ。


2021/12/01参照

 本当は公的機関の情報のみを参照したかったのだが、公的機関が公表していない情報について加筆したかったため、できるだけ注意したつもりである。
cov-lineages.org
東京都健康安全研究センター「世界の新型コロナウイルス変異株の発生状況(11月29日更新)WHOがオミクロン株をVOCに指定」
厚生労働省検疫所「新型コロナウィルス感染症の世界の状況報告 2021.6.15」
朝日新聞GLOBE+「新変異株はオミクロン株、ニューとクサイが飛ばされた理由は? 南アフリカなどで拡大 2021.11.27」