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アトランタの闇

今年ももう終わるというのに、仕事終わりに1人でバーへ寄りビールを喉に流し込んでいる。今年もクソみたいな1年だったと心の中で毒づく。バーには俺とおっさんが1人。
おっさんも疲れ果てた顔をしていた。
「俺の中ではまだ1年は終わってないんだよな」
唐突にそのおっさんに話しかけられた。どこか見覚えのある顔だ。
「ストーブリーグはまだ始まってねぇ…」
ボソッと呟いた。このおっさんが誰だか思い出した。MLBの選手たちに嫌われている。ジョン・ヘイマンだった。
「ショーン・マーフィーの奴隷契約、驚いただろ」
「あぁ催眠術にでもかけられたか、アンソポロスに弱みでも握られてるかと思ったよww」
「そう思うよな。俺もそう思ったから、裏があると思って盗聴器も仕掛けた」
こいつ何言ってるんだ?盗聴器?冗談だよな?
「冗談だろ?っていう顔してるな、実際はそんな単純な話じゃねぇ、もっと闇の深い話だ。この真実を知ったやつは、消される。俺ももう老いぼれだ。ここで愚痴って天国に行くさ」残ったビールを飲み干して、ヘイマンは俺に語り始めた。
元々、MLBの記者というものは表向きの顔だった。実際は業界に潜り込み、年々インフレが続くMLBで、選手達を異常な安さでエクステンションするアトランタブレーブスの裏を暴くための潜入捜査官だと語った。
この話を信じて良いのか迷ったが、空気の読めないツイート、選手からの嫌われっぷりを見ると、疑われないための演技だったことが証拠になると納得した。
はじめはアンソポロスが選手たちの弱みを握って、契約を成立させているという説を立証するため、彼の携帯や自宅に盗聴器を仕掛けたが、結果はハズレ。聞こえてくるのは女性へのセクハラ発言。やる気のない愚痴。典型的なWindows2000おじさんだった。幻滅した。
その他にもブレーブスの選手に盗聴器を仕掛け調査すると、アクーニャjrが友人に、
「あんな目には二度と会いたくねぇぜメ~ン、まぁ今じゃ一生困らないくらいのお金をメイクマニーしてるからいいけどメ~ン、まさかあいつがまだあそこで働いてたとは驚きだぜメ~ン」
と発言している音声を入手した。
「アクーニャが言っているあいつっていうのは、誰だと思う?」酒臭い匂いを発しながら聞くヘイマン。
「コッポレラはまだいる…」
ん?今コッポレラって言ったか?
アトランタといえばそもそも治安の悪い町で有名だが、その中でもオークランドシティの古びたアパートの1室がコッポレラの仕事場だった。そもそも市民が近寄らない場所なのだから見つからないわけだ。
ブレーブスでは契約が無効になったINFA選手13人は誰もモノにはならなかったが(おっと失礼、まだ1人オークランドに逸材がいたな)、人を脅す仕事は得意だったようだ。
試合終わり、契約延長を計画している該当選手は、ホームでの試合が終わり自宅へと帰る際、監督室へ呼ぶ、もちろん監督室には誰もいない。そこで拘束されシボレーのデカいバン(よく映画で見るだろ?)に載せられ仕事場に連れてくる。人間は命の危険や家族を人質に取られたらすぐに相手の要求を飲んでしまう。激しい競争を常に意識し結果を求められる厳しい世界でプレーする選手たちも、
捕まったスパイのように拷問を我慢することは出来ない。爪を剥がす前にすべての選手が要求に答えた。
以上が事の真相だが、ということはアンソポロスとコッポレラは繋がっているということか?いやその裏には黒幕がいる。もちろん相場よりも大幅に安い契約を締結したら、皆がどんな手法で交渉したのか疑うだろう。その情報を遮断させるためにアンソポロスは、MLBのトップであるマンフレッドにプレゼントを定期的に送り続けた。
そしてその情報をちょっとしたキッカケで知ってしまったある選手は美人局に騙され、ことを済ませたあと強姦で訴えられた。その後異常な長さの出場停止試合数を課され、業界からほぼ干された。すべてが仕組まれていたのである。
「色々喋り過ぎちまったなぁガハハハ」
確かに彼はツイッター上だけでなく、リアルでも喋りすぎてしまうらしい。
「もう犯人は分かったんだから、MLBの記者はやめてもいいだろ?」と聞くと、
「いや、俺も潜入する前はそう思っていたが、やってみるとみんなより先にトレードの情報や契約の内容を知れる。こりゃ一種の中毒だ。ツイートしたら大量のファボとリツイート。承認欲が簡単に満たされるわけよ。もう辞められないな」
適当にその後会話して、俺はバーを出た。外は雪が降っていた。アトランタの冬は寒い。年末にとんでもないことを聞かされたが、この話を新聞社に売ったら高くつくだろう。ヘイマンはこの先長くない。
Newyorkpostのスポーツ部門へ凍えた手で電話をかけた。

To be continued.
(この話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)



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