シンプルな話だが、ゴルフはつまらない

 
 タイトルの通りだが、ゴルフはシンプルにつまらない。それはつまりスポーツとして、競技として面白くないという意味合いだ。完全に他の競技と比較して劣っている。それを、4つの観点から他の競技を例に挙げながら説明していく。

①動きの種類が少ない
 先述の「ゴルフは健康に良い」という話題において、ゴルフ特有の動きとは何か、それを僅かに言及した。陸上や水泳等の競争系以外の競技と比較して、これは本当に少ない。厳密に精査すると1種類しか無いのだ。お察しの通り、スイングこれだけだ。他のスポーツを例に挙げてみよう。サッカーは、パス・ドリブル・シュート・ディフェンス、バスケもパス・ドリブル・シュート・ディフェンス、野球はスイング・スローイング・ボールキャッチ・ベースラン、アメリカンフットボールに至ってはパス・キック・タックル・パスレシーブ・ラン・ディフェンス・ブロックとたくさんの動きがある。(それぞれの競技にディフェンスやランが入っているが、オフェンス側のボールマンにはドリブルやステップ等の特有の動きが発生するためオフェンス・ディフェンス共に、個別の動きとした。)これだけ個別の動きがあるとそれぞれが一つ一つの動作を極め、プレーヤー毎に個性が出てくる。バレーならスパイクが鋭い選手、ブロックが高い選手、レシーブが優しい選手、トスが正確な選手。さてこれをゴルフに当てはまると、スイングが綺麗な選手、これぐらいしか分類出来ないだろう。これに対する反論は何か、正直なところ簡単に予想がつく。ゴルフにもドライバー・ウッド・アイアン・ユーティリティ・パター、他にもバンカー・ラフ・フェアウェイ、ティーショット・セカンドショット・アプローチと色々ある、これらの得手不得手が個性たりうるのではないかというものだ。この反論を許すのであれば他の競技にもこれを当てはめてみよう。例えばラグビーのタックルを細分化すると、フロントタックル・サイドタックル・スマザータックル、他にもゴール前ディフェンスのフロントタックル、抜かれた相手に対して腕だけで相手の足を払うなんて技もある。指の力が強ければ相手の服だけを掴んで動きを止めて、タックルの代わりに出来るかもしれない。パスを細分化すると、ショートパス・ロングパス・バックフリップパス・パスダミー・オフロードパス・キックパス。ゴルフ側が幅を広げた分だけ他の競技はそれ以上に幅が広がるのだ。そう考えると、ゴルフは他の競技と比較して圧倒的に狭い世界でやっている。もはや、ゴルフが他の競技の多様性を超える事は絶対に起こり得ない。

②体を本能的な動かし方にさせない
 上記では、他の球技と比較して動きのバリエーションが少ない故に面白く無いと述べた。その上でさらにゴルフをつまらなくするポイントを述べるのなら、それは『脱力』だ。ドッチボールのスローイングと比較してみよう。ボールを思いっきり投げる時、自分の思うがままに思いっきり投げれば、たとえ運動音痴であっても本人なりの強いボールが投げられる筈だ。更に、とんでもない方向に飛んでいったとしても、少なくともその方向に力は伝わっていく。そこから更にフォームを修正していけばエネルギー効率が上がり、筋力をつければもっと上手くもっと強くボールを投げられる。対して初心者ゴルファーがフルスイングをするとどうなるか。マトモにボールが当たらなかったり、当たってもあらぬ方向に飛んでいく。道具を介する難易度はあるが、卓球やテニスであっても、力を伝える事自体は難しくない。ゴルフが上手くなるためには、必要なコツとして『脱力』が挙げられる。腕の力を抜いて体を回せば、遠心力で上手くスイングの軌道が形成され、ボールが飛んでいく。その上で力を入れるポイントを押さえてパワーを発揮すると、上達していく。らしい。
 対して、自分の思うがままの動きをすれば、それに応じて失敗に近づいていく。ここで一度、仕事におけるストレスの要因を引き合いに出す。仕事のストレスといえば「怖い上司がいる」「長時間労働」「退屈すぎる」「危険・過酷」等があるが、その他に「自己決定権が無い」も挙げられる。これは自分の仕事のやり方を自分で決める権利が全くなく、他者によって決められた動きを取るしかない状況だ。ゴルフの上達は、この「自己決定権が無い」状況に近い事を繰り返さなければならない。本能に任せた動作をするのではなく、ゴルフのコツ、ゴルフのセオリーに任せた動きをするしかない。他にも、バンカーに入れば「ボールの手前を打って砂を掻き出すつもりで〜」とか、坂道に落ちれば「左足を少し開いて、フェースを外に向けて〜」とか、あまりにもごちゃごちゃ考える要素が多すぎる。スイング一つするにも何かしらの手段・ノウハウ・攻略法に従う必要がある。これでは自分がゴルフをしているという感覚よりも、ゴルフの攻略法に従って自分が動かされているも同然だ。これでは競技をやっているだけでストレスが溜まる。
 更にもう一つ脱力に対する問題がある。人体の限界への挑戦だ。①でも②でも、常に球技と比較してきた。では陸上や競泳と比べてはどうだろうか。これらはただ走る、泳ぐだけに過ぎない。ゴルフ同様に単調で、ともすればつまらないという見方もできるだろう。しかしこれらには別の楽しみ方がある。それが記録だ。大会新記録、日本新記録、世界新記録、技術が発展する度にこれらは更新されていく。アジア人は黒人と比較して運動能力で劣っているという一般的な推測があるのに対し、ハードル走やリレーで海外に肉薄していく姿は興味を惹かざるを得ない。私自身、才能や能力にはある程度限界があってそれを打ち破るのは不可能であると考えている節があった。しかし、技術と工夫、他にもリスク選択等によってそれらを打ち破る可能性を示唆してくれたため、何事も才能という言葉一つで片付けるのは短絡的だと思わせてくれた。ゴルフはどうか。結局のところコースによって難易度は違うし、日によって天候は変わるし、条件にあまりにも統一性が無い。コース毎に新記録が出たとしても、人体の、人間の限界を超えるような新記録を出した訳でないため、そこには一切の感動も存在しない。逆に言えば、ドラコンはゴルフの挙動とほぼ同じだが、挑戦という面で面白味を感じられる。

③駆け引きがない
 ものすごく乱暴な表現をすると、ゴルフは球を打って穴に入れるだけの競技だ。サッカーも、足を使って枠にボールを入れるだけの競技だし、ラグビーも、ボールを前に進めて地面に置くだけの競技だ。しかしゴルフとこれ以外の一番大きな差は、相手がいるかいないかだ。確かにゴルフも、相手はいる。しかしそれは、作戦を仕掛ける相手、仕掛けてくる相手ではない。相手のアクションに対して自分の行動を選択する、自分の選択に対して相手が呼応する、なんてゴルフでは起こらない。私が言っているのは、その相手こそが先述の『相手』だ。サッカーならば、ワントップのディフェンシブな布陣に対して人数を掛けて強引に突破口を開く対策を取るとする。すると今度は守備は手薄になりがちだからカウンターが決まりやすくなる。しかし攻め立てる側が先に2点以上先取できたのなら後は引いて守ればかなり有利だ。このように、戦略とその対策は次々と折り重なり、無数のゲームプランが生まれていくだろう。ではゴルフには、攻撃的なゴルフ守備的なゴルフはあるだろうか。カウンターゴルフはあるだろうか。確かに、リスクを積極的にとっていくという意味で攻撃的、安全策を取り磐石に進めるという意味で守備的なゴルフは存在するだろう。それに、攻撃的なゴルフが成功し負けないために守備的ゴルフから切り替えたり、逆に攻撃的ゴルフが失敗し守備的ゴルフでその間に差をつけたり、そういった戦略的な呼応はある。ただし、その呼応は一層目で終わる。野球なんかと比較するともっと分かりやすい。盗塁が上手い選手が一塁にいる状況でストレートに強い右打者がいるとする。球速の遅い変化球を投げれば打者を打ち取る可能性は高まるが、盗塁は決まりやすくなる。しかし理想はゲッツーを取ることなので変化球を使ってゴロを打たせたい。打者はこれらの状況を把握しているので、ストレートが得意であっても変化球を狙う。最初に投げた球種によっては2球目に何を投げるのか読み易くなっていく。このように、本当に面白い競技は駆け引きがどんどんと深化していくのだ。野球も乱暴な言い方をすると、球を打って走るかボールを取って投げるだけの競技だ。しかしそれ以上のものがかなり詰め込まれている。対してゴルフは球を打って穴に入れるだけ。それ以上でもそれ以下でもない。

④下手なりに楽しむ、というのが無い
 最初の方でも述べたが、ゴルフについてネットで検索すると「最初のうちは難しいけど、上達すれば楽しくなる!」という主張が多いのが分かった。確かにどんなスポーツであっても最初の方は楽しむのが難しい面もある。しかしその上で、下手なりに楽しむ事が、ゴルフはダントツで難しい競技だ。そもそもあくまでも個人競技なので、自分のミスをフォローしてくれる人がいない。ただのフットサルの試合でも、人数合わせで呼ばれた初心者のミスを上級者が帳消しにしてくれる事はあるだろう。偶然にも良いポイントに走り込めたら、アシストがハマって点を決められるかもしれない。その点この競技は恐ろしいものだ。例えばバンカーから何打打っても出られなければ、自分のミスが自分に返ってきてどんどん辛い状況にハマっていく。ミスすればボールはあらぬ方向に飛んで行き、そのボールを自分で拾いにいく。打数は嵩み、負けが見えているのに試合は続けなければならない。偶然にも良いショットが打てても、次のアプローチで大ミスすればそのショットも帳消しになる。下手な人は、ただストレスが溜まっていくだけだ。大人しくフットサルをやっていれば、たとえボロ負けしたとしても相手のトンデモテクニックに感服して、負けたなりに面白味があるだろう。初心者にとってのゴルフの負けは基本的に自滅なので、負けたとしても「上手くいかなかった」「自分はゴルフが下手」という事実だけを突きつけられて終わりだ。もしこれがプロの試合で賞金がかかっていたり、学生が部活に入っていてプライドを掛けていたのなら、そこから立ち上がれるだろう。しかし一介の社会人がなんのメリットもなく勝ち負けもどうでも良いと思っているモノに対して、「悔しかったら上手くなるしかない」と思うのはどうかしている。私なら、そんな努力をしている暇があるならば他の勉強をしたらどうだと思ってしまう。


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