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ボケとツッコミ


歴史に残る名曲を作るぞ!と気負ってピアノに向かった作曲家が、名曲を残したためしはない。

逆に、出来など気にせず「何となく思いついたから書き留めてみました」「お風呂で鼻歌うたってみました」みたいな方が、思いもよらない名作が生まれたりするものだ。

作曲の初心者には、曲を作り始めてみたものの、どうしても最後まで曲が完成できず、なかなか曲のストックが増えない人が多い。けれどもそれは往々にして、単に、自分へのハードルが高すぎるだけだったりする。

初心者ほど「こんなサビじゃつまらない」「終わり方がどうも面白くない」などと、できあがりつつある曲に納得できず、途中であきらめてしまう。そして、また別の曲を新たに作り始めたりする。

これって自動車で言えば、さあドライヴだと走りだしたものの、思ってたほど眺めの良いハイウェイが見つからず、ウロウロと側道を走っているうちに燃料がなくなって停車してしまうようなものだ。

気に入らない道でもいいから、とりあえずハイウェイに乗っちゃってスピードを上げ、クルージングを始めてみる。すると案外、思いがけない絶景に出会えたりする。

そういえば、会議に「ブレイン・ストーミング」という手法がある。なにか斬新なアイディアが必要な時、少人数で集まり、思いつくままにアイディアを出し合うのだ。

このブレイン・ストーミングの大原則に「他人の意見を否定しない」というルールがある。

往々にして、他人の発案には「それって非現実的じゃない?」とか「前にも同じようなアイディアがあったよ」とか、ツッコミたくなるものだ。

けれども、それを許してしまうと、こんなこと言ったらツッコまれるんじゃないか?こんな思いつき笑われるんじゃないか?……と参加者の「アイディア脳」がどんどん萎縮してしまい、誰も何も話せなくなってしまう。

だからブレイン・ストーミングの間は、他人の意見をいっさい批評しない。とにかく思いついたことを吐き出し続ける。そして、アイディア出しが終わってから、あらためて内容を検討する。これがルールだ。

たとえば、ある種のお笑い芸なら、相方がボケた瞬間にツッコむスピード感こそが、ライヴ・パフォーマンスの生命線だろう。

しかし、パフォーマンスではなく「使えるアイディア」を精査するのが目的なら、あらゆる「ボケ」はいったん受け入れてストックし、後から一つ一つツッコミまくった方がいい。

そして、このように「段階を分ける」という考え方は、自分ひとりの作業にも応用できる。

たとえば作曲。

曲を作ってる最中に、自分の作ってるものを「こんなコード進行、ありがちだよなあ…」などと自分でツッコみ始めると、「作曲脳」は萎縮してしまう。

だから作ってる間は一切の批評行為をやめ、イタコとか霊媒みたいになっちゃって、とにかく「降りてきた」ものを次から次へとひたすら熱く書き飛ばすことだ。

その「降りてきたもの」が使えるかどうかツッコむ作業は、熱が冷めてからじっくり行えばいい。

世の中には、ものすごくセンスが良い「目きき」や「鑑定士」なんて大勢いる。だけど彼らが、なぜオリジナルな作品を創作することができないか。それは、ボケ力よりもツッコみ力の方が高すぎるからではないだろうか。

だから、ものを作ろうと思う人間は、ボケまくり、スベりまくるぐらいでちょうどいい。とにかくたくさん書き飛ばし、作り飛ばすことだ。

(そう思うと少しは気が楽になりません? 何か作ろうと思ってるそこのアナタ。)


(2014.11.16)

http://www.wonosatoru.com



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