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消えゆくフィルム写真の世界 第2回


消えてゆくフィルムたち

 フィルムもいつまでもあるわけではありません。Fujifilmはまだ当分生産を続けてくれそうですが、製品の一部は統廃合し、種類自体は減っています。海外の小さなメーカに至っては気づけばひとつ潰れ、ふたつ潰れ、あるいは潰れたというデマがとびまわり、世界のフィルム愛好家たちもいつ自分の好きなフィルムが消えてしまうのかと戦々恐々としている――それが今のフィルム写真の世界です。

 再びフィルム写真が興隆することはないのかもしれません。プロの写真家の多くがデジタルへ移行してしまったというのはつまり、フィルム写真の時代は終わったということを意味しています。それでも私達はフィルム写真が好きです。不安と期待を胸に一枚ずつ写真を撮り、今回はどうなるだろうとわくわくしながら現像ができあがるのを待ち、そして出来上がりに一喜一憂するフィルム写真愛好家なのです。フィルム写真がこの世から完全に消え去るまで、その楽しみを忘れずにいたい。そして、この楽しみを誰かに伝えたい。

 という思いをこめ、今回も記事を書きました。

 さて、昨日はフィルムカメラとフィルムにたくさんの種類があるよという話をしましたが、今日はたくさんあるそれらの中から幾つか特徴的なものをピックアップしていきたいと思います。フィルム写真を初めて最初にぶつかる壁は、どのフィルムを選ぶべきか。店頭には安いフィルムから高いフィルムまで数多く並んでいます。もちろんサンプル写真が掲げられていたり、比較表があったりもしますが、どれが一番使いやすいのか、実際のところ初心者が撮ってどんな風になるのか。悩みはつきないものです。
 そんな迷えるひとびとのために、画像をもっとも左右するフィルムの紹介をしたいと思います。

 ……と一口に言ってもそのフィルムには本当に無数の種類があるので、本日はカラーフィルム紹介です。

紹介するフィルム

・Fujifilm Pro400H
・Kodac SuperGold400
・Kodac PORTRA160VC
・Fujiflm Provia
・Fujifilm Velvia
・ロモグラフィー X-Slide 200
・ロモグラフィー X Tungsten
・Rollei Digibase200

ネガフィルム

 手軽に手にはいり、手軽に試すことのできるネガフィルム。種類も豊富です。販売元はFujifilmとKodacがほとんどですが、海外メーカのフィルムや逆輸入版、トイカメラ用フィルムとして変わったものもあるので、見つけたら試してみるというのもひとつの愉しみ方かもしれませんね。

○Fujifilm Pro400H

(海外販売のみを行っていた頃のPro400H。赤、黄色などが鮮やかに表現されていた)

 いきなりプロユースのフィルムを出してしまいましたが、店頭でも比較的簡単に手に入るとてもいいフィルムです。元々は海外のみで販売していたフィルムですが、去年くらいから日本でも正式に販売されるようになりました。これにともなって日本で販売されていたProfessional 400が生産・販売を終了したため、そちらにいくらかコンフィギュレーションを寄せたのでしょうか、海外逆輸入版の頃と比べて少々写りに特徴がなくなりました。とはいえネガとしては非常に優れたフィルムといえます。

(こちらも海外販売のみのころのPro400H。現在はもう少し落ち着いた表現に)

 公式には色再現が忠実とありますが、全体的に青みがかった色合いになるのが特徴といわれています。とはいえ、上の写真のように赤も綺麗に出すことができるので、ミント調という謳い文句は必ずしも正しくないのではないかな、と私は思います。
 空の青などは特に深みのある色合いになり、これがネガフィルム?と思うこともあるほど。アンダー気味(露光が足りない)と青と紫、緑あたりが少し強めにである辺りはちょっとポジフィルムっぽいですね。ただ、ポジフィルムほどは設定にシビアではないので、ちょっと無理な設定で撮ってみてもそれなりにきれいな画像になると思います。

(自然なコントラスト、階調表現も魅力)

(光が満遍なく当たる曇天下での撮影なら、色再現性は非常に高いがやや寒色の写りに)

 石などの原料、工業製品、工場などを撮った時に特によい描写をします。やや青みがかかっているので日本人の肌は綺麗に表現してくれない可能性はありますが、階調は豊かなので思い切ってデジタル加工で白黒にしてもよいかもしれません。

○Kodac SuperGold 400

(粒状性は粗いにもかかわらず、桃の表面に生える産毛は再現する)

 安いからなのか、当然誰もが使うからなのか、あるいはこれといった特徴がないためなのかあまり評判を聞くことがないKodac SuperGold400。ですが、実はレンズの相性によっては、びっくりするほど美しいイメージを表現することがあります。
 そして本当に使いやすい。残念ながら画質の滑らかさについてはちょっと目を瞑らなければなりませんが、それでもたぶん、とるセッティングによってはほとんど無視出来ます。使い込めば使い込んだだけ自分の道具になる、なのにときどき予想外の驚きをもたらす、それがKodac SuperGold400。
 プロ用として使うには粒状性の点で問題がありますが、趣味の写真家ならこれをベースのフィルムとするのは大いにありです。なんたって安いですしね。

(コントラストは気持ちが良い程度の強さ。階調も滑らかでピントがあっている部分はなぜか粒が気にならない)

 特徴はこれといって特徴がない、というのが特徴です。つぶつぶ感は出やすいですが、だからといって低画質、というわけではない!
 フィルムならではの美しい描写をしてくれます。

 気をつけたいのは露出不足です。ネガの特質上、露出不足だけはどうすることもできません。逆に露出過多であれば、デジタルデータとして取り込んだあとに加工をすることで、フィルムではなかなか出せない色合いを出すこともできます。これは他のネガフィルムでも同様に言えることですが、Super Gold400の場合はとにかく値段が安く、しかもそこそこの画質で映せるので、あえて失敗写真を作った上で編集をするというのも新しい愉しみ方かもしれません。

(露出オーバで失敗した写真もPCに取り込んでガンマ値・明るさを下げればしっかりと細部は残っている)

○Kodac PORTRA160VC

 はじめ、PORTRAはなんとなく好きじゃありませんでした。PORTRAといえば淡い写真、淡い写真といえばトイカメラ…目指すところはトイカメラではない!と思っていたあの頃、PORTRAに手を出すと、なにか負けてしまう気がして近づけませんでした。

でもやっぱり、PORTRAはよいフィルムです。生産は終了し、現在市場に出回っている分がなくなれば販売終了となるPORTRA。日に日に値段があがり、ますます手が出しにくくなっているうえに、撮るたびにこんなフィルムだったっけな?と悩んでしまう、そんな予想外なところがあります。

PORTRAといえば淡く優しい写真、というイメージが非常に強くついてまわっていますが、実際のところ一段か二段絞ると途端に鮮やかな描写をするようになります。ISOが高い方が色みが鮮やかに出るような設計になっているようですが、160でもあらびっくり。とても美しい色が出ます。

面白いのはかなり露出不足ぎみにとった場合。普通ネガフィルムは露出が行われていない部分が現像時に取り除かれるため、露出不足は補正の使用がありません。しかし、三段階から四段階程度アンダーで撮り、デジタルデータとしてPCにとりこんでからガンマ値・コントラストを少し上げると、とたんに深みのある青があらわれるのです。

逆にオーバー気味の写真を少し暗くしてコントラストをあげても、いつもと少し違う青を味わえます。

とはいえ、やっぱりPORTRAらしい淡い色合いも実際に見てみると良いものです。


 食わず嫌いをせず、ぜひ一度試してみてください。

 ちなみにやや鮮やかな表現をすると言われているPORTRA400もついでに紹介します。

(花の色が鮮やかに表現されるが、緑はやや青みが強め)

(階調がよいので、曇空の表情などはさすが綺麗にでます。アンダー気味でやや青が強め)

(少しオーバした写真。シアンが出てしまっている)

 とはいえ、オーバ気味ではとたんにスカスカした画像になるので、やや絞り気味の撮影を心がけるか、あえてオーバで撮り現像後の編集で明るさを落とし、青味を弱めるのがよいかもしれません。


ポジフィルム(リバーサルフィルム)

 店頭価格が高くて手を出しにくい、きちんと設定をしなければならない……などと一見かなり敷居のたかいポジフィルムですが、私は敢えて狂った設定で、気軽な撮影を推奨します。高画質で美しい写真はいまやデジタルにはかないません。しかもデジタル現像で写真の色や印象はいくらでもいじることができます。そんな中でポジフィルムはなにを目指すべきか…

 それは、現像済みのポジフィルムを見たその瞬間。
 それこそがポジの醍醐味であるような気がしてなりません。

○Fujifilm Provia

 オールマイティな描写をするフィルムです。特に青の透明感は美しく、忠実に再現された色に思わず感動することもしばしば。このフィルムはぜひ、中判以上のサイズをつかって、電球の光にかざしてみてほしいですね。プリントやスキャンで上がってくる写真を見ると設定を間違えたかな?と思っても、光にかざすと隅々まで色が乗り、たしかに光を捉えていることに気づくと思います。
 逆光にもつよいので、夕日の撮影などもぜひ恐れずにやってみてください。

(粒状性が非常によく、コントラストも目で見たものに近い)

ただ、予想外な写りになることは多々あり、特におかしな設定ではなかったにもかかわらず赤紫が強めに出ることもあります。また少し露出が足りないか多い場合は赤紫色に、非常に露出が足りない場合は緑が強くでます。

(少し露出オーバの場合。好みの分かれる色合いに)

(露出が足りず、全体的に緑色に)

○Fujiflm Velvia

 Portraに比べ色が鮮やかといわれるVelvia。確かにその通りVelviaは鮮やかな発色をします。でもそれと同じくらい、やわらかな描写もしてくれます。鮮やかでありながら柔らかい。シアンが強いと言われるけれども、設定しだいでは全く現れない。そんなとらえどころのなさがVelviaの魅力なの、かも。


 シアンが強くあらわれる(全体的に赤紫になりやすい)と言われますが、Portraのような写りになることもままあります。特に屋内ではポジの特性からか緑が強く出ます。Velviaは発色がよいので、緑の多い暗い場所は実に色再現性が高いです。

(とはいえ、失敗すると真っ赤っ赤になります)

(シアンフィルターがかかっていると思って除去すれば綺麗な画像が得られます。またくらいところではオレンジフィルターが掛かったようになるので、白黒に変換すると良い場合も)

また特筆すべきは太陽に果敢に立ち向かった時でしょう。

(昔の人には怒られるような撮り方だが、これだけの色変化がありつつきれいなグラデーションが描けるのはVelviaならでは)

(セッティングが完璧であれば、シアンは全く出ず色再現性が忠実だが、どこか懐かしい色合いになる)

 無理をさせればさせるだけ答えてくれる、でもちょっといい加減に扱うとそっぽを向くのがVelviaです。

ネガポジ両用フィルム

○Lomography Slide-X 200
 トイカメラの雄、ロモグラフィーが販売しているクロスプロセス用フィルムです。何も言わずにDPE店にだすとポジとして現像されてしまうので、かなりつよく「ネガで現像してください」または「クロスプロセスで」とお願いしましょう。もちろんポジで現像しても面白いフィルムです。

(ポジとして現像した場合。非常に淡い写りに。さざなみは表現しているので解像度は高い。ちなみに現像したフィルムは黄色いです)

 この写真は少しガンマ値を下げ、コントラストを強めていますが、それだけで緑が鮮やかに出ます。淡すぎる色合いもよいですが、敢えて露出オーバで緑を取り、加工するのもひとつの楽しみ方かもしれません。

 さて、本来の狙い通りネガ現像をした場合も紹介します。
 特徴はやはりクロスプロセスならではのビビッドな色合い、とおもいきや、このフィルムの場合全体的にコントラストが淡いです。そしてネガで現像するととにかく黄色と緑が強い。できれば露出不足気味で撮ったほうが面白い写真になるのではないかと思います。


○Lomography X Tungsten 64

 こちらもロモのクロスプロセス用フィルムですが、日本では未販売です。なんとISOが64しかなく、ほぼ屋外でしか使用できません――とおもいきや、やってみたら案外夜でも使用可能でした。特徴はかなり強く出るシアンとオレンジ。またクロスプロセスならではの醍醐味で、びっくりするほど深い青が出ます。また設定によっては柔らかい黄色を出すこともできます。X-Slideに比べるとかなりコントラストが強く、階調もおおざっぱ、という印象が強いですが、光の加減によっては柔らかい表現もしてくれるようです。

(強く光があたった部分は特徴的な黄色・オレンジなどが出る)

(空の青は淡い場合も。黄緑などはほとんど黄色になってしまう)

(絞ると途端にびっくりするほど鮮やかな青が出現)

(夜間の撮影も可能だが、明るい部分が張り付いたような描写になる)

 海外でもし見つけた場合はぜひ手にしたい一本です。


○Rollei Digibase200

 LomographyのXシリーズ同様、ネガポジ兼用のフィルムですが、ロモのものに比べると粒状性がよく、画質は綺麗です。一般の店舗では販売していないので手に入りにくいですが、現像はどこのお店でもやってくれるのではないかと思います。

 希少フィルムのため、残念ながらネガで現像したものしか所有していませんが、ひとまず作例です。

 粒状性は非常によく、画質は綺麗です。椅子をみるとわかりますが、表面の革の質感がよく表現されています。階調が高いため、影のコントラスト変化も綺麗ですね。


 露出不足の場合、色は青が強めに出る傾向があります。


 逆に露出方の場合、ただただ淡くなります。このような場合はデジタルデータとして取り込んでガンマ値を下げたり明るさをいじれば色が再現できます。

 ポジで現像した場合は赤が強めに出るという話を聞いていますが、たぶんきっと期待を裏切らない出来上がりになるのでは?という予感をさせるフィルムです。見つけたらぜひ二本手に入れて、どちらも試してみてくださいね。


 非常に長い記事になってしまいましたが、気になったところだけでも呼んでいただければ幸いです。次回は白黒フィルム特集!なんと幻の白黒ポジフィルムを手に入れることができたので(と言っても現像は国内でできないため、海外発送です)、それができ次第次回記事をかきたいと思います。ちょっと間が空きますが、あまりにも開く場合はランニングコストなどについて書く、かも。どうぞお楽しみに。


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