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消えゆくフィルム写真の世界 第三回


 次回は白黒フィルムの違いを紹介するという予告をしましたが、白黒ポジフィルムの撮影・現像にはまだ時間がかかる見込みです。というわけで、今回はよく寄せられる疑問、「フィルムってお金がかかるんでしょう?」の真偽を解明していきたいとおもいます。


フィルムってお金がかかるの?

(Diana Mini、をPentax SP2で撮影。Diana MiniよりPentax SP2の方が安かった)

 個人的な意見では、初期投資に関しては完全にNOです。しかしその後に関しては、「人による」というのが正直なところ。なお、写真術をしっかり勉強したい人にはもちろんデジタルカメラをおすすめします。

 フィルムは撮ってすぐに確認ができません。写真を上手に撮るには、撮ったら記憶が薄れないうちにレビューをして癖を直し、また撮るというサイクルを出来るだけたくさん行うのが大事です。この点、フィルムはその一サイクルが長くなる傾向があり、学習には向いていないのです。写真がうまくなりたいという志のある方はまずデジタルカメラで気が済むまで撮ったほうがよいでしょう。

 ある程度デジタルでかっちりとした写真は撮れるが、撮る楽しみを思い出したい、じっくり対象に向き合って一枚ずつ噛み締めるように撮りたい。そんな思いを抱くようになったら、フィルム写真に手を出してみる。フィルム写真との付き合いはそのくらいのペースがちょうどいいのかもしれません。


初期投資にかかるお金

 フィルムカメラは現在ほとんど生産されていないので、購入するなら中古市場を探すほかありません。もちろんライカのような何年たっても価格が変わらない……どころか年々上がっていく奇特なカメラもありますが、多くのカメラは数年で価値が下がり、その後は壊れている部分が出るたびに少しずつ値段が差し引かれていくものです。

 したがって、ボディを安価で手に入れ使い倒す、というのもおおいに「アリ」なのです。

(左は4000円で手に入れたPentax SP2完動品。右は6000円で手に入れた同機種。購入時から露出計は動かず。SP2は大ベストセラーPentax SPの復刻版だ)

 相場感をざっと並べると、

・ライカ
   十数万円から
・ニコン・キヤノンなどの有名ブランド一眼レフ・レンジファインダー
   数万から(ただし九十年代後半発売製品に関しては数千円から)
・コニカ・オリンパス・ペンタックスなどの廉価一眼レフ・レンジファインダー
   数千から一万円未満(ジャンクは数百円だが使えないものが多い)

二眼レフなら、
・ローライフレックス
    約十万円から
・露出計を落としたローライコード
    2~6万円くらい
・リコーフレックスなどの日本製二眼レフ
    五千円程度から
・シーガル
    数千円から

中判では、
・ハッセルブラッド
    十数万円から
・マミヤ
    数万から

 というところでしょうか。それ以外の古いカメラについては店頭で見て価格調査をするのが一番です。

 以上の通り、手軽に始めるならトイカメラとさして値段の変わらない廉価一眼レフ・廉価レンジファインダー・廉価二眼レフでしょう。廉価用レンズは中古で出回っている品数が多く、値段も安いので、レンズを含め一万円以内で揃えることが可能です。デジタルカメラであればミラーレス一眼でさえ数万円以上であることを考えると、いかに初期投資が安くすむかということをお分かりいただけるかと思います。

(Pentax SP2, SMC Takumar 55mm f1.8, NEOPAN SS100での撮影)

 もちろん、高いフィルムカメラには高いだけの理由があります。完動品、新中古品、希少品、有名ブランド、名機――きちんと動く機材を使えば撮影失敗のリスクは下がり、撮影も気持ちよく行えるでしょう。あるいはマウントが何十年も変わらないライカやニコンであれば、新しいレンズを使用することも可能なので、ぐっと撮影の幅が広がります。それ以外の名機とよばれるカメラも、ユーザビリティがよく考えられていて、撮る楽しさを味わえることでしょう。
 かといって廉価カメラが悪いかというと、必ずしもそうではありません。手に入れやすさ、掘り出し物を探す楽しさ、時々うまく動かないカメラの機嫌を取るうちになんとなく愛着が湧いてくる――

 そんなふうにフィルムカメラにはいろいろな観点からの評価の仕方があり、これを買えば正解、といえるものはなにもありません。それがフィルムカメラなのです。


 結局、大切なのはそのカメラが好きかどうか、手に馴染むかどうかなのかもしれません。できれば一度手にとって自分が扱えそうか、どこか気にいる部分があるかなどをじっくり見極めていただければと思います。もちろんたった数分で判断できないことはたくさんあります。実際に使いこんでみなければ見えない真価もあります。ジャンクだから手を出してみた、やすかったけど綺麗だったから購入してみた、というものでも絶対に手放したくないお気に入りになることは少なくないのです。


 中古品を買うにあたっての選定ポイント、注意点についてはまた別の回で書きたいと思います。


本当のランニングコストについての話をしよう

(Bessa-r, Jupitar8 50mm f2, Velvia)


 初期投資はそれほど必要ないということはわかった。それで、ランニングコストはどうなの? というのはやはり気になる点かと思います。


 正直にいいましょう。現在、フィルムの値段は日々着実に上昇しているため、ランニングコストは決して安くありません。

 まずフィルムです。

 フィルムはおそらく最安値でも一本250円くらいが限界でしょう。少しよいフィルムを使用すると、たとえば前回ご紹介したPro400Hが990円/本、Proviaが1330円/本くらいになります。

 私の場合、フィルムは1~2週間、長い場合は半年くらいかけて一本撮るのでそれほどコストとは感じていませんが、一日一本あるいはそれ以上撮る場合、フィルム代は結構ネックになります。

 ただ、もしそれが辛いなぁという場合はデジタルと併用するのもありなのではないかなと私は思います。まずデジタルで撮ってみて設定を確かめ、それからじっくりフィルムで一枚撮る。そうすれば撮った写真はそれほど失敗もないですし、デジタルで撮った写真が記録になるのであとあとのレビューも簡単です。比較もしやすいでしょう。フィルムの特性、得意なことや苦手なこともわかります。
 要は自分の撮り方のスタンスをどうするかという話です。色々と試してみて、是非自分にあったスタイルを見つけていただきたいと思います。

(左:変わり種フィルムは現像後もすぐに分かる。右はVelvia100の現像後)

 撮り終われば次は現像です。

 現像は店によって多少変動はありますが、ネガはだいたい600円程度、ポジはそれより少し高いくらいです。もちろん希少フィルムで現像は海外でしかできないような場合は数千円かかることもありますが、普通のフィルムを使えばその程度です。

 現像だけでは現像済みのフィルムが手に入るだけです。DPE店にだすとプリントサイズをどうするかと聞かれるかと思います。ただ、ほとんどのDPE店は現像のみ、プラス500円くらいでデータはCD書き込み、という注文を受け付けてくれるので、これを利用するのがよいのではないでしょうか。そして気に入ったものや上手くいったものだけを必要ならプリントしてもらうのが低コストで写真を続けるコツです。

 CDへの書き込みは普通のDPE店ではだいたい300万画素程度なので、もしもっと高画素のデジタルデータが欲しい場合は、ひとまず作ってもらったインデックスの中から指定して1000万画素くらいにしてくれるサービスを利用する必要があります。一コマ千円程度になりますが、フィルムスキャナを買うよりは安いかな、と思います。
 量が多い場合はある程度高価格帯のフィルムスキャナを購入する(とはいえ家庭用フィルムスキャナの性能はあまり期待できません)か、工夫してデジタルカメラで撮影するのが無難でしょう。

(Pentax SP2, SMC Takumar 55mm f1.8, Velviaで樹の幹を撮影)


 Lomography Color Negative 100 = 280円

 現像のみ+店舗でCD-Rへ書き込み = 1,100円
 現像頻度は月に二回程度
 カメラは廉価版一眼レフでレンズ込みで8,000円程度で購入

 一年使用した場合
 8,000 + (280 + 1,100) * 12 * 2 = 41,120円


 SDカード16GB = 1,320円
 カメラはPentax Q7 標準ズームキット= 30,000円くらい

 30,000 + 1,320 = 31,320円

 もちろんフィルムはどう転んでもフルサイズカメラなので、同程度の画質を得た上での比較を考えると、多少楽観的な数字が出ます。たとえばNikon D600を例にしてみましょう。

 Nikon D600ボディ = 150,000円くらい
 Nikkor 50mm f1.8/G = 23,000円くらい
 SDカード32GB = 2,000円くらい

 初期投資 = 175,000円

 最安例で出したフィルムカメラで同じ金額だけかけるには121回撮影が可能です。月二回程度の現像であれば5年間。安いと見るか、高いと見るかはあなた次第です。

(Nikon U, Nikkor50mm f1.4, PRESTO400)


 というわけで、今回はランニングコストについての話でした。つい「フィルム写真はそんなにお金かからないよ」と言ってしまいがちなのですが、今回は偽らざる数字を出しています。もちろん趣味というのはお金では測れない価値があリますし、私自身HOLGAから写真を撮り始めたクチなので工夫をすればいくらでも工夫はできます。最初の方でも書きましたが、ぜひ無理せず楽しく続けられる自分のスタイルを確立していっていただきたいと思います。

 次回は中古カメラ・レンズを選ぶ際のポイントについて書きたいと思います。お楽しみに!


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