トヨタ会長と小泉環境大臣の論点

「全てEVは誤り」トヨタは一貫してこの主張を貫いてきた。ハイブリットが最適解であるとの主張だ。そしてこの認識は、現時点で正しい。

各国が脱炭素社会に向け動く中、トヨタ会長は9/9に会見で、“「800万台以上の生産台数が失われる」と強調。「輸出で成り立っている日本にとって、カーボンニュートラルは雇用問題であるということは忘れてはいけない」とした。豊田氏は自民党総裁選にも触れ、「一部の政治家からは、全てEVにすればよいんだとか、製造業は時代遅れだ、という声を聞くことがあるが、違うと思う」と牽制(けんせい)した”(上記記事抜粋)。

また日本は、すでに2000年比で炭素排出量が23%削減(自動車業界内)しており、各国と比較して十分な水準にあるとの主張だ。
同会長は別の機会にも、仮に全てEVに切り替えたとして、その電力はどこから来るのか?原子力発電が使えない今、その全てを火力発電に頼るとするならば、逆に炭素排出量が増えてしまう。これは本末転倒では無いのか?と指摘している。極めて冷静な、科学的エビデンスに基づいた議論だ。

同会長はさらに、EVにすれば、国内の雇用の実に8.1%を占める自動車業界の労働人口542万人(出典:経済産業省)のうち、多くを失うことになるとの主張。
これは重要な論点でもあり、政府への冷静な脅しとも取れる。

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/jidosha_wg/pdf/2020_001_04_01.pdf


他方、小泉環境大臣の主張は、EVにすることで逆に雇用が増えるとの主張。

“小泉環境大臣は「全てを電気自動車にと言っている政治家はいない」と反論したうえで、「カーボンニュートラル政策を進めることで新たな産業や雇用もうまれる」と理解を求め”た(9/10 19:22配信のTBS NEWSより一部抜粋。下記はそのソース記事。)

https://news.yahoo.co.jp/articles/8167ab060ed0e57591bdc747b0a8a4a551ae40ea

同大臣の意見は日本の自動車社会の未来を語る上で傾聴に値すると思う一方で、その具体的な雇用効果と、根拠に足る資料の提示を求めたい。政治家は実務家では無く、あくまで未来を語るものと思うので、同大臣の同政策を支持する官民の方々は是非この論拠を示した方が良い。やった後で“やっぱり日本の経済がめちゃくちゃになりました!”では目も当てられない。少なくとも画を描いて、冷静な議論をした上で無ければ納得も何もない。
同大臣のこれまでの言動から、後先考えずに拙い議論をしているように見受けられる(実際は知らないが)ため、これまでの自身の言動を振り返り、根拠がある上での発言と期待している。

確かに歴史的に見れば、技術革新等により、これまでの雇用が失われる一方で、新たな雇用が生まれ、またその雇用の方が環境・待遇が良いと言う現象は発生してきた。それがこのEV切り替えでも起こるのか、は誰にもわからないし、これからの企業の努力によるものとしか言いようがない。

トヨタ会長の発言に難癖をつけるとするならば、政府はあくまで日本全体の経済に目を配れば良いのであって、自動車村の景気だけに目を配ることはしないだろう。

また、これも冷静な議論と試算が必要だが、生産台数のポートフォリオのうち、EVの比率が上がっていけば一定数雇用が減るとして、売り上げが横ばいないし増えるとするならば、逆に人件費が足りない分コストは下がり、利益は増えるのではないだろうか?だとすれば自動車メーカーにとってもメリットがあることであろう。

企業は人なり、人は財産とも言えるが、その人を食わせていかねばならないのも企業の宿命。

ぜひ両者には、互いの夢と情熱に冷静な議論をし、日本、いや世界の自動車社会の未来を創っていってほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?