雨上ガール【MSS】
雨が降ってきた。
僕は下校途中。傘はない。
慌てて、バスの停留所に駆け込む。
田んぼのカエルは、ゲコゲコ嬉しそう。
雨を飲み過ぎて、下戸下戸かも、なんて。
なかなか、止まなそうな雨。
停留所の時計を見ると、バスも当分、来ない。
7月だっていうのに、少し寒いくらい。
冷たい雨だなぁ。
『雨って、いいよね』
「えっ?」
驚いて、横を見ると高校生くらいの女の子がいた。
いつの間に?
この辺りでは、見かけない制服だ。
「い、嫌だよ。濡れるし、冷たいし、風邪をひいたらお母さんに怒られるし」
退屈な雨宿り。
少しだけ、話してみようと思った。
『怒られることばかり気にしていたら、何もできないじゃん! 楽しいことは意外とその外にあるんだよ』
そう言うと、女の子は外へ飛び出した。
いつの間にか手には、釣竿を持っている。
道路を挟んで、向かい側の田んぼに釣糸を垂らしている。
カエル釣り?
もう女の子の制服はびしょ濡れだ。
『あっ、かかった! これは大物! ちょっと、ぼさっと見てないで、手伝いなさいよ!』
女の子が僕に向かって、叫んでいる。
停留所の屋根を叩く雨音。
女の子を見ると、田んぼのほうへと引っ張られていた。
もう、どうにでもなれ!と僕は雨の中に飛び出した。
うげぇ……冷たい……気持ち悪い。
道路を渡る。
女の子の持つ釣竿は強くしなっていて、ぴんと張った釣糸の先に大きな魚影が見えた。
『これ、持って! 私が後ろから支えるから』
釣竿を持つと、すごい勢いで引っ張られて、田んぼに落ちそうになった。女の子が後ろから釣竿をつかむ。
『せーの、で引っ張り上げるよ。せーの!』
合図とともに体重を後ろにかけると、大きくて泥んこの魚が田んぼから飛び出した!
僕らは驚いて、田んぼの土手にひっくり返った。
泥んこの魚は雨で体を洗いながら、反対側の田んぼに落っこちていく。
それは、大きな大きなドジョウだった。
ばっしゃーん!
『あぁ、逃がしたドジョウは大きかった! でも、この土地の土壌が良い証拠だね』
「この田んぼに住んでいるドジョウなの?」
『そう、この土地にずっと昔からね。雨は、土や草木や花を育てるの。あのドジョウはここの主かもね』
停留所に戻ると、女の子はどこからかタオルを取り出して、僕の髪の毛を拭いてくれた。
タオルに顔を埋めるとお日さまの匂いがして、とても暖かくて、不思議と体も温まった。
『雨遊びしたら、お腹も空いたね。これ、食べなよ』
今度は、アイスバー。
本当に、魔法使いみたいだ。
「ねぇ、お姉さん」
『恵でいいよ』
「じゃあ……恵さんは、どんな人がタイプなの?」
あれ? なんでこんな質問をしたんだろう?
『あはは。何それ? でも、そうだなぁ。雨の日も楽しめる人かな』
恵さんと目が合って、思わずアイスバーをかじる。
『雨の日は悲しくなることもあるけど、それでも必要だからね』
しばらく、雨の音を二人で聞いていた。
アイスバーを食べていると、棒の部分に『当たり』と見えた。
「やった! 当たりだよ! もう一本……」
興奮しながら横を見ると、恵さんはいなかった。
雨はいつの間にか止んでいた。
最後の一口をかじる。
あっ、『当たり』じゃない。
『陽当たり』だ。
次の瞬間、眩しい光に、僕は目を瞑った。
さっきまで隠れていた太陽が顔を出した。
キラキラと光を反射させて、さっきまで冷たくて暗かった景色を暖めていく。
「わぁあ……」
そして、僕は空に見つけたんだ。
恵さんがくれたアイスバーと同じ色をした虹を。
「大きくて、もったいなくて食べられないや」
青く、晴れた空。
僕の顔だけ少し雨降りだけど、きっと僕を育てるために必要な雨なんだ。
(了)
はじめまして!
そるとばたあ@ことばの遊び人です。
ことば遊びと音楽を愛するショートショート書きです。
noteでは、ショートショートを中心に読者の方が楽しめるお話を書いていきたいですが、
まず、やりたいことがMSS(ミュージックショートショート)です!
音楽から、音や言葉から感じたことを物語にしていきたいです。
今回のお話は、
SEKAI NO OWARIの『RAIN』から想像して、広がったお話でした!
物語単体はもちろん、ひとつの楽しみ方として、物語とともに曲も楽しんでいただけたらなと思います!&
文章や物語ならではの、エンターテインメントに挑戦しています! 読んだ方をとにかくワクワクさせる言葉や、表現を探しています!